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外伝29,教えてスカーレット先生 2

 本編に出てこないような設定が出てくるような出てこないような。

 リリーたちが作っているものの名称に関しては、彼女たちがなんとなくで命名しています。

 突っ込んではいけません。

 サブタイトルは本文とは関係ありません。



 それはある日のこと。


「ねぇ、スカーレット」

「なんでございますか、お嬢様? xyzは互いに素ですよ」

「いや、なんでxyzがでてきたのか知らないけど、新作は出さないの?」


 スカーレットは小説家。

 まだまだ紙の価値が高いリズヴァルト大陸においては、本というものは贅沢品であり、小説家という職業はそれほど多くはない。

 だが、そんな状況においてもスカーレットの書く本は高い人気を誇っている。

 ここ、オーベント王国だけではなく、リズヴァルト大陸にあるほかの三国でも読まれているのだから大したものだ。


 その内容は、正直なところかなり奇抜なものだと思うが、不思議と引き込まれる。

 そんなスカーレットだが、近年は新作を出したという話をとんと聞かない。

 もちろん、私の家庭教師をしているせいもあるだろう。

 まあ、家庭教師はフェイクで、実際にはミラと一緒に魔術無効化に対しての研究用の工作機械をいじっているのだけれど。


 家庭教師はフェイクだが、それを行っているのはレキ君の部屋だ。

 お婆様もエナも少し離れたところで見守っている。

 基本的には、幻術系の魔術をいくつも展開して私たちの動きや工作機械などは誤魔化されているけれど。


「新作、でございますか。では、こちらを御覧くださいませ」

「んぅ?」


 ミラに指示を出し終えたスカーレットが、私の疑問に対して提示してきたのは、とある設計図だった。

 端的に言うと、木材を粉砕して水に溶かして固める工程を機械化したものらしい。

 ……え、これ植物紙?


「色々と試作は重ねていたのです」

「確かに出回っている紙って、かなりゴワゴワしてるものね」

「ええ、あれに文字を書くのは慣れるまでは大変でございました。しかもなかなかに良いお値段がするのです」


 パソコンどころか原稿用紙もないこの世界だから、小説家が作品を書くには色々と苦労していたのだろう。

 特にスカーレットは転生者だから、紙の品質をなんとかしたかったようだ。

 和紙くらいまではなんとか自作できていたようだけど、それ以上となるとなかなか難しかったみたいだ。

 だが、今回私が製作してしまった3Dプリンターモドキで、スカーレットの計画は一気に進んでしまっていたようだ。

 もう、すぐにでも植物紙を大量生産できる段階にまでなってしまっているらしい。

 原料の買い付け先とか、そういった細かい部分は有能なスカーレットのことだから、クリストフ家の買い付け部門を顎で使ってなんとかしてしまいそうだし。


「ふむふむ……。これが実用されれば紙に革命が起こるけど、その辺は大丈夫なの?」

「ええ、いくつかの貴族が没落するでしょう」

「……だよね。スカーレット、やる場合はゆっくりやろう?」

「クリストフ家の後ろ盾があれば大した問題ではございません」

「……もうちょっと穏便に」

「目指せパルプ紙」

「時代飛ばしすぎじゃない?」


 大量に安くて高品質の紙を作り出せるのはいいことだとは思うけど、それによって既得権益が侵され、反感を買うのはよくない。

 ただでさえ、紙は値段が高いのだ。

 その分事業も大きく、利益も高い。取り扱っているのも当然、貴族。

 あまりやりすぎるとまずい。

 クリストフ家は爵位以上に力を持っているから、実際に後ろ盾となればなんとかなるかもしれないけれど、こんなことで危ない橋を渡る必要なんてない。


「まあ、冗談は置いておきまして。個人的に使う分には問題ないでしょう。植物紙の生産を行なってもよろしいですか?」

「個人的に使うだけならいいよ。でも、それで満足できるの?」

「いいえ?」

「……スカーレット」

「おっとミラが呼んでいるようです」

「……ぁ、もう。結局新作がどうなっているのかわからなかったなぁ。楽しみにしてるのに」


 かなり自由なスカーレットだが、越えてはいけない一線は理解しているはず。

 私がダメだと言ったものに関しては、強行して推し進めるようなことはしたこともないし、たぶん大丈夫だろう。

 いや、今回は個人的に使う分には了承したわけだから、植物紙の生産は始まる。

 あとは、それ以上の拡大をしないことを願うばかり。

 大丈夫だよね、スカーレット。信じてるよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの、スカーレット様。お嬢様のお相手はよろしいんですか?」

「問題ありません。ミラ、製造ファイルナンバー四四六の承認を頂きました。繰り上げ製造です」

「あ、はい。了解致しました。優先順位はどうしましょうか?」

「最優先です」

「は、はい!」


 こうしてクリストフ家で使用される紙の品質は一気に向上することになる。

 そして、ローランドお爺様の目に入り、本格的な事業として拡大してしまうのはまた別の話。



 おまけ


「私は個人的にしか使っていませんでしたよ?」

「はいはい、そうだねーそうでしたねー……もぅ、やり方がずるい」

「なにか?」

「なんでもないですー。それより結局のところ新作はどうなったの?」

「月末には発売予定でございます」

「ほんと!? じゃあ読ませて! それで今回のことは目を瞑ってあげるから」

「仕方ありません。お嬢様にそうまで言われてしまっては、このスカーレット、一メイドとして逆らうわけにはまいりません」

「そういえばスカーレットってメイドさんだっけ」

「何を今更、でございます」

「いや、だって、ねぇ?」

「ではいらないのですね?」

「そうは言ってないよ! ください!」

「まったくお嬢様は仕方がない方ですね」

「……解せぬ」

「ちなみにお嬢様。レーザープリンターの製作許可をください」

「……活版印刷じゃだめ?」

「ではせめて金属活字で」

「まあ、それくらいなら現行の技術とあんまり変わらない気がするからいいのかな?」

「言質、頂戴致しました」

「ぁ、もういない……まあいっか。読もっと」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「目の見えないお嬢様は、朗読してもらっていたからわからなかったようですね。この世界の印刷技術などまだまだだということを……ふふふ」

「あ、あの、スカーレット様?」

「なんでもありません。それよりミラ、製造ファイルナンバー七七八の承認を頂きました。最優先です」

「りょ、了解致しましたー! ……あ、あの、でも、スカーレット様。製造ファイルナンバー七七八が完成すると……写本のお仕事はなくなってしまうのでしょうか?」

「そういえば、ミラにも写本をお願いしていましたね」

「はい、ほかにも先輩方も楽しみにしていますので……」

「七七八が完成しても写本は続けてもらいますよ。あなたたちに頼んでいる分は特別なのです。綺麗な文字を書ける者だけを選んでいますから」

「そ、そうですかぁ……よかったです」

「外注している写本も他国への分に回しますし、七七八が完成しても失業するものはでないでしょう」

「そこまでお考えになっていらしたんですね! さすがです、スカーレット様!」

「……ローランド様に見つかったのは偶然でしたが、今回も同じようなことが起こってしまっては、さすがにお嬢様の信用を失いかねませんからね」

「?? そうなのですか?」

「そんなことより、作業を進めなさい、ミラ」

「は、はい!」


「……ふぅ。心配せずともお嬢様の信頼は裏切りませんよ、妖精さん」

「その言葉信じてるからね」

「……こわいこわい」



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