外伝18,舞い踊る天使達
本編にまだ出てきていないような、世界設定が若干出てきます。
そういうのが嫌な人はブラウザバック推奨です。
ステップステップバックナッコー!
オーベント王国から第1級魔術師が新たに誕生した。
その人はクリストフ家の魔道具職人で、変人。
ものすごく気持ちは分かるけれど、私の大事な妹を天使と呼ぶのはこの私――エリスティーナ・ラ・クリストフを倒してからにしてほしい。
その変人が第1級魔術を行使できるようになったのも私の大事な大事な妹のためだというのだからちょっとは許してあげる気持ちになるけれど、第1級魔術師になったら普通は国を挙げてお祝いされるもの。
でもこの変人はやっぱり変人で。
当然の如く王宮からの呼び出しを却下。
まぁ私も私の可愛い可愛い妹の為に色々としてあげる時間を潰されるのはすごく嫌だからわかる。
それでもお母様達を困らせるのはいけない。
だから私の優しくて可愛くて素晴らしい妹が説得にあたったのだけど……。
一言で片が付いたみたい。当然よね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
変人が王宮にあがって今後の予定をお母様から聞いたときに珍しい予定があることがわかった。
それは舞踏会。
オーベントの貴族達は実力主義者が多くて、古い家の力だけの傲慢な貴族は大分淘汰されているんだけど、それでもオーベント以外の国には古い貴族達が多い。
そういった貴族達は豪華絢爛な舞踏会などを度々開いているそうだ。
国を挙げて祝うので当然他の国からも賓客が呼ばれる。
そうするとそういった貴族達も割と多く来るそうだ。
だからオーベントではあまり開かれない舞踏会も開かれる。
舞踏会なので当然ダンスパーティもある。
そう、ダンスなのだ。
一応嗜みとして習ってはいるけれど、披露する場所も機会もあまりないので興味がなかったけれど思ってしまったの。
私の可愛くて優しくて素晴らしくて天使で聡明な妹と一緒に踊れたらどれだけ楽しいのだろうか。
さぁ今から特訓よ、テオ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いたっ」
「ご、ごめん……」
「いいから、ほら次は右右左ターン」
「う、うん……と、ほ、りゃ」
もう何度目になるかわからないほど足を踏まれて慣れっこになってしまったわ。
私はすぐに覚えたステップもテオはなぜか覚えられない。
訓練ではすぐに色々な剣技を覚えるくせにどうしてこういうのは覚えが悪いのかわからない。
「はい、そこで手を上げて私を回す」
「とう!」
「いたたたた、テオ!」
「ご、ごめん……」
どうして軽く上げるだけでいいのに勢いよく振り上げるのかわからない。
テオは私に恨みでもあるのかしら。あるなら相手になるわよ。
「ステップステップターン」
「う……よっ……ほりゃ」
「大分うまくなってきたじゃないの」
「さすがに何度エリーの足を踏んだかわからないからねぇ」
「でも、そろそろその気の抜ける掛け声をなんとかしないとね」
「う……。でもこれ出ちゃうんだよぅ」
「リリーの前でもそんな声出すの?」
「そんな格好悪いことできるわけないだろ!」
まったくこのバカ兄は……。
リリーのことになると普段の弱気はどこへやら沸点がとても低くなる。
でもリリー本人が居る時だと絶対こんな大声はださないけれど。
「うるさいわねぇ。だったらほら、練習練習!」
「もちろんだよ! ステップステップステップ!」
「声でてるって」
「む、難しい!」
もうすぐそこまで迫ったリリーの誕生日に向けて可愛い可愛い妹と踊るための練習は訓練以上の白熱さを帯びていく。
なんとか声を出さずにスマートに踊れるようになったテオだけど、見る人が見ればそれは上辺だけなんとか取り繕った程度のものだとすぐにわかる。
まぁ目的は高度に洗練されたダンスを披露することじゃない。
それでも格好悪い所は見せられない大事な相手だ。否が応でも真剣になる。
私の大事な大事な、命より大事な妹と楽しく踊るために。
ダンスなんてしたことないあの子の手を取って一緒に舞う為に。
私の叱責は今日も広いダンスホールに木霊する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
テオが急にうまくなった。
何があったのかと思うほどに突然のことだった。
昨日練習したときは時々少しだけ声がでていた酷いステップが今日になったら急に華麗な足捌きになっていたのだ。
「……何があったの?」
「えーと……ほら、エリーって格闘技の訓練してるじゃない?
