63,妖精達と専属
ベビールームに戻ると紹介された4人の専属メイドさんのうちの1人だけが部屋に入ってきた。
エナと一緒に専属メイド――ニージャが結成式兼専属メイドさん発表式で着ていたワンピースを脱がせてくれる。
立ったり歩いたり走ったりは出来ても、まだ1人で着替えるのは難しい。
今部屋には男性陣は当然いないし、いるのはエナとお婆様と専属メイドさんと妖精ズだけだ。
オムツも剥かれたあとは上に薄いレースのいっぱいついた肌着を着せられオマルの上に座らされる。
そういえば朝起きてからまだしていなかった。相変わらず、エナとお婆様に見守られながら応援される。
このオマルは実に高性能だ。匂いと音を完全にシャットアウトしてくれる。
最初は匂いだけかと思っていたのだが、してみるとよくわかる。あの……実に排出中という音がまったくしないのだ。
最初は戸惑ったけれど、慣れてくるとこれはものすごくありだと思う。音を消すために水を流し続ける人が生前の世界でもかなりの数いたのだから。
このオマルは詰まるところ、遮音と消臭という2つの効果を持つ魔道具なのだ。さすがはお金持ちの家だ、半端ない。
ちなみにクティは脱がされ始めたあたりで、キャアアアアアッァァアという激しい悲鳴をあげて、ものすごくいい笑顔で気絶してサニー先生に介抱されている。最近着替え毎に同じことをやっている気がするのは気のせいだろうか。
クティクオリティが高すぎるせいで日常の一幕となってしまっているのが玉の瑕だ。
でも、そんなクティも可愛いと思ってしまうのは最早重症の域なのだろうか……いやそんなことはないよね。
高性能オマルに大放出してエナに綺麗にしてもらうとオマルはニージャが運んで処理してくるようだ。今まではエナがやっていたが、これからそういった作業は彼女達の仕事になるのだろう。
綺麗になったお尻に魔力の流れがちょっとだけ見える不思議な粉をぱふぱふされて、新しいオムツをつけてもらう。この粉は甘いいい匂いとオムツとの摩擦や蒸れなんかを緩和してくれる効果を持っているベビーパウダーだ。
ベビーパウダーすら魔道具とか最早どうなってるのという域だ。
そして最近強制的に部屋着にランクアップした……耳パジャマを着せられる。
今日はとんがり耳とふさふさしっぽのキツネ風だ。
触った感じでは耳はしっかりと芯が入っていて毛並みはふかふかで気持ちいい。
専属メイドに選ばれてガチガチに緊張していたミラさんの尻尾よりは遥かに劣るがそれでも十分気持ちいい。
尻尾は同じ毛を使用しているのか肌触りは同じで、こちらは芯は特に入っていないが長さ的に立っても絨毯についてしまっている。腰に巻いてベルトっぽくするものなんだろうか。
着せてくれたニージャの表情は一切変化しなかったけど、魔力は雄弁に感情を語っていた。
この人も鼻を押さえて凝視しているドヤ顔様と同類だ!
恐ろしいほどに表情の変化がないけれど、魔力の流れは実にわかりやすい。色んな表情の時の魔力の流れをみている自分にしかわからないだろうけれど、実にわかりやすい。
この流れはつい最近に何度も見ているので特に印象に残っている。
鼻を押さえて空中で悶えているお妖精さまとも一緒なので比べるべくもない。
耳パジャマの威力はかなり高いようだ。
着替え終わったあとのお婆様にぎゅっと抱きしめられて、いやんいやんを毎回されてしまうくらいだ。
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紹介された専属メイドは4人のはずなのだが、どうやら部屋に入れるのは1人だけのようだ。
戻ってくる時には4人全員がお婆様の後ろについてきたのだが、なぜかいつまで経っても1人しか入ってきていない。今までメイドさんはほとんど入ったことがないのだからそれを考えれば快挙かもしれないけれど、広さ的には4人入っても十分な広さがこの部屋にはある。
実際のところ今までもお世話はエナだけで十分出来ていたというのもあるので、たとえ成長と共に行動半径が広がるとしても今のところは1人加われば十分なのかもしれない。
クリストフ家に仕えている以上メイドとしての錬度は相当な物だと思うが、それでも相手は幼児なのだから専門外であるという考慮と、慣れるという意味も含めて2人くらいからやるべきだと思うのだが……その辺も踏まえての選出なのかもしれない。
枠を勝ち取ったとお婆様は言っていたので、きっと厳しい試験があったのだと思うが実際のところはわからない。
着替えの手伝いの手際はエナに匹敵する良さだったし、終わった今は少し離れて背筋をピンと伸ばして身動き1つしない。
完全に背景と同化しているかのようなその様は無表情と合わさってちょっと怖い。もちろん背景は見えないが。
でも魔力の流れで内心悶えているのが丸わかりなので怖い中にも微笑ましさもあった。
今日はニージャが居るという初めての事態なのでずっとそっちばかり見てしまっている。
