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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
244/250

218,エピローグ



 初めての世界の隣の森行きから約半年。

 私は未だに二度目の世界の隣の森行きを果たせずにいる。

 世界の隣の森から帰還した私を待っていたのは、情緒不安定になりかけていたエナを筆頭に、少し頬がこけたお兄様や目の下に隈を作っていたお姉様。

 食事があまり喉を通らなくなり、少し痩せたお婆様や、大事な書類を破り捨てて出発した場所で寝泊まりをしていたお爺様なのだ。


 たった五日の旅行でこれだ。

 お父様やお母様は、仕事で忙殺されていたせいで加わっていなかったが、もし仕事がもう少し忙しくなかったら追加されていただろう。

 帰還した日の夜には、忙しい中ふたりも駆け付けて盛大な帰還パーティが開かれたほどだ。

 まあもちろん身内だけだが。


 そんな状態の家族を見てしまっては、次の世界の隣の森行きなど言い出せるはずもなかった。


『でね! わたしは言ってやったの! 車の運転くらいもうできるって! そしたら鬼教官がこういったの! 坂道でエンストしているうちはだめだって! ひどいと思わない!?』

『それは鬼教官さんが正しいかなぁ』

『ええー! リリーなら味方になってくれると思ったのに!』

『そう言われてもねー。そもそもなんでマニュアル? 完全オートの車あったよね?』

『だってマニュアルかっこいいのよ!』

『あー』


 ただ、世界の隣の森との通信手段については、以前から確立していたのでこうして結構頻繁に連絡を取り合っていたりする。

 その相手はその時々で様々だが、最近は妖精族ともだいぶ仲良くなり、すっかりあちらの生活に馴染んだミーライルオリルとの通信ばかりだ。

 妖精族と仲良くなっても、サイズ的にも年齢的にも似たような子がいないのも原因だろうか。

 ……最初に私に懐かせたのが一番の原因かもしれないけれど。


『あ、やばっ! 鬼教官がこっちくる! また連絡するわ!』

『はいはい、またねー』


 彼女には、専属の担当官がひとりついている。

 竜族の精鋭の族長の子どもだけあり、彼女は割りと気が強い。

 ただ、きちんと周りを見る目を持っており、しっかり考えて行動できるだけの頭もあるので無茶はやらかさない。

 それでもやはり、竜族の力は子どもと言えども侮れない。


 だから担当官には私が提供した拘束用術式を持たせてあるし、常に監視もされている。

 だが、喜ばしいことに拘束用術式は一度も発動することなく半年が経過している。

 それもあって、今では多少担当官から逃げ回っていても怒られるようなこともない状態にまでなっていたりする。

 まあ、実際には監視の目からは逃れられてはいないのだけれどね。


 ミーライルオリルは、好奇心も旺盛で妖精族の街には見たことのない不思議なものがたくさんあるため、毎日楽しそうにしている。

 通信でも、見つけた楽しいものや、不思議なものを教えてくれる。

 今回のように、車の運転を練習したりもしているようだ。

 ただ、危ないので特に安全面に気を配られている車両でしかやっていないようだけれど。


 というか、彼女は私と同じくらいの体格なのに、車の運転とか大丈夫なのだろうか。

 明らかに子どもなのだが……。


「リリー、通信は終わりか?」

「ええ、今日もミーラは元気いっぱいのようです」

「それは重畳。では、昨晩送られてきた最新のデータの検証といこう」

「了解です」


 ナターシャたちに引き渡した悪しき種族だが、最初の一ヶ月で言語関連の問題はクリアされた。

 ミーライルオリルのときはサニー先生がいたからこそあの速度で解析できたのだ。

 他にも、嫌がらせのように複数の言葉を混ぜて使ってきていたようで、先生がいたとしても多少時間はかかっただろう。


 言語関連の問題がクリアされれば、次はミーライルオリルの情報通りに発言の真偽に悩まされた。

 ある程度は彼女からの情報で解決できたが、ミーライルオリルは族長の娘とはいえ、所詮は子どもだ。全てを知っているわけではない。

 もちろん、彼女が正しいといった答えが間違っている可能性もあるので、あくまでデータとして情報を集める程度に留めている。


 そもそも、悪しき種族やミーライルオリルは世界の隣の森やオーリオールとは別の世界の者たちなのだ。

 次元間移動魔術で自由な行き来ができるわけでもないので、急ぐ必要もない。


 結果的に、悪しき種族の調査はその能力の解明へと比重が高くなっていく。

 魔術旺盛の世界で、魔術を無効化するというのは危険すぎる。

 一応の対応策があるとはいえ、調査は必須だろう。

 その辺をより深く理解しているサニー先生の助言もあり、妖精族も悪しき種族を最上位の危険生物と認定している。


 本格的な危害を加えられたわけでもないのに、私が敵認定したことも今ではしっかりと理解されている。

 まあ、動きなんかが情報収集中のそれだったからっていうのもあるんだけれど。


 そうして、世界の隣の森から悪しき種族から得られた様々なデータが定期的に送られてきている。