あの動きを真似してみたら……ね?」
「……あー」
テオのいう事がちょとだけわかった。
私も格闘技の足捌きはダンスに通じるものがあると思っている。
だから私はいくつものステップをすぐに習得できたし、曲に合わせて相手の動きを受け流し、苛烈に攻め、崩し、舞わせることができる。
確かに通じるものがあった。
「でも今日になってどうして突然?」
「いやぁ昨日の訓練の様子を見ていて急に、ね」
「ふーん。まぁいいわ。出来る様になったのならなんでもいいもの」
「そうだね。これでボクの天使の前で恥をかかないで済むよ!」
「私の、よ」
「ボクの、だよ」
「私の!」
「ボクの!」
「はいはい、2人とも。その辺にしておきなさい」
「「お母様!」」
「ダンスの練習をしているっていうから見に来たのに、喧嘩していてはだめよ?」
「「はーい、お母様」」
お母様もダンスは嗜みとして踊れるのだけれど、宮廷魔術師をしているのであまり他の国に行くことはないので披露する場所も機会もない。
まぁダンスなんて私のリリーと踊る以外に使い道なんてないんだからいいんだけど。
「お母様も一緒に踊りましょう?」
「それはいいアイディアだよ、エリー」
「そうね。久しぶりだからちゃんと踊れるかしら」
「大丈夫よ、お母様。私がリードしてあげます!」
「あらあら、頼もしいわぁ」
「ぼ、ボクも大丈夫だよ!」
「ふふ……よろしくね、2人とも」
「「はい!」」
「あ、でも私の、リリーちゃんよ」
「「えー」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
遂に私の……私達の可愛くて優しくて聡明で天使でリリアンニュウム成分で……とにかく例えようもないほどの私達の妹の3回目の誕生日がやってきた。
いつも以上に笑顔で嬉しくなってしまう。
自分の誕生日なのに使用人の人達や私達を喜ばせてくれるリリー。
本当にこの子はすごいわ。
気合を入れていないと鼻血で倒れてしまうわ。救護室に担ぎ込まれたら大事なリリーの誕生日に一緒にいられなくなっちゃうし、あれだけ練習したダンスを一緒に踊れなくなっちゃう。
我慢よ、エリー! 我慢なのよ!
なんとか気合でピコピコ動く耳や尻尾や羽達の猛攻を潜り抜ければダンスの時間だ。
まずはリリーの前でお披露目。
今日まで必死に練習を重ね、習得したステップを曲に合わせて刻んでいく。
時に激しく、時に静かに。
優雅に湖面を滑るように舞う一羽の白鳥のように。
リリーに見てもらえているだけでまるで背中に羽根が生えたかのように体が軽くて、体の隅々までわかる。
足の指の先から頭の天辺まで全てを意識化に置くことができる。
テオもきっと同じだ。
練習の時以上に鋭く、優雅に舞っている。
2人で支えあうようにされど競い合うように、己を高めあうかのように舞い踊る。
曲が終わり、リリーに向かって優雅に一礼をすると私達の天使は満面の笑顔で拍手をしてくれていた。
もう気分は最高潮よ!
私の大好きな大好きな大大大大大好きなリリーが笑顔なのよ!
その上小さなお手手で一生懸命拍手をしてくれている。
もう可愛すぎて憤死してしまいそうだわ!
でもここで憤死してしまってはこれまでの苦労が水の泡だわ。冷静になるのよ、エリー!
テオと頷きあい、次の曲が始まる前にリリーをダンス場まで転ばないように優しく誘導する。
ここからが本番。
私達の全てが試されるわ。
全身全霊でもって全力で、あなたとこの一時を精一杯満喫します!
でも私達の大好きな優しくて可愛くて美しくて聡明でネコミミピコピコの妹を楽しませるのが最大の目的。
そこを忘れてはいけないわ。いいわね、テオ!
さぁ、リリー一緒に踊りましょう!
今日の主役はあなたなのだから!
当然のように踊っていたテオとエリーでしたが、実は必死に努力を重ねていたのです。
まぁでも才能の塊のような2人なので普通より圧倒的に早い習得速度でしたけどね!
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