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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第4章 2年目 後編 1歳
62/250

56,プロローグ




 透けるほど薄い魔力で構成された羽。

 小さく今にも折れそうな手足。

 着せ替え人形のような細い体。

 その細い体でも出るところは大きく出ていて、締まる所はキュッと締まっている。

 半眼に開かれた眠そうな瞳には観察するような特徴的な鋭さを湛えていた。

 大きさや特徴、先ほどのクティの言葉から彼女は妖精族なんだろう。

 クティとは違う腰まで伸びる長い髪を鬱陶しげにかき上げ、その小さな口が動いた。



「私はサーニーン。世界の隣の森魔術研究所所長をしている。

 君のことはそこのドヤ顔馬鹿に嫌というほど聞かされた。

 君がこの馬鹿にやってみせた魔力操作に興味があってな。こんなところにまで足を運んだというわけだ」


「こんなこと言ってるけどね~本当はすごい興味津々で居てもたってもいられなくて、着いて来ちゃったんだよー」


「間違ってはいない。私の最大の関心事だからな。

 その為なら500年外に出ていない私でも外に出ることは厭わないさ」


「引きこもりだよねー」


「ひいこおい……ぁ、あらしは……んーんーあらし……んー……」


「あぁ無理しなくていい。君の体は明らかに幼児だ。

 まだ発達中なのだから滑舌が怪しいのは仕方ない。

 それに……君は魔力を操作して筆談ができるのだろう? そこに寝ている女性を起こさない為にもそちらの方がいいだろう」



 明瞭な滑らかな声で彼女――サーニーンはエナを差して配慮してくれる。

 クティから色々聞いているみたいだし、さっそくその魔力操作を見てみたいのもあるんだろうか。

 まぁどちらにしてもエナを起こすのは可哀想だし、筆談に切り替えよう。



【じゃぁこっちで。

 改めまして、リリアンヌ・ラ・クリストフです。よろしくお願いします、サーニーンさん】


「あぁ、サニーでいい。近しい者は私のことをそう呼ぶ。

 君はすでにクティと相当仲がいいようだしな。

 ……報告に帰ってきてからも、耳にタコが出来るほどに毎日君について聞かされたよ。まったくご馳走様なことだ」


「いや~」


【あはは。私も毎日クティのことを考えない日はなかったよ!】


「ほんと!? えへへへへ~。

 えへへへへへ~どうしよう~嬉しいなぁ~……もう……もうっ!」


 サニーの横でくねくねしていたクティの顔はもうすでに蕩けきっていて見ていてとても和む。

 おばちゃんよろしくバンバンとサニーの肩を叩いて、とても嬉しそうにしている。

 そんな様子を見ているだけで心に暖かい何かが広がっていくのを感じる。やはりクティがいるだけで自分の心は安定感抜群だ。



【クティが元気で帰ってきてくれて、すごく嬉しい。

 また一緒に居られるんだよね?】


「もちろんだよ! もう次の定期報告まで離れないからね! 絶対!」



 両手を腰に当ててドヤ顔だ。

 やっぱりクティにはこの顔が一番よく似合う。彼女の素敵なドヤ顔に思わず頬が緩んでしまうと、ソレを見たクティがいきなり顔に飛び込んでくる。



「あぁーんやっぱり可愛いよーリリー可愛いよー。

 むふふふーん……すりすりー可愛いよー」


【わわわ。クティびっくりするよー】


「うむ、なるほどな。これは確かにクティがおかしくなるのも頷ける。

 君はアレか。魔性の女の類か? それにその文字はクティが顔に張り付いていては見えないぞ。

 なるほど、筆談にはこんな弱点があったか。やはり色々見てみないことにはわからんものだ」


「すりすりすりー……もうこの可愛いの私離したくない~すりすりー」


【もぅ……クティってばー】



 冷静に分析しているサニーとは裏腹に、もう完全にこちらの出している文字は目に入っていないクティ。



 それにしても魔性の女って……。確かに普段頬を緩めることなんてないですけど……。

 最近は無口キャラだってやめたんだけど、無表情はすでに顔に張り付いているから意識するか、感情が強く発露しないと表情にでないっぽいんだよねぇ。



 しばらくサニーの突っ込みが入るまでクティは頬にすりすりを繰り返した。

 ちなみにそんなクティのすりすりが嬉しかったので、自分からやめさせることはしなかった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「それでだ。私はこいつとは幼馴染で腐れ縁だ。

 どんな因果か知らんが、生まれたときにはすでにこいつとこいつの双子の妹が傍にいた。

 あとは言わなくてもわかるだろう?

