62,妖精達と挨拶
目の前に進み出てきた4人の頭部には見るからにふさふさで、自分の瞳には煌びやかに神々しい光を放っている素敵装備が見える。
実際にはそんな光は放っていないだろうが、自分の目には見えてしまうのだから仕方ない。幻覚でもその光は確かにその存在を主張している。
その光り輝く最強装備を身に纏った4人は通常の8割増しで輝いて見えてしまっているんではないだろうか。
素敵装備がデフォなんだから、その割り増しも変な感じだがそう思ってしまうのだから仕方ない。
最早4人もの至高の存在が自分の専属という話だけで、思考がおかしくなってしまっている。
やばい! なにこの天国!
最高じゃない!?
壊れた思考はクティがその様に気づいて視線を魔力で防がれるまで戻ることはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「では自己紹介なさい」
「ラクリアです。よろしくお願いします、リリアンヌお嬢様」
「ジェニーですぅ。よろしくお願いしますぅ、リリアンヌお嬢様」
「……ニージャ、です。よろしくお願いします……お嬢様」
「み、ミラです! よろしくお願いしましゅ! リリアンヌお嬢様!」
最初の3人は全員優雅に一礼できていたけど、最後の1人だけガチガチに緊張していて、見事に噛んでいる。
もふらせて頂いた彼女だ。でもその様子もすごく微笑ましくて好感度はうなぎのぼりなので問題ない。むしろどんとこいだ。
ネジの間に油が足りないようなら、自分がたっぷりと魔力でさしてあげるよッ!
ぜひともまたもふらせて頂きたい。
ラクリアはウサギ耳がとてもよく似合う真面目そうな人だ。
キリッと引き締まった顔から、生真面目な感じがぷんぷんする。
ジェニーは語尾が微妙に伸びているおっとりさんな感じがするキツネ耳の人だ。
エプロンドレスから微妙に見えているふさふさの尻尾がおっとり感に拍車をかけている。
ニージャは半眼で眠そうな瞳が特徴的な、他の3人と比べてもずいぶんと小さいクマ耳の子だ。
でも魔力の流れが他の3人よりも遥かに綺麗だ。この流れはお婆様ほどではないけれど通ずるところがある。きっと実力者なんだろう。
最後のもふられた犬耳様は、ガチガチに緊張しているけどやはり毛並みでは他の3人を凌駕している。
少し距離があっても自分の瞳には魔力の流れが見えるのだ。その毛並みの並ではない具合は一目瞭然だ。
「……リリーちゃん、この4人は屋敷で自薦のみで募ったあなたの専属メイドの枠を実力で勝ち取った凄腕よ。
私が保証します。4人共きっとあなたの力になってくれるでしょう」
「お、お母様……?」
アンネーラお婆様がひそひそと声を忍ばせて話しかけてくる。
その様子にクレアがちょっと驚いて怪訝な声音をだしている。それも当然だろう。1歳半の幼児にそんなことを言う必要はないんだろうから……普通は。
「ふふ……昨日話したでしょう? リリーちゃんは特別な子よ。今の話だってきっと理解しているわ。
それに……ニージャを見たときの反応とミラを見たときの反応が、他の2人とは違っていたわ。
ニージャは私の作った訓練メニューを好成績で突破した本物よ。
ミラはリリーちゃんのお気に入りみたいだから仕方ないでしょうけどね」
「……その話は……確かにリリーちゃんは特別だと思いますけれど……。
……本当にわかったの、リリーちゃん?」
どうやらニージャは魔力の流れでわかったように実力者であることは確からしい。
だが、クレアのこちらの問いかけにはなんと答えたらいいのか微妙に困った。
でもお婆様も話したようだし、それなら自分が特別だというのを少しわかってもらった方がいいかもしれない。
専属になるメイドさん達や自分の騎士団の人達にも……わかってもらったほうがいい。
自衛に傾いていた天秤の主な理由は、自分を守る方法を確立することができなかったからだ。
今は騎士団もいるし、専属のメイドさんもいる。
お婆様という最強の味方もいる。
何よりも誰よりも信用でき心を許せるクティがいるのだ。
あ、サニー先生もね。
……だったら、長い付き合いになるだろう彼らに、混乱を来たさない為にも知ってもらうべきだろう。
「かーしゃま、おろちて」
