外伝1,ボクと天使
本編にまだ出てきていないような、世界設定がでてきます
もしかしたらネタバレになるかも、そういうのが嫌な人は読まないことをお薦めします
外伝は読まなくても本編は楽しめると思います
ボクの名前はテオドール・ラ・クリストフ。
オーベント王国第3王立学園初等部3年。
将来は騎士になりたいと思っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学園の授業が終わると、2つ下の妹のエリーと真っ直ぐに家に帰る。
たくさんいる友達達も授業が終わると大体すぐに家に帰る。
ほとんどの友達が家の手伝いをしなければいけないからだ。
ボク達はちょっと違う。
ボク達が真っ直ぐ家に帰るのは、今年生まれた妹と早く遊びたい為だ。
生まれたばかりの頃は、ラシッドモンキーみたいだと思った。
母様や父様は可愛い可愛いと言っていたけど、ボクとエリーはそんなに可愛いとは思えなかった。
だってラシッドモンキーだよ?
真っ赤な顔とほとんど毛の生えない裸の小さい猿類を、可愛いと思ったことはない。
そのことをエリーと二人で話したときは、やっぱり同じ意見だった。
でもすぐに母様と父様が可愛いという意味がわかった、というか可愛いなんて言葉だけじゃ言い表せない。
ボクとエリーは2つしか違わないから、物心付いた頃にはエリーはリリーほど赤ちゃんではなかったし、他の赤ちゃんを見たこともなかった。
当然エリーもみたことがない。
エナの赤ちゃんは流産したって母様が言っていた。
流産の意味がわからなかったボクは母様に尋ねた。
" 赤ちゃんが死んじゃって生まれてこなかったの "
とても悲しそうな顔で言っていたのが印象に強く残っていた。
だからボクはエナの赤ちゃんについてはもう、聞いちゃいけないんだと強く思った。
エリーにもボクが思ったことを話して二人で約束もした。
だから、初めて見る赤ちゃんだったリリーに触ったりするのはちょっと怖かった。
恐る恐るほんとにゆっくりと頬を触ったら、リリーはそのボクの指を小さな手で握ってくれた。
小さくて弱くて、でもとても温かくて柔らかい。
これが赤ちゃんなんだと、ボクは感動したのを覚えてる。
それと同時に、さっきまで可愛いなんて思っていなかったはずなのに、とてもとても愛しくてリリーの周りに花が咲き乱れ天使のようだと思った。
ボクは一瞬で8歳下のこの子の虜になってしまった。
エリーもボクと同じだったようで今までみたことないような、学園のクラスメイトやボクの前では大人ぶって優等生をしているはずの妹の顔は、庭にある大好きな花壇の世話をしている時以上の顔をしていた。
その日から毎日、ボク達は授業が終わったら真っ直ぐ家に帰り、自分たちの寝る時間になるまでリリーの傍にいるようになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日のことだった。
リリーの瞳がボク達の瞳とは違っていて、白く濁っていることに疑問を持って母様に聞いたときのことだった。
リリーの瞳が濁っているのは、病気のせいだと言われた。
どんな病気なのか聞いた時の母様の表情はとても悲しそうだった。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、後悔したけれど大事な妹のことだからちゃんと聞かなきゃいけないと思った。
じっと母様の目をみて、言葉を待つ。
少しの間を置いて溜め息を吐いた後、母様は話してくれた。
" 濁った瞳 " に罹ると一生目が見えなくなるのだと。
ボクは目の前が真っ暗になった気がした。
" 一生、目が見えない "
母様がまだ何か言っていたけど、ボクは覚えていない。
じゃぁボクの大事な妹は、ボクやエリーや母様や父様やエナの顔も見れないの?
ボクが大事に世話している庭の樹木達も、屋敷のたくさんある部屋においてあるボクが世話している観葉樹達も見れないの?
たくさんのことが頭の中を駆け巡って何も考えられなくなった。
頭が熱くなって、体から力が抜けて、気が付いたらベッドの上だった。
母様の話だと、リリーの病気の話の途中で突然熱を出して倒れてしまったそうだ。
今も頭が痛いし、顔も熱い。
丸一日寝込んでいたらしく、授業は休んでしまった。
寝ている間中、ずっとリリーの顔が浮かんでは消えて浮かんでは消えていた。
夕方になり、エリーが帰ってきたときに母様が部屋を出て少ししたら、入れかわるようにエナも様子を見に来てくれた。
その時のエナとエリーはとても興奮していた。
ボクが理由を聞こうとする前に、普段はゆっくりと静かに喋るエリーが、早口で捲くし立てる様に大きな声で教えてくれた。
なんと、普段まったく笑わない、泣かない、言葉も喋らないリリーが、エナが読んであげた本に声を上げて喜んだのだ。
しかも、読んであげていた本が、ボクの本でボクが何度も何度も読み返した。
" 世界の観葉樹全集 "
だったのだ。
それを聞いたボクは熱なんて、どこかに吹っ飛んでしまった。
ベッドからすごい勢いで起き上がり、エリーに飛び掛るようにして、激しく肩を揺さぶりながら事実を確認する。
驚いて目を見開く妹が壊れた人形のように、何度も何度も頷く。
その後はもう止まらなかった。
エナが、まだ寝てなきゃダメだと止めるのも無視して、この本はどうだろうか、こっちの本はどうだろうか、と本棚に入っている樹木や観葉樹の本を引っ張り出した。
正気に戻ったエリーも、じゃぁこっちの本もあっちの本もと自分の本棚から愛読書を引っ張り出し始める。
あれもこれもと、二人で大騒ぎした。
呆れたエナが。
「気持ちはすごくわかるけど、まだ寝てなきゃだめよ?本を読んであげるのは元気になってからよ」
という言葉でやっと我に返り、ベッドに戻った。
ちょっと恥ずかしかったけど、それ以上に興奮していて、ベッドで寝ているのが苦痛なくらいだった。