 まだあまり調査は進んでいないが、物理的に無効化能力を調べるための実験器具も開発中だ。

 科学旺盛の世界で生きてきた知識をフル活用するときだろう。

 私よりもスカーレットの方がこういうことには詳しいので、彼女主導で実験器具は開発されている。


 そして、意外なことにこの実験器具開発に才能をみせた人物がいる。

 それはまたしてもミラだったのだ。


 実験器具開発用に、クティパッドにアプリを作ったところ、これがまたドハマリしてしまったのだ。

 基本的なパーツや動作パターンを製作、登録し、様々な状況で組み合わせて可動させるシミュレーター的なアプリなのだが、パーツや動作の製作が気に入ったらしい。

 この辺はゲーム制作アプリでも同じことをしていたので、何ら不思議ではないのかもしれない。


 その代わり、ゲーム製作をあまりしなくなったのもあって、レキ君がちょっと寂しそうにしていたのは面白かった。


 そうそう、この半年でミラは大出世を果たした。

 元々私の専属として交代制でメイドをやっていたが、完全に専属となり、メイドというよりは秘書というか助手というか、スカーレットの立場に近い感じになっている。

 スカーレットもエナの専属ではあるが、クリストフ家としては客人扱い。

 かなり自由に色んなことをしているが、それを許されるだけの立場なのだ。


 だが、この大出世に当人はただただ困惑。

 それもそのはず、クリストフ家のメイドはただでさえ、使用人の世界では最高峰のひとつ。

 その中でも、当主一族の専属はエリート中のエリートであり、さらに秘書役はその上に位置するのだ。


 しかし、私は妥当だと思っている。

 だって、ミラの才能勿体無いし。

 スカーレットの作業も、ミラのおかげでだいぶ楽になっているのだからもはや欠かせない。


 まあ、どちらかというと、私の秘書役というよりは、スカーレットの助手みたいな感じになっているけれど。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ところで、リリー。長距離探査魔術の方はどうなっている?」

「今のところ、有効範囲の拡大に伴う情報ロスの対策に手間取っている段階ですね。やはり、物理的な中継点を置く方が確実のようです」

「ふむ。では、白結晶騎士団を出すのか?」

「私の手駒のひとつですからね。私自身が出れない以上は彼らに行ってもらうのがベストでしょう。色々持たせられますし」

「だな。HULの3Aの対象値だが――」


 半年の間に、白結晶騎士団にはスカーレットとミラを通して様々な魔道具の実験配備を行っている。

 家族にこれ以上心配をかけるのは私としても心苦しい点がある。

 だが、私が動けない以上は誰かに動いてもらうしかない。


 スカーレットを司令塔に据えれば、基本的に任せられる。

 あとは如何に白結晶騎士団を強化するか、だ。

 最低でも、竜族や悪しき種族と対峙しても生き残れる程度には対策しておかなければいけない。


 何せ、彼らが向かうのは竜族の脱出派がオーリオールへやってくるだろう場所なのだ。

 ミーライルオリルの情報では、あと数十年は猶予があるようだが、それが正しいとは限らない。


 子どものミーライルオリルでも、結晶化する魔力のおかげで凄まじい力を発揮することができる。

 成長した竜族の使い手がどれだけ凄まじい戦闘能力を発揮するのかは、筆舌に尽くし難いものがあるだろう。

 クティが見せてくれた、山を吹き飛ばした魔力の絵。あれが現実に起こりえるかもしれないのだ。

 そんな凄まじい相手と対峙して生き残れるようにするには、様々な用意が必要だろう。


 悪しき種族に関しても、世界の隣の森に現れた以上はオーリオールに現れないとは決して言えない。

 まだ魔術無効化の対抗策はできていないが、まったく何もできないわけでもないのだ。

 これからも調査は進めていくし、いずれは完全に対策もしたい。


 いくつもの準備や調査、魔術作成を並行して行っているが、もちろんナターシャから頼まれていた次元間移動魔術の改良にも着手している。

 というか、宇宙服の魔術を次元間移動魔術に組み込むことで、安全に通過できるようになることは確定している。


 宇宙服の魔術が、圧縮術式を用いても私くらいしか使えない点や、消費する魔力の膨大さなど、まだまだ様々な問題は残っているがこちらは竜族や悪しき種族への対策よりはずっとマシといえよう。


 世界の隣の森から帰還して半年経つが、毎日忙しく過ごしている。

 六歳児としては働きすぎな気もするが、お兄様やお姉様の趣味に付き合っているおかげで気分転換はできている。


 ただまあ、最近ちょっと気になることがある。

 どうも、私の目が少しおかしいのだ。

 そう、濁った瞳に罹っている私の目が、だ。


 濁った瞳は、視力を完全に失い、一生目がみえることはない。

 そして、白く濁ったように瞳が変化するのが特徴の不治の病だ。


 ……なのだが――


「ねぇ、リリー……ここ半年で、目の色、なんか変わってきてない?」


 第二部 完



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