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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第3章 2年目 中編 1歳
40/250

38,報告会のち魅惑と伝説





 理解できない謎の談義は未だに続いているようだ。


 圧縮魔力をぶち抜きのかなり広いエントランスホールで思う存分制御していると、変わらないのほほんとした口調で3人の理解不能生命体に終了を告げる人物がいた。



「あなた、テオ、エリー……その辺にしておきなさいね。

 リリーはもう飽きちゃってるわよ?」



 終始変わらない微笑とのほほん口調に理解不能生命体の3人が、我に返ったようにこちらを見てくる。

 まったくこの兄馬鹿、姉馬鹿、孫馬鹿共は……。



 うん? 兄馬鹿、姉馬鹿は兄弟に対して馬鹿みたいに甘くなっている馬鹿だから、兄馬鹿姉馬鹿なのだろうけど、孫馬鹿っておかしくないか?

 この場合、爺馬鹿か? だが孫馬鹿でもあってそうな気がする。

 自分の孫に対して馬鹿みたいに甘くなっている馬鹿だから、なんか合っている気もするのだが……。



 と、どうでもいいことを考察していると、ずっとエントランスホールで話していたことで使用人達も仕事に戻れずにいることに気づいたのだろう――エナが別室で続きをしましょうか、と促していく。


 エントランスホールから少し歩くと、先行していた執事さんがドアを開ける仕草をしてから、脇に控えるように移動する。

 典型的な老執事ではなく、若くまだ20代前半くらいの精悍な顔つきの青年執事さんだった。

 ドアを開ける仕草や、脇に控える時の流れるような動きはさすがはお金持ちの家が雇う執事といった所だ。

 ドアを開け脇に控えるという結構単純な動作なのだが、その技量が窺えるほどに滑らかさと華やかさを持っている。



 執事喫茶で働く機会があったら、指名数No1は堅いのではないだろうか。



 執事喫茶なんて行った事もないのでよくわからないが、彼にお嬢様こちらです、とか言われて手を取られた日には速攻で逃げ出すこと間違いない。

 メイドさんと戯れられるならまだしも、指名数No1の執事とか自分にとって何の得があるのかと。


 一般的な女性の方々には大人気かもしれないが。



 青年執事が鳩尾辺りに平行に右手を添えて、軽く腰を曲げている横を通り過ぎ室内に入っていく。

 外に出たような感じはしなかったので、室内だと思われる。

 中にはメイドさんと執事さんが数多く壁際なのか――一定間隔ごとに待機している。素敵装備(獣耳)の方も多数混じっており、残念なことに執事さんの中にもソレはいた。



 何度でも言おう、そんな執事とか自分にとって何の得があるのかと!



 あぁだがしかし、魅惑のもふもふワールドがこんなにも近くに……。実にワクテカが止まらない。

 迸るパトスがアンチテーゼしちゃいそうだぜ。



 意味不明な単語が脳内を暴走し始めていたが、魅惑の素敵ワールドには辿り付く事は無かった。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ふかふかのソファーっぽい物に自分を抱えたままのエナが静かに座り、その右隣にエリーが座り隣にアンネーラお姉様。エナの左隣にテオが座り、その隣に筋肉ダルマといった感じで腰掛けている。

 自分のすぐ隣という位置を、兄姉としては自慢の祖父母にも譲る気は無いようだ。



 しかしなぜ同じソファーに全員が座る必要があるのか……。



 メイドさん執事さんが控えている場所から考えても、この部屋はかなりの広さのはずだ。

 なのに一箇所に寄り集まるようにして固まっている祖父母達。

 久しぶりに会えた孫と早く触れ合いたいといった感じなのだろうか。

 わからないでもないが、なんというか狭くは無いが圧迫感が半端ない。


 テオやエリーも祖父母に視線を向けるのでなく、こちらを見ているし、祖父母の二人も言うに及ばずこちらを見ている。



 そんなに見られると穴が空きそうなのですが……いやまじで勘弁してください。



 瞬時に泣きが入りそうになってしまう。

 見られて喜ぶ趣味は持ち合わせていないのだ。



「ふむ……やはり、手紙通りの瞳のようだな。

 ……あれから何か進展はないのか? エリアーナよ」


「はい……歯がゆく思いますが、これといった進展もなく……むしろ、その……」



 凝視といって差し支えない強い視線を送っていた筋肉ダルマ――ローランドはどうやら濁った瞳の確認を行っていたようだ。

 瞳に関しては手紙で事情を知っているといったところか。

 エナも俯き加減に瞼を伏せながら、言いにくそうに答えている。

 濁った瞳だけじゃなくて、最近は昏睡もあったし心配させること請け合いなので答えづらいのだろう。



「……テオとエリーの前では話しづらいことか?

 ならば場所を変えるとしよう」


「いえ……二人も知っています。

 ……数日前に、半日ほどですが昏睡状態になったのです」


「な、なんだと!?」


「あなた。落ち着きなさい」



 ソファーの前にはテーブルがあったようで、それに痛そうな音を立てて突撃するかのように猛然と立ち上がった筋肉さん。

 エナの前まで瞬時に移動し、両手で肩を掴もうとしたところでのほほん達人さん――アンネーラお姉様に腕を掴まれ阻まれる。


 エリーの首の後ろに回されるように伸ばされたお姉様の左手に、軽く掴まれているようにしか見えないローランドの勢いは完全に消滅させられている。

 エナの膝の上に座っているので真横にあるその小さな手からは、見たことの無い動きをした魔力を視認することができた。


 どうやらこの脅威の達人さんの力は魔力が関係あるらしい。

 細かく流動しているはずの魔力が、均一に滑らかに、まるで隙間のない一つの結晶のような状態になっている。

 その様は美しく、力強く、そして灼熱の輝きを今にも放たんとしている。



 エントランスホールで感じた熱風の正体はこれだったのか。



 魔力の制御を1年半程行っている自分としては、この状態を再現することは今の自分にはまず不可能だと断言できる。

 一切の隙間が無い魔力などというもの自体、どれだけ圧縮を重ねなければいけないのか。

 しかもそれを美しく、灼熱の輝きを放つようにするなど……一体どれほどの技術が必要になるか。

 だが、そこまで考えて一つの結論に至ることが出来た。



 これは、魔術ではないだろうか?



