21,妖精と初めての・・・と Part,4
熱が出てから3日目。
冒頭に戻……げふんげふん……ベビーベッドに軟禁状態が続く中、起きて朝食を食べた後、ランドルフ医師が来て診察してくれた。
「……ふむ、昨日よりも大分引いておるのぅ。
これならば、特に問題もあるまい。
" 癒しの青光 " も用意せずとも大丈夫そうじゃ」
額に手を当てたり、口の中を見てみたり、触診したりと色々やってから知らない固有名詞をご老人が口にする。
その固有名詞を聞いたエナは、ほっとしたように安心したと胸を撫で下ろしている。
思うにさっきの固有名詞は、何かしらの医療道具で状態が酷い時なんかに使ったりするんだろう。
自分ひとりで適当に推測して納得しても仕方ないので、当然クティに聞いてみる。
【癒しの青光って何?】
「勉強禁止!
治ってからっていったでしょー!」
腰に手を当てて、ずいっと顔を近づけてぷんすかしている妖精さん。
ちょっとくらいは教えて欲しかったが、どうにもこの妖精さん、融通が効かない。
まぁ、自分を心配してのことだから、仕方ないと諦めて。
【じゃぁ治ったら教えてね】
と文字を出しておく。
「もちろんだよ!
もう基礎の基礎からみっちり教えてあげるんだからね!
私は厳しいよー!すっごく厳しいよー!」
安定のドヤ顔さんが、無い胸張って鼻の穴を大きくしている。
そうこうしているうちに、ランドルフ医師は診察を終えて退室していった。
昨日はご老人を見てなかったけど、寝てる間に診察されてたのかな。
意識を一気に覚醒させるほど苦い薬も、昨日は飲んでも目を覚まさなかったようだしまったく覚えてないわ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日もベビーベッドでの暇な時間が過ぎる。
熱もないっぽいし、体調も悪くない。
思考はクリアだし、魔力も万全。
しかし、それはソレ、これはコレ。
エナが常にベビーベッドの傍にいるし、クティもベビーベッドのふかふかのシーツの上に座ってこちらをじーっと見ているし。
魔力文字を出そうとすると妖精さんが妨害して。
「ちゃんとねなさーい!
治りかけが一番あb――」
といった感じに昨日も聞いた内容を連呼するので、ほんとにすることがない。
エナはエナで一定時間ごとに、何度も額に手を当てたり。
「喉渇いてない?暑くない?寒くない?どこか痛くない?」
といった感じだ。
1歳児に返答を求めるのはどうなのよと、思うが心配で心配で仕方ないといった顔をずっとしているので、どうしたものやらといった感じだ。
普段はトイレに行く時はベビーベッドに移動させるだけなのに、今日は。
「すぐに戻ってくるから寂しくなったら、すぐに言うのよ!
途中でもすぐに戻ってくるからね!
洗面所のドアは開けておくから、すぐに叫ぶのよ?」
洗面所のドアは閉めようよ、と思うのだが、昨日のクレアもトイレの時は同じような感じだったので諦めるしかないようだ。
ちなみに、このベビールームと言うに相応しい部屋にはドアが二つあるようだ。
1つは廊下に繋がっているドア。
1歳の誕生日とアレクの誕生日の2回だけ、この部屋を出たので確定だ。
もう一つは洗面所になっているらしい。
入ったことがないのでよくわからないが、エナ達がトイレに行く時はそこに行っているし、ベビーバスもそこから持ってくるようだ。
でかい屋敷だと想定しているから、こういう部屋もあるだろうとは思うのだが、部屋に備え付けの洗面所があるっていうのは、最早ホテルとかそういうクラスの話じゃないんだろうか。
スケールを小さくすれば単純に下宿屋のような気もしないでもないが……それはないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなでお昼を食べて少し昼寝をしたあと、テオとエリーが帰ってきた。
今日は全力疾走はしていないらしく、どたばたという足音は聞こえなかったし、エナが言う前に手洗いうがいしてきたよと先制攻撃だ。
すぐに二人はベビーベッドに近寄り、エナから今日の具合やランドルフ医師になんて言われたのか聞き始める。
特に問題もないことを聞くと、大げさなくらいにほっとしたが。
「治りかけが一番危ないんだから今日も朗読はだめよ?
静かにしていられないなら、部屋から出て行ってもらいますからね」
と、ばっちり釘を刺さされていたが、二人も真剣な顔で頷いていた。
その後は、今日学校であった事を少し話してくれた。
暇だったので二人の話をもっと聞いていたかったが、エナがそろそろ部屋に戻って勉強しなさいと声を掛けてきたので、また暇になるなぁ~どうしよ~とか思っていたら。
「「今日はここで!」」
とぴったりの息で二人が言った後、何やらごそごそやる仕草をする。
「……もう……まったくしょうがないお兄ちゃんとお姉ちゃんね……。
静かにするのよ?」
軽く溜め息を吐いて、人差し指を立ててウインクするエナさん。
ちょ……可愛いすぎるですぞエナさん!