「ぇ、ぁ、うん」
ちょっとびっくりしていたが、すぐにこちらの言葉通りに降ろしてくれるクレア。
今日の服装はシンプルなワンピースで胸元に星と太陽の刺繍が入っている。
腰の大きなリボンで留められたウエストには余裕がしっかりあって動きやすい。
小さな足には柔らかいパンプスを履いている。踵の丈が高くないタイプなのでバランスも問題ない。
ふわりと降ろされた地面にしっかりと2本の足でバランスを取る。
クレアが手を離しても倒れたりはしない。もう多少走るのだってお手の物なのだ。
とてとてと短い歩幅で4人に近づいていく。
後ろでクレアがはらはらしているのが、見ないでもよくわかる。
心配してくれるのは嬉しいが、これは自分で決めたことだ。
今やらなければ……いけないことなんだ。
4人の素敵装備のメイドさん達も驚いて注目している。
その後ろに整然と整列している騎士の人達も、テオもエリーもおろおろしている。
唯一お爺様は笑みを浮かべてこちらをしっかりと見つめていた。
「くりしゅとふけ、じじょ……りりあんにゅ、ら、くりしゅとふです。よおしくね」
まだまだ滑舌が怪しすぎるけれど、精一杯の挨拶をして足を揃えて右足を後ろに。ワンピースを両手で摘んで膝を折る。
カーテシーだけは自分でもびっくりするくらいうまく出来たと思う。
その瞬間背後からびっくりするくらい大きな拍手が響いてきた。
背後だけじゃない。前から――お爺様とテオとエリーも拍手をしている。
それを合図に騎士達とメイドさんの4人も拍手をしている。
「リリーちゃん! よく出来ました!」
「ゎ……」
大きな拍手の嵐の中で背後から一気に全員を見渡せるほどの高い位置まで持ち上げられた。
空中でくるっと回されて一瞬だけ無重力になるけれど、すぐ柔らかく捕まえられて一瞬で安定感が抜群だ。
もちろんこんな芸当を卒なくこなせるのはお婆様だ。
「さすが私の孫です! 立派な挨拶でしたよ!」
ぎゅっと力強く、でも壊れ物を扱うかのような優しさでお婆様が抱きしめてくれる。
視線の先にはクレアとアレクがいて、2人ともとても驚いて固まっている。
でもすぐに再起動を果たしたようで、小走りで近寄ってきた。
「リリーちゃん、すごいわ! いつの間にあんなが挨拶が出来るようになったの!?」
「すごいなリリーは! さすがはオレ達の子供だ!」
近寄ってくる間にすでに笑顔になっていた2人も口々に褒めてくれる。
こんなに褒められるとは思っていなかったのでびっくりだ。
「さすがはボクの天使だよ! やっぱり、リリーは最高だよ!」
「リリーならちゃんとできると思ってたわ! 素敵な挨拶だったわ!」
ガチャガチャと身に着けた鎧を奏でながら走ってきたテオとエリーも褒めてくれる。
その後をゆっくりと追うようにして着いて来たお爺様も満足げな表情でうんうん言っている。
こんなに褒められるとなんだか背中が痒くなってしまう。
「うむ。やはり君は大したものだ」
「リリーは私のなんだから当たり前よ! ふふん!」
特に表情に変化のないサニー先生とドヤ顔が素晴らしい光を放っているクティが背後の後光をものすごい量にしている。
【2人ともありがとう】
「私の方がありがとうだよー! いいもの見せてもらっちゃったからねー!
堂々とした立派な挨拶だったよーさすがリリーだよ!」
【名前言っただけだけどねー……それに滑舌もあやしかったし……】
「1歳半という年齢を考慮すれば、それは当然だろう。自らの立場を示せる十分な挨拶だったと思うぞ」
【ありがとうございます、先生】
「うむ」
満足げなサニー先生の横で後光がドンドン大きくなっていくドヤ顔様。
お婆様からクレアにバトンタッチして抱きしめられながら、益々大きくなる拍手の中で家族達からの賛辞と祝福の言葉はしばらく続いた。
1歳半の幼児が見事に挨拶をしました。
傍からみたらすごいことです。
リリー本人から見たらそんなでもないことです。
なのでものすごい褒められてびっくりしてしまったのです。
リリーの誰よりも頼りになる最強の味方が傍に居るだけでリリーは強気にヒャッハーです。
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