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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第2章 2年目 前編 1歳
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12,妖精と毎日と




 生後12ヶ月と10日が過ぎた。




 妖精と初めて会った日から彼女は毎日部屋に遊びに来る。


 毎日窓をすり抜けて、すぐに自分のところに飛んでくると何かを喋ってからサムズアップしてドヤ顔になる。

 相変わらず何を言ってるのか、まったく聞こえないので、とりあえず小首を傾げてからサムズアップしておく。


 このサムズアップを周りに居る人は、少し不思議そうにしてたけど、問題ないようで特に何かあるわけではなかった。

 むしろ微笑ましそうな感じで見ている。




 最初は手をサムズアップの形にするのに、ちょっと苦労した。

 毎日のにぎにぎ訓練を続けていたのに、サムズアップを作るには時間を要したのだ。

 恐るべしサムズアップ。


 この調子ではチョキを形作るのはもっと難しいのではないだろうか。




 とりあえず、これが妖精と自分の間でのいつもの挨拶。

 喋っている内容も


  " おはようだぜ私の顔が見れるなんて光栄だろう "


  とか。


  " 今日もきてやったぜ嬉しいかガキんちょ "


 とか言ってるんじゃないだろうか。

 だってドヤ顔だし。



 挨拶の後は、身振り手振りで色々ジェスチャーを行っていく。

 サムズアップとかの簡単なやつならわかるんだけど、どんどんパントマイムチックになっていっているので、何がなんだかわからない。

 パントマイムもかなり下手だし……。


 それでもやりきると、かいてもいない汗を拭く動作をしてドヤ顔だ。

 いや、汗は見えていないだけかもしれないけどさ。

 魔力(仮)がないので、汗は見えないのだ。



 短い付き合いだけど、汗をかいてないってのは半ば確信してる。




 意味が通じているかどうかは、彼女にとって問題ではないらしい。

 ドヤ顔で締めくくったあとに、小首を傾げて全然わかりませんよーの合図をしても、アメリカン宜しく " ふーやれやれ " な感じでむかつく顔をしながら首を竦めて振るし。



 そんな感じで挨拶からパントマイムタイムを経過して、毎日一緒に朗読を聞いたり、魔力(仮)の訓練をしたりする。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 テオとエリーは誕生日の次の日から、アレクと同じように自分たちのことをなんとか呼ばせようとしている。

 言葉の練習が朗読の前や、休憩するときや、夜寝る前とかにあるのだ。


 自重を決めたので、とりあえず普段は無視して、たまに、あーとかうーとか適当に言っておいたりもする。

 徐々に徐々に慣れさせよう。

 あまり目立つのも危険だ。


 なんせこの家、自宅に100人規模の人数が入るパーティルームのような部屋があるのだ。

 しかも1歳の " 3人目 " の子供の誕生日に、今まで一度もあったことない人達が、100人規模でくるんだ。

 それだけで十分親の立ち位置ってのが推測できる。

 相当な金持ちかお偉いさんだ。


 まぁまだ親戚がちょー多い家系って線もあるけど、それはどうかと思うし。

 100人規模の親戚が誕生日に集まるって……どんだけ仲良いんだよ。



 まぁそういうわけで、ただでさえ目が見えないというハンデがあるのだ、目立つことは極力避けなければいけない。

 いつまでも部屋に閉じこもっているわけにもいかないわけだし、外にまったく出ず、引きこもるっていう選択肢はなるべく取りたくない。

 でも、目が見えない金持ちの子供なんて居たら絶好の鴨でしかない。

 治安状況もよくわからないわけだし、なるべく名前が売れないように目立たず静かにしているべきだろう。


 作戦は


  " 命大事に "


 だ!



 ガンガン行こうぜなんて、自分にとって勇気などでは決してない!

 ただの無謀だ!


 はき違えてはいけない、はき違えてはいけない!


 大事なことなんで二回言いました、えぇ二回言いましたとも。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 今日も妖精と一緒に朗読を聴いている。

 彼女は、戦闘描写や掛け合いなんかになると興奮した感じにはしゃぐし、悲しい場面の描写になると悲しそうにしゅんとしてしまう。


 彼女の声は聞こえないけど、こちらの声は聞こえているということだろうか?