 魔術はほとんど知らないと言っていいレベルの知識しかない。

 この美しい灼熱の結晶体を作り上げる術が、魔術にはあるのかもしれない。



 そんな考察をしているとアンネーラお姉様に諌められたローランドが、また咳払いをして元の位置に戻っていく。

 それを確認したからか、控えていた執事さんが2人近づいてきてテーブルの位置を元に戻していた。

 結構重そうにしていたのだけど、それに突撃をかましたこの筋肉は何のダメージもなさそうだ。つくづく恐ろしい耐久力だ。



「……ごほん、それでランドルフ殿の診察結果はどうなのだ?」


「はい、ランドルフ様でも昏睡の理由は不明だそうです。

 昏睡の少し前に熱を少しですが、出していましたがそれも関係はないのではないだろうかという話でした。

 病魔の類ではなく、魔術的なモノでもないそうで……今もって原因は不明のままです」


「そうか……だが、本人は至って元気そうなのが救いか」



 エナの話を聞いた筋肉が難しい顔をしていたが、こちらを見ると穏やかな表情に変化し、少し安堵するかのように吐息を漏らす。


 一つ気になったのは、魔術的な原因で昏睡に陥ることがあるのかということだった。

 話の内容的にそんなことがあるような流れだったが、もしくは呪いと似たような効果を持つ魔術もあるのかもしれない。所謂デバフってやつだな。

 相手に掛けて弱体化させる。抵抗力の低い幼児に掛ければそれだけで命を狙えるような類になるのかもしれない。



 だからこそのアレほど厳重な日常生活なのか。



「それで、そちらの方ではどうなのでしょうか?」


「あぁ……それは……だな」



 エナが聞き返すと、テオとエリーを見てから歯切れ悪そうにローランドはしていた。

 テオとエリーには聞かせたくない話であるかのようだ。



「……ローランド様、テオとエリーは独自に学園の図書館に申請を出して、瞳に関して調べるほど気に掛けています。

 ランドルフ様からも話を聞いていますし、話しても問題はないですよ」


「そうですお爺様。ボク達だってリリーの病気が治るように頑張っています! 是非聞かせてください!」


「お爺様お願いします!」


「……そうか」



 テオとエリーも自分の瞳に関して調べてくれていてくれたようだ。

 それにしても学園の図書館は申請を出さないと使えないようなところなのか。

 これはますます紙が貴重なのかもしれないな。

 いや……紙もそうだが所蔵されている文献が貴重なのかな? いつか行ってみたいところだな。



「この1年王国中を回って濁った瞳に関しての情報を片っ端から調べては見たのだが……。

 正直なところあまり芳しくは無い。ランドルフ殿が調べられたこと以上のことに関しては見つかっていないのが現状だ。残念ながらな」


「……そう……ですか」



 ローランドから語られたのは何の進展もないという事実だけだった。

 確かにこれではテオやエリーには聞かせても意味がない。ただ落胆させるだけだ。



「まぁ……そうしょげるな。何も良い報告がないわけではない。

 瞳に関しては治療に関する情報は手に入らなかったが、助けになりそうな物は手に入った」


「本当ですかお爺様!?」


「あぁ、もちろんだ。

 だが、手に入ったのがついこの間なのでな、もう少し時間がかかりそうなのだ」



 何やら濁った瞳を補助できるような物がこの世界にはあるらしい。

 生前の世界でも視覚障害者を補助する物はいくつかあったが、この世界には魔術がある。

 もしかしたら、生前の世界を上回る補助が期待できるのではないだろうか。



 おっといけない。期待しすぎるのはだめだ。ローランド達の話によれば1年も国中を回ってくれていたようだし、そんな期待が持てるような物が見つかったのなら、もっと喜び勇んでいてもおかしくないはずだ。

 つまりはそこそこ補助できるような程度の物なのだろう。ないよりはあった方がいい程度と考えておくのが無難か。



「まぁオレ達からはそんなところだな。

 おい、そこの君。この紅茶を淹れ直してくれ。少し冷めてしまった」


「かしこまりました」



 いつの間に出したのだろう――紅茶がテーブルと思しき物の上に置かれていたようで、それを飲んだローランドが淹れ直しを手近なメイドさんに頼んでいた。

 先ほどのテーブルの位置を直した際に置かれたのだろうか。アンネーラお姉様の魔力に気を取られていたからまったく気づかなかった。



 というか、少し冷めたくらいなら我慢しろよと思うが、この筋肉ダルマやはり金持ち思考なのだな。冷めた紅茶は飲めない! ってやつなのか。生意気な筋肉だ。



 そう思っていると、返事を返したメイドさんが何かを押しながら近寄ってきていた。



 そのメイドさんの頭には魅惑のアレと、ロングスカートに隠されたお尻の付け根からは伝説のソレが見え、一瞬で筋肉ダルマのことは脳内から消し飛んでしまっていた。








もう少しです。


何がってアレですよアレ。



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