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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第1章 1年目 0歳
10/250

10,エピローグ






 我慢……そう我慢しなければいけない。


 今自分を取り巻いているこの状況はそういう状況だ。


 悪意など欠片もない。



 それどころかみんな優しさとか慈愛とか、そういう温かい感情でそれを行っているのだ。





 だからこんなにも性質が悪いのだろうか……。





 善意の押し売りという言葉があるように、優しさや慈愛なんて温かい感情でさえも、時と場合によっては迷惑でしかない場合もあるというものだ。


 だが、彼らの行動自体はそういった温かい感情で……だからこそ対処に困る。



 具体的にどんな状況かというと……。




 スキンシップ祭り開催、お触りOKよ。



 こう書くとなんかエロチックな響きがあるが、そんなことは一切ない。


 まず、参加者(親兄姉乳母含む)全員から順番にハグ→ほっぺすりすり→額か頬にキス。


 そのコンボの間には


  " 可愛い "


 だの。


  " 1歳とは思えない賢さだ "


 だの。



 とにかく、歯の浮くようなお褒めの言葉が大量にかけられたし。


 参加者は当初の大雑把な計算とは大きく違い100人くらいいたし、生前ハグなんて恋人同士や親密な間柄でしかやらないことだったため、慣れていなかったってのもある。


 30人超えるあたりで辟易しだした。

 正直うざったい。



 これが美しいおぜぅさま方だけなら、よかったかもしれない。


 当然そんなわけがない。




 うちの家族が特別美形だっただけで、全員が美形なわけがない。

 当たり前だ、会う人会う人美形祭りだったらきっと例の台詞を言ってしまう。





 美形の宝石箱やぁ~。






 待て待て落ち着けまだ慌てる様な時間じゃない。


 某汗だくの1000で道な人が脳裏に現れてステイクールと手を動かしている。



 助かったぜ、1000で道な人。

 まだそんな時間じゃないよなパーティは始まったばかりだ。


 そう、オレタチのパーティは始まったばかりだ!







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 全員にハグ祭りされ、ほっぺをすりすり祭りされ、キス祭りされ……。




 今は誕生日プレゼントを順番に母クレアと父アレクが受け取っている。

 受け取ったプレゼントは後ろに用意されていた机なのかどうかよくわからないが、床に直置きってことはないだろう、に山になっているようだ。


 両親二人が受け取り、兄と姉が両親が受け取ったプレゼントを後ろに丁寧に置いている音が微かに聞こえる。


 3大祭りで大分疲弊した自分はというと、虚空をぼーっと見ている。




 いや正直なめてた。


 うざったい?50人行