 こいつは昔からこういう性格だ。好きなことしかしないし、好きなようにしか生きられない。

 だから女王に選ばれたのに替え玉で妹を置いて逃亡するようなことも平気でする」


「いやーあの時作った変装魔術はいい出来だったねー」


【そんなことしてたんだ……ていうか、クティって女王に選ばれるほどすごいんだ】


「そうだよー! 私はすっごいんだからねッ!」



 ふふん、と鼻息荒く、くるっと回ってずびしぃ、と腰を捻って半身だけこちらを向け指差してくる。もちろん顔はドヤ顔だ。

 素敵過ぎて背後に後光が差している。もちろんクティの魔力で描かれているやつだ。

 それにしてもさすがクティだ。双子の妹さんも見てみたいけど、その妹さんを替え玉に置いていくなんて想像が簡単に出来てしまうのがクティクオリティだ。



「ふむ。こういう使い方もあるのか。

 しかし、この流れをこう持ってくるか。なるほどではこっちがこうなってる……なるほどなるほど……」



 魔力で描かれた後光を興味深そうに観察し始めたサニーがなにやらぶつぶつ言っている。

 研究所所長って言ってたから偉い人なんだろうけど、なんだろう……まさにマッドな方の研究者って感じがぷんぷんするよ。

 そんな2人の様子が楽しくてずっと見ていたいと思っていたら、ずっと同じポーズは辛かったのかクティの方が先に降参していた。



「うー……私の負け~」


「いや、まてクティ。魔力を乱すな。もう少しそのままでいろ」


「い、いやだよ! はいもうおわり!」


「む……。では仕方ないな……。

 定期報告に戻ってきたこいつが、やけに急いでオーリオールに戻りたがってな。

 だが、定期報告には手順があるからそうもいかんので、その間私のところに来て散々君の自慢話をしていったというわけだ。

 そこで私は君に興味を持った。だから来た」


【え、えーと。経緯はわかりました。でも私はそんなに興味をもたれるほどのことはできないと思うけど?】



 何事もなかったかのように話を続けるマイペースな研究者さんにちょっと面食らったが、クティの幼馴染だと思うとそれも納得できた。

 クティが全ての中心なのだ。

 クティクオリティに侵食された世界は、全てが彼女のために回るといっても過言ではない。

 いや過小評価かもしれない。彼女こそが世界なのだ。

 離れている間にこんなに彼女への想いが募っていたとは思わなかった。

 恋とは違う、何か。崇拝でも尊敬でもない……でもかなり近い。言葉に出来ない、でも確かに存在する感情。

 そんな名前の付けられない感情は暖かく、そして懐かしい。



「なに、君は気にしなくていい。君がこいつと一緒に筆談で会話したり、魔力の訓練とやらをしてくれているだけで問題ない。

 私はそれを観察させてもらえるだけで十分だ」


「そうだよーだから、リリーはいつも通りにしててくれればいいんだからー。

 あ、もしサニーが邪魔だったらすぐ追い出すからいってね!」


「まぁその時は甘んじて追い出されよう。君に迷惑をかけるつもりは毛頭ない。

 こいつに迷惑はどんなことでもかけて構わないが」


【あはは。本当に仲がいいんだねぇ。ちょっと羨ましいなぁ】



 チクリ、と胸が少し痛かったけど、でもそれより微笑ましくて負の感情にはならなかった。

 クティが楽しいなら自分も楽しい。それは彼女も一緒なのだから。

 だから、悲しい気持ちも同じ。彼女の悲しい顔は見たくない。



「2000年強の付き合いだからな。最早空気だ、気にするな」


「そうそう、なくても別にいいけどあっても別にいいっていう空気だからね!」


【妖精族は空気がなくても別にいいの?】



 食事の必要がないことは知っている。でも空気まで必要ないなんて、とことん生物として逸脱している存在のようだ。



「妖精族は魔力さえあれば生きていけるからな。

 その魔力ですら世界には満ちている。妖精族が死ぬということは世界の滅亡を意味するから、私達が死ぬことはまずありえないのだよ」


「えいえんにふめつー!」



 ドヤ顔がドヤ顔で素敵なドヤ顔になるお妖精さま。

 背後に出現した効果線が彼女を迫力ある格好良い妖精様に仕立て上げている。

 やっぱりクティがいるだけで、その場の空気が明るく楽しいものになってくれる。彼女がいなかった日々はもう思い出せないくらいだ。



「そんなわけだから、これからしばらくやっかいになる。

 存分に魔力を行使してくれたまえ」


【あー……その……今はお婆様がいるので、魔力訓練はあまりできないんです】


「なんだと!? どういうことだ!」


「お婆様~? リリーのおばあちゃんが来てるの? どんな人かな? 優しい? 怖い?」


【とても優しい人だけど、すごい実力者でね。魔力の訓練をしてたら感知したみたいであんまり人前でやらない方がいいって教えてくれた人なんだ】



 お婆様に注意されたあの日のことを思い出しながら、最強の仙人様のことを考える。

 お婆様に注意されたその日から魔力訓練は基本的に、お婆様がお風呂に行っている間にしている。

 1ハルス(時間)はゆっくりと入ってくるお婆様なので、その間に一気に魔力を圧縮させて消費しきっているが、総量がかなりの量になっているのでぎりぎりだ。

 これ以上総量が伸びると1ハルス(時間)では消費しきるのは難しいかもしれない。



「ふむ……なるほど。まぁでもそれは簡単に解決できる。

 というか、それも含めて私はここに来ている」


「そーだよー前に言ったでしょ? 専門家に聞いてくるって。

 サニーはその専門家だよ! きっと大丈夫!」



 半眼の瞳に自信が溢れるその様は、クティのドヤ顔に似ていたがはっきりと違った悪役な……ニヒルな微笑みだった。



4章開始です。


キャラが一気に増える章です。

管理が大変だぁ~。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。

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