 だったら意思疎通も大分楽になりそうだなと思ったけど、すぐに思い直す。




 自重しようと決めたばかりじゃないか。




 自分の周りには常に誰かいる。

 その中で話しかけるのはちょっと難しい。


 でもやってみる価値はあるんじゃないかと、タイミングを図っているのだけど早々そんな機会はこない。


 なのでちょっと冒険しようと思う。


 冒険内容はこうだ。

 最近数歩だけど安定して歩くことが可能になったので、エナしか居ない時に、予め走行予定地点を手探りで危険物がないかどうかを確認した上で、掴まり立ちと見せかけてダッシュして距離を取り妖精に小声で話しかけてみるのだ。


 すぐにエナに捕まるだろうから、迅速に行動せねばならない。

 もちろん妖精の位置も重要だ。

 近ければ置いていってしまうし、遠ければ障害物でたどり着けないかもしれない。

 まだバランスの微妙な時期で、きちんと動けるかなんともいえないし、予め走る予定の場所を掃除しておいても抜けがある可能性もある。


 なんせ魔力(仮)がないものがほとんどだ。

 危険がいっぱいどころではない。

 危険しかないのだから!



 とは言っても、そこは視覚障害者の赤ん坊の部屋。

 そんなに危険な物は当然置いてないし、床はふかふかの絨毯で転んでも安全だ。

 いつも読んでくれる本も、読んでいない時はきちんと本棚に収納されているようだし、大丈夫だろうと判断した上での冒険だ。



 まぁそれでも危ないことは危ないので、中々踏ん切りが付かなかったりもした。



 けれど、実行することにする。


 這い這いしながら、走行予定のルートに転がっている物を排除していく。

 走行終了地点でお座りして妖精にここに居てと、絨毯をぽんぽん叩いて伝える。

 なかなか伝わらなかったが、根気よく絨毯を叩いてそこに座った彼女を確認すると大きくうんうん頷く。


 そして彼女はというと、やっぱりドヤ顔だ。



 もう見慣れたもんだぜその顔、このドヤ妖精めっ。


 そして一旦走行開始地点に戻って、必ず傍についていてくれるエナも誘導する。

 のだが、妖精もなぜかついてくる。



 意味つたわってねぇえええええ!




 がっくりと、四つん這いになって嘆きのポーズ。

 しかし、そこで諦める自分ではない。

 何度か同じやり取りをして、妖精をお座り待機させるのに成功する。



 これだけで大分消耗したよ……。





 さて、舞台は整った。

 あとは、ダッシュで妖精に近寄って話しかけるだけだ。


 ベビーベッドの柵に掴まって、立ち上がる。

 エナはそんな自分を見て、いつバランスが崩れてもいいように支える準備にかかる。


 その瞬間柵を押して、勢いそのままにダッシュ!