そんな普段はキャリアウーマンばりの大人の女性の凛々しさを見せるエナの可愛い一面にドギマギしていると、妖精さんが目の前まで移動してきた。
てへ☆ぺろよろしく舌を出して、瞼を同時に閉じたり開いたりを繰り返す。
あぁ……うん……ウインクできない人ってあんな感じだよね……。
仕舞いには指で片方だけ瞼を強制的に閉じて、てへ☆ぺろしていた。
彼女らしい実に残念な、てへ☆ぺろだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
静かに勉強しながら、こちらをチラチラ見ている二人をぼけーっと眺めていたら、ちょっと気になることを発見した。
以前から部屋で勉強するところは何度か見ているが、それほど注視したりしないので気にしていなかったのだが、今日は暇だったこともあり発見するに至った。
二人とも、教科書だと思われる本を読みながら、何かを書いているのだがどうもノートではないようだ。
ある程度書いた後、ノートを捲るのではなく何かを掴んで左右に押し付けて擦っているような感じだったのだ。
まるで黒板に書いたあと、黒板消しで消しているような、そんな感じだ。
朗読してもらっている本は大量にあるし、紙が普及していないとは思えないのだが、なぜノートを使わないのだろうか?
この家は大分お金持ちのはずだ。
そんな家で勉強にノートを使わず、黒板のようなモノを使っている。
これはつまり、ノートのような紙の勉強道具は普及していない?
生前住んでいた世界でも、大昔は紙は貴重品で勉強には黒板や地面に直接書いたりしていた。
つまり、紙は貴重品扱い?
そういえば、今まで読んでくれた本は幼児に読み聞かせるような内容では決してなかった。
溺愛といっても過言じゃないほど、愛されていると十分分かっているこの状況で、幼児向けの絵本をほとんど読まず、大人や中学生以上向けの内容ばかり読んで聞かされていた。
導かれる結論としては、本はある程度販売されているが、需要は富裕層。
それも、すぐに汚したり破いたりしてしまうような幼児向けではなく、長く大事に扱う大人向けの嗜好品。
ただ、どこの世界にも需要を無視した物は存在するので、あくまで一般的な見解の予想だ。
実際、多少幼児向けのような本も少しあった。
圧倒的に数は少なかったが。
製紙技術が未熟な文明レベルということだろうか。
いや……結論を出すにはまだ早い。
製紙技術が未熟なだけで、文明レベルが低いと決まるわけじゃない。
エアコンのような装置が存在するのだ。
未熟な文明レベルで作れるようなものじゃないはずだ。
あの暖房のような装置は、暖房だけではなく、冷房も備えている。
というか、一定の温度を保っているような環境コントロール能力を保持している。
これだけ見ても、決して低い文明レベルではないはずだ。
チグハグな技術に混乱させられるな……。
もう少し、大きくなり、自由に動き回れるようにならないとどうしようもないだろう。
目も見えないし、情報を集めようとするなら一人では限界がある。
やはり……会話を可能にする状況を早めに作らなければいけないか……。
と、そこまで考えて別に急ぐ必要なんてどこにも無いことに気づいた。
別に命がかかってるわけでも、必要に迫られてるわけでもない。
そう思ったらなんだか力が抜けてしまった。
「はぁ~」
「……ねぇエナ……やっぱり、リリーがつまらなそうだから、本読んであげちゃだめかなぁ?」
つい力が抜けて溜め息を吐いてしまったのを、テオが勘違いする。
「そうねぇ……確かに安静にしてなきゃいけないっては言われたけど、1歳ちょっとの赤ん坊にじっとしてろっていうのは可哀相よねぇ……。
あぁ……でもそれで、また体調が悪くなったら……あぁ!それだけはだめだわ!
だめだめ!
最低でもランドルフ様から許可が出るまでは禁止よ!禁止っ!」
「「……はぁーい」」
テオとエリーがお願いエナお姉ちゃんビームを発していたが、彼女を陥落するには威力が足りなかったようだ。
その後も、何度もチラチラとエナを上目遣いに見る二人だったが、最後までエナの鉄壁の " リリーの体調が少しでも悪くなるようなものは排除しますよ壁 " を打ち破るには至らなかった。
そんな様子を適当に眺めながら、暇を潰して今日もまったり過ごしたのだった。
ちなみに、最後の抵抗としてテオとエリーの二人は毛布のようなものを持ち込んで。
「「今日はここで絶対寝る!」」
と、譲らずエナも渋々折れたのだった。
冒頭は当然18話ですね
いつまで続くんだと長い話ですがまだ続きます
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