一先ず授業もお休みとなり、妖精ズも不思議そうに見ている。
「この人全然表情変わんないね」
「うむ。顔の筋肉が退化しているのか?」
「出来るねぇ~なかなかの腕前だよー」
「リリーのような微妙に表情が動くようなタイプではなく、完全なポーカーフェイスのように見えるな」
「筋肉のつき方と立ち方からみて~きっと馬に好かれるね!」
「半眼なのは恐らく生まれつきか……目が悪くなるぞ」
完全にかみ合っていない2人の会話だが、本人達は特に気にもせず話している。心の中でサニー先生が半眼について語るのか、と苦笑しながら自分も観察する。
ニージャはエナの胸にも届かないくらいに身長が低い。頭の上にはもこもこの丸い2つの耳。尻尾はスカートの中に隠してしまっているようで見えないけれど、たぶん短いんだろう。クマだし。
きっと丸いもこもこの尻尾に違いない。ぜひとももふらせてほしい。
短い尻尾は楽しめないかもしれないと思っていたが、ここにきて考えが180度くらいひっくり返っている。だって触れるかもしれないんだから。
もふれるならば自分の考えなんぞ、どぶに捨てて浚われてしまえ。
スカートの前で両手を合わせ背中に芯でも入っているかのような――身動き1つしない見事な立ち方。半眼はどこを見ているのかいまいち釈然としない。実力者であることは魔力の流れでわかっているので、自身の視線を読ませないことで動きを先読みされることを防ぐのが身に付いているのかもしれない。
これだけ隙のないお方の尻尾か耳をもふらせてもらうにはどうしたらいいのだろう……。
やはりご主人様の強権を発動させるしか……。
いやだがしかし……
しばらく凝視して悩んでいるとお婆様が後ろから抱き上げてくる。
「リリーちゃん、今日からあなたのメイドのニージャよ。さっき紹介したから覚えてますね?」
お婆様より頭1つ分くらい小さいニージャなので抱き上げられるとちょうど目線が同じくらいになる。
ニージャもこちらをその特徴的な半眼で見つめてくる。
彼女の瞳の魔力の流れは特に変化はない。焦点も自分の白い瞳ではなく、ちょっと上のキツネ耳になっている。
専属になった4人の中にもキツネ耳の語尾が間延びしている人がいたけど、その人を見たらどうするんだろうこの人……。
「……改めて、ニージャです。よろしくお願いします……お嬢様」
「にーにゃ」
深々と頭を下げるニージャに一言返すと彼女もそれに合わせて頭を上げる。
驚いて半眼がちょっと大きくなっている。だが、すぐにその半眼も元に戻った。さすがに鍛えているだけはある。
でもやっぱり目の焦点は顔じゃなくて頭の上だ。
そんなに気に入ってしまったのか。触らせてあげようかな……お返しに触らせて……。
などと、切り返し的な逆転の発想の作戦を考案しようとした時にお婆様に頬と頬をくっつけてすりすりされ、その思考も中断してしまう。
「ふふ……そうよ。この子は私のお奨めの子よ。仲良くしてあげてね」
お婆様の柔らかい声にコクリと頷くとそのままベビーベッドの横に移動してお婆様による朗読タイムとなった。
意識の1割程度で聞きながら、7割で再開されたサニー先生の授業を聞く。残りの2割はニージャに向けられている。
部屋に専属メイドさんが1人増えてもやることはあまり変わらない。
サニー先生の授業は相変わらず難しいが、クティのわかりやすい図解により十分理解できている。
最近の授業は魔術の基礎部分を解析した構造とでも言うべき物を教わっている。
わかりやすく言うと一種のプログラムのように感じる。一定の式と式の組み合わせで魔術は組まれる。
既存の魔術を行使する分にはこの解析部分は必要ないそうだ。
なぜならすでに " 完成している物 " を使うのが既存の魔術だからだ。
だが、自分が扱えるようになろうとしている魔術とはその先の解析した部分が必要となってくる領域。
1つのプログラムを組み上げるように、自身の望む形の魔術を作り上げる。
サニー先生の話を要約するとこんな感じだ。
もちろんプログラムなんて言葉は出てこない。自身が理解しやすいように解釈するとそういう言葉になるというだけだ。
だが、授業が進むにつれてどんどんその言葉が当てはまっていくのがわかる。
まさに魔術とはプログラムなのだ。
今日もお婆様達の声を聞きながら、魔術の知識を詰め込んでいった。
専属さんだからといって全員が部屋に入れるわけではないのです。
ちなみに気絶したクティは1分しないうちに即効復帰してきます。
その後は凝視です。凝視。
そろそろガールズラブのタグを入れるべきでしょうかね。
いやでもリリー的にはそういう感情ではないのでどうなんでしょうね。
クティに聞いたらきっとキャーキャーいいながらも頬を染めてポッってなりますね。結局答えてはくれなさそう。
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