 1歩、2歩、3歩……そしてズサー。



 派手にヘッドスライディングを決めてしまった。

 エナが悲鳴を上げたけど、とにかく作戦を遂行する。


 幸い、妖精は目の前にいた。


「よーせーしゃんきこーう?きこーらみぎてあげて」


 小声ですばやく妖精に伝える。

 ちょっと、舌足らずなのはこの際仕方ない。

 派手にヘッドスライディングしてちょっと動揺しちゃったし。



 ヘッドスライディングにびっくりして、彼女はわたわたしていたけど、聞こえたはずだ。

 あとは右手をあげてくれるのを待つだけだ。


 なのだが、すぐにエナに抱え揚げられてしまう。


「リリー!大丈夫!?怪我は!?」



 お座りさせられて、そのまま体を色々触られる。

 自分がどこも痛がらないので少し安心したのか、ほっと息を吐いて自分を抱きしめるエナ。


 そこまで心配するとは思わなかったなぁと、ちょっと悪いことをしたと反省しようと思ったのだが。


「大丈夫そうだけど、あとでランドルフ先生に診てもらわないといけないわ!」


 少し大げさだなぁとも思った。

 ランドルフ先生は、いつも往診してくれる医者のご老人だ。



 そんなエナに呆れつつも、とりあえず作戦の結果を確認しようとドヤ顔さんを探すと、あっさり見つかった。


 ちなみにドヤ顔ではなく、心配そうな顔をしていた。

 右手は上げていない。


 しばらく、彼女を見ていたが特に変化はない。

 じっと見ていると心配そうな顔から、小首を傾げた疑問の顔に変化し、最後にやっぱりドヤ顔になった。

 両手の位置は腰、ない胸張ってのドヤ顔だ。


 当然、右手は上げていない。



 これはだめだったのかなぁと思ったけど、とりあえず彼女が帰るまでは結論を急がないことにした。



 もし声が聞こえてないなら、朗読聴いててもつまらないとも思うんだけど。

 どうなんだろうなぁと思ったが、雰囲気を楽しんでいるんだろうか。


 朗読してくれる時の、テオとエリーはそれはもう生き生きとして、生命力に満ち溢れているのだから。

 なんせそれぞれの趣味と得意分野と愛しているとさえ、十分にいえる系統の本を朗読してくれるのだ。

 それを嫌がらず、むしろ催促するようにお願いしてくる自分が、可愛くて可愛くて仕方ないといった感じもあるのかもしれない。


 楽しい描写は楽しそうに、悲しい描写は悲しそうに、表情豊かに声の緩急もつけて、実に多彩に読んでくれる。

 雰囲気を楽しむとしても十分な気もしないでもない。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 今日の朗読者はエリーで、草花愛好家の彼女のチョイスは



  " 宿根草の冬季の生態に関する考察 ~株分け編~ "



 論文めいたタイトルの本だが、内容はまんま論文だった。


 さすがに論文を多彩に読むのは難しいようだったし、訓練に費やす比重が9割になるほど興味が惹かれなかった。





 最近の魔力(仮)の訓練は、一度に大量に魔力(仮)を放出し、素早く制御するといった趣旨で行っている。


 大量に放出する理由としては、素早く制御しようとすると少ない量では回数が少なく訓練にならないのと、大量に放出しないと全然残量が減らないのだ。

 総量がかなり多くなってしまったようで、とにかく大量に放出して消費しないと増加が見込めない。

 しかも、体力はそこまで多くなっていないので、小出しに放出すると先に体力の方がなくなってしまう。


 ちなみに残量の把握は結構曖昧だけど、身体的な疲労と似たような感じで。


 満タン付近は元気いっぱいで絶好調な感じ。

 9割~3割辺りまでは普通。

 2割以下になると魔力(仮)的な疲労を感じ始める。

 1割以下で魔力(仮)的な疲労を、ずっしりとかなり感じる。

 枯渇ぎりぎりで意識が飛びそうになる。


 枯渇すると意識が飛ぶので、枯渇を魔力(仮)残量0と仮定して残量感覚を定義してみたのだ。



 魔力(仮)的な疲労は身体的疲労と似ているが明確に感覚が異なり、混同することは今のところない。

 枯渇すると意識が飛んで失神状態になるのは、体力が減少しすぎたときと一緒だ。

 でもこの残量計測法も曖昧な部分が多いので、過信しすぎるのは禁物だ。

 枯渇ぎりぎりまで減少させないでも2割切れば、総量が増えることは確認済みだし、枯渇ぎりぎりのはずが意識が飛んだことだってある。




 総量の増加については最近の悩みの一つでもある。

 贅沢な悩みだが、悩んでる自分にとっては結構問題だ。

 まだ対策が取れるのでなんとかなってはいるが、将来大量に放出しても底を尽かなくなって総量が増加しなくなるんじゃないだろうか。


 そんな感じで訓練をしていると、妖精が伸ばした魔力(仮)を追いかけて捕まえようとしたり、柔軟性を瞬時に変えて硬化させることでびっくりしたり、魔力(仮)に興味津々なご様子だ。


 素早く制御してるので、硬化させたのをすぐ軟化させたり、広げて包んだり色々あるバリエーションをランダムで行っていくと、とても喜んでくれる。

 ちょっとしたアトラクション状態だ。


 こっちも楽しくなってくるので、いい訓練になっている。

 辛い訓練よりは楽しい訓練の方がいいのは当然なのだ。



 放出した魔力(仮)の制御残数が0になると、魔力(仮)は霧散消滅するので、そのタイミングで大体彼女はドヤ顔になる。


 ほんと好きだなこのドヤ妖精。


 あんまり調子に乗らせるのも、癪なので霧散してもすぐに放出してアトラクション再開である。


 そんな感じで魔力(仮)残量1割くらいになるまで、訓練は続く。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 今日の訓練は朗読終了より、だいぶ前に終わった。


 そのあとはまったりと妖精と一緒に論文を聞いていたけど、あんまり理解できなかった。

 論文なだけあって、専門用語が色々でてきて意味がよくわからなかったし。




 でも、読み終わったあとの妖精の表情は、希望と期待と他何かが溢れんばかりのキラキラしたものだった。


 理解できたのだろうか……ていうか聞こえてるよね?聞こえてるよね!?








 ちなみに、右手は最後まで上がらなかった。





ドヤッ(ドヤ



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3/10 禁則処理修正

4/24 誤字修正

5/3 誤字修正

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