その日はベッドの中で。
「リリーはボクと一緒で観葉樹が大好きなんだ」
と悶えて中々寝れなかった。
翌日も大事をとって授業はお休みしたのだけど、熱もすっかり落ち着いて、エリーが帰ってくるのをまだかまだかと待っている。
抜け駆けは許さないわよ!と約束させられたからだ。
エリーもリリーのことが大好きだ。
ボクが天使のようだと思っているように、エリーも同じように思っているといっていた。
神に祈りを捧げる様に、両手を組んでキラキラした目でいっていた。
すごくよくわかる。
ボクとエリーは同じだとすごくすごく思った。
エリーとは仲が悪いわけではなく、むしろよかったと思っていたけど、この日を境にもっともっと仲良くなれたと確信した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リリーに本を読んであげるのは、大事な日課になった。
リリーはボク達が来るとすぐに本を読んで欲しいのか、ベビーベッドをばしばし叩いたりじーっと見つめてせがんでくる。
最初はただ構って欲しいのか、本を読んで欲しいのかわからなかったが、ただ構うだけだとすぐに抜け出して本を探そうとする。
ボク達の天使は目が見えないから本を探すのも手探りだ。
怪我をしないようにすぐ傍で見守っていると、玩具を見つけても興味がないのかすぐに放って探し物を再開する。
本を見つけるとばしばし叩いてボク達の方を見る。
目が見えないと、耳や空気の流れとか気配とかで人の位置を察することが出来るって母様がいっていた。
そうやってリリーはボク達の位置を把握しているんだと思う。
どこに移動しても的確にそちらを向き、ばしばしとお願いされる。
本を読むのは一日ごとに読み手を変えて、順番にローテーションしている。
ボク、エリーの順だ。
読み始めて間もない頃、一度だけ順番を無視して読もうとしたことがあったのだけど、その時は読み始める前に生まれて始めてエリーにひっぱたかれた。
その後に、どれだけリリーに本を読んであげることを楽しみにしているのかと延々と説教された。
ボクも同じだから素直に謝って、すぐに仲直りした。
仲直りしたあとに。
「テオは一回休みだからね!」
と順番を飛ばす宣言をされた。
悪いのはボクなので仕方なかったけど、エリーがこんなにちゃっかりさんだとは思わなかった。
エリー怖い子!
エナもボク達がいない時に、自分の好きな本をリリーに読んであげているそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
毎日の本の読み手をリリーは間違うことがない。
毎日順番に読んでいたら、覚えてくれたようだ。
本の種類もたくさんあるのだけど、ボクは気に入ってる本は何度も読み返すので、つい一度読んであげたことのある本を読んでしまったことがあった。
普段読んであげるときのリリーは、手足をにぎにぎしてるだけで静かに聞いているんだけど、その時は手を大きく振ったり、ボクの手をばしばし叩いたりしてきていた。
どうしたのだろうと思ったけど、エリーにその本前に読んだわよ?って言われて初めて気が付いた。
違う本にしたら手足をにぎにぎして静かに聞き始めてくれた。
一度読んであげた本では毎回こんな感じになる。
本の内容を覚えている?
まだ1歳にもならないのに、ボク達の天使は天才なんじゃないかと思う。
いや、天才だ!
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エリーが分厚い小説を読んであげたことがあった。
最後の方で、最初に仲間になった仲間が死んでしまうところで、部屋に集まっていたみんなが泣いた。
ボクも泣いた。
リリーも泣いていた。
ボク達の天使はやっぱり内容を理解しているんだ。
そのことを母様に聞いたのだけど。
「赤ちゃんは周りが笑っていると笑うし、泣いていると泣いちゃうから内容を理解して泣いていたのではないと思うわ」
あなたたちも同じように、周りと一緒に泣いたり笑ったりしていたのよ?と教えてくれた。
母様は聡明で優しく、とても尊敬している。
そんな母様の言葉だし、そういうものなのかとも思ったのだけど、ボクは違うと思っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日もボク達は本を読んであげる。
いつか本だけじゃなくて、本物の樹木達に会わせてあげたい。
庭の木達はボクが手入れしている。
リリーが樹木の本に興味を持ってくれてからは、その手入れに一層力が入った。
でもボクは知っている。
ボク達の天使は目が見えない。
触ったり匂いを嗅いだりはできるけど、ボクの手入れした美しいその姿は見ることができない。
だから、ボクはリリーを部屋から連れ出したりしたことはない。
姿が見れなくたって樹木達を楽しむ方法はあるとはわかっているのだけど、とても悔しい気持ちになるんだ。
それでも本を読んであげていると、声にも表情にもでないけど、喜んでくれている感じがわかるようになってきてからは、興奮してつい言っちゃうこともある。
その度にボクは悔しくて悔しくて、自分の無力さをとてもとても悲しんで落ち込んだ。
でも、ボクがそんな風に落ち込むとリリーはすぐに、ボクの顔に手を当てて撫でてくれる。
ボク達の天使は、とても優しい。
温かい手に触れているだけで、悲しくて悔しい感情はどこかに飛んでいってくれる。
ボクは騎士になるのが、夢だ。
ボクは騎士になったときに、その剣を捧げる相手をもう決めている。
今日もボクは、天使に本を読んであげる。
兄のテオのお話でした
果たして、彼の剣は受け取ってもらえるのでしょうかね
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