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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第二部 第11章 6年目 世界の隣の森編
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217,引き渡しと帰還



 色々試した結果、悪しき種族の拘束には魔術を排した物理的手段。

 無力化は、物理的ダメージを与えるものが一番効率が良いことがわかった。


 科学がほとんどまったく発達していないオーリオールでは、薬物ですら魔術を頼る傾向にある。

 医療に関しては民間療法以外だと完全に魔術、魔道具頼りになるので、化学薬品なんてものは望むべくもない。

 そして、私も科学よりも魔術寄りなので、そういった薬物を持ち合わせているわけもなく、作り出すことも難しい。


 つまりは、実験に際しても魔術頼りになってしまうのだから、魔術無効化を持つ存在に対する実験方法も限られてしまうということだ。

 まあ、その中でも一応の解決法を見いだせたのだからよしとしよう。


 ……ミーライルオリルから聞き出した、「物理で殴れ」という解決法とまったく同じことになってしまっているのは甚だ遺憾ではあるけれど。


「妖精族と同じように酸素を必要としない種族か試すのも難しいので、空気穴は空けてありますけど……」

「仕方あるまい。これが最善だ」

「お嬢様、敵に同情してはいけません」

「そう……だね」


 発見していた四体の悪しき種族全てが、今は空気穴を空けた箱に閉じ込められている。

 穴が空いているので中の音を聞くことはできるが、物理的にシェイクされて衰弱しているようで、その気力もないらしい。


 すでに土のドームは解体済みだ。

 破壊するのに少し手間取ったが、それだけの強度を持たせておいたのだから自業自得だろう。


 私が調べられる範囲には悪しき種族のような魔術無効化の能力を持った者はもういないようだが、まだ警戒は解いていない。

 とはいっても、警戒しているのはミラとスカーレットとクティだけれど。


 ミラとスカーレットは各自専用の魔具を持ち込んでいる。

 迷宮などで見つかる強力な武具を魔具というのだけれど、物理的に高い強度と性能をもつ魔道具の一種だ。

 ただ、人為的に作り出すことが難しいのでかなり希少なものだけれど。


 クティがいるけれど、ふたりは私の護衛の役目も一応あるので、クリストフ家で用意したものを持たせられているらしい。

 使い込んだ武器じゃなくても、相応の戦闘能力を発揮できるくらいにはふたりは強いので、魔具の性能も合わせてかなりの強さだ。

 ただまあ、ふたり合わせてもクティの足元にも及ばないと思うけれど。


 あとは、ナターシャ率いる戦闘部隊が悪しき種族を引き取りに来るのを待って帰るだけだ。

 ナターシャには実験結果を全て提供して、悪しき種族から情報を引き出してもらわないといけない。

 次元間移動魔術に関することでもあるし、あちらも張り切ってやってくれるだろう。

 その結果、悪しき種族がどうなるかは私の知ったことではない。

 スカーレットの言うように、敵対した以上は情けをかけるべきではないのだ。


 ここはもう平和な生前の母国ではないのだからね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「では、この者たちは責任を持って私が対処させて頂きます」

「よろしくお願い致します」

「良いのです、リリアンヌ様。これも私たち妖精族の未来のためです」


 連絡を入れておいたので、ナターシャはほどなくやってきた。妖精族の大部隊を連れて。

 魔術無効化能力を持つ悪しき種族が、世界の隣の森に現れたことを重く受け止めてくれたためだろう。


 漂流物を再現しているために、科学の結晶のような物が多く存在する世界の隣の森だが、実際には魔道具なのだ。

 魔術無効化が魔道具にどんな悪影響を与えるかは、まだ詳しくわかっていない以上、妖精族にとっても悪しき種族は大問題だ。


 闇との関係性も気になるところだし、どんな些細な情報でも引き出したいところだろう。

 竜族たちの星を襲っている白い霧と、世界の隣の森を喰らっている闇は類似する点が多いからね。

 特に星を喰らう点がまさに。


 ミーライルオリルも悪しき種族とは敵対関係にあるし、彼女からの情報も助けになってくれるだろう。

 嘘つきな悪しき種族なのだから、彼らから引き出された情報の真偽が問われることは間違いない。

 だが、ミーライルオリルという彼らをよく知っている味方がいるのだ。

 全てとはいかないまでも、いくらかは真偽を判定できるだろうから有用であることは間違いない。


 彼女は妖精族に保護されているとはいっても、正直なところ要監視対象でもある。

 私に懐き、さらには緊急拘束用の魔術をいくつも提供したことによって、彼女の監視レベルは最初の頃よりはかなり下がっている。

 それでもやはり、彼女は未知の存在であり、強大な力を持つ竜族なのだ。

 無条件で自由にできるわけがない。

 だがここで、彼女が妖精族に協力し、友好関係をさらに強く結べれば彼女のためにもなる。


 それに、私は彼女以外にも竜族をできれば助けてあげたいと考えている。

 もちろん、あのつやつやすべすべの角や鱗が魅力的なのもある。大いにあるが、それはそれだ。


 ミーライルオリルは話に聞いていたような、ただただ凶暴な存在ではなかったし、理性と優しさを持った私たちと何ら変わらない人間なのだ。

 情報が少なかったから誤解を招いていたというだけ。

 話してみれば実は大したことはないということは往々にしてあることだ。


 まあ、悪しき種族のように明らかに私たちを襲うために動いていたようなやつらは、前提が違うけれどね。


 それに、竜族も妖精族もどちらも故郷である星が崩壊しかけている。

 新天地を求めている者同士だし、どちらも強い力を持っている。

 もしもオーリオールにどちらもやってくる場合、その強い力というものは軋轢を生みかねない。


 いつまでも秘密にしておくことはできないだろうし、友好的な関係を築くためには誰かが仲介しなければいけないだろう。

 まあぶっちゃけてしまえば、その仲介役は私たちの役目なのだろうと思っている。


 だが、私ひとりでは正直な話難しい。

 家族を、クリストフ家を巻き込むことになるのは明白だ。

 家族への負担を減らすためにも、竜族にも妖精族にも大きな恩を売っておくのは良い手だろう。

 むしろ、その強い力をクリストフ家のために使ってもらえるのならば、歓迎すべきことなのかもしれないし。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 面倒なことを妖精族に押し付ける形になってしまって、多少心苦しくもあるが、大分時間を押している。

 遅くなれば遅くなるだけ家族が心配するし、本当にそろそろ帰らないとまずいだろう。


 正確な帰還時刻は告げていなかったけれど、きっと朝から待ってると思うしね。

 次に世界の隣の森に行く時のためにも、家族への心配は最小限にとどめておかないといけない。


 ミーライルオリルや、悪しき種族など、ここに置いていく案件は色々ある。

 全てを妖精族に丸投げするわけにもいかないし、ミーライルオリルとの約束もある。

 だから、また来ることは決定事項だ。


 ……それがいつになるかはちょっとわからないけれど。


「リリー、そろそろかえろー」

「はーい。では、私たちはこれで失礼させていだきます」

「ええ、それではまた」

「はい。また」


 ナターシャとの挨拶を済ませて、クティたちの下へと戻ると、すでに次元間移動魔術の準備は整っていた。

 術式の構築はすでに完了し、あとは最後の仕上げをすればいつでも次元間の扉が開ける状態にしてある。さすが、クティだ。

 無論、念のために行き同様に全員に宇宙服の魔術もかける。

 今回は少し測定用の魔術も追加しておくが、恐らく結果は予想通りだろう。

 その結果如何で、ナターシャからの依頼の大半は解決することになるだろうな。


 振り返ってみると、五日間という短い時間ではあったが、蓋を開けてみればかなり濃い内容ばかりだった。

 まだまだわからないことや、面倒なことも多いけれど、世界の隣の森に来てよかったと私は思っている。


 異世界に転生して初めての旅行が、まさかの別次元の世界というのもなかなかハードだとは思うけれど、それもまた良し。

 でも今度は、オーリオール……いや、リズヴァルド大陸……いやいや、まずはオーベント王国……の前に屋敷の外に出ることから始めないと……。

 何せまだ屋敷の外にすら、私は出たことがないわけだしね。


 今回の世界の隣の森行きで、多少は家族にも免疫がついただろうから大丈夫だろう……たぶん。

 ついているといいなぁ……。


 まあそれでも一度来た以上は、次に世界の隣の森に行くのはもっとハードルが低くなっているはずだ。

 それだけでもマシだろう。

 そうとでも思っていないと、なかなかにつらい。


 さあ、帰ろう。

 私たちの帰りを、首を長くして待っている家族の元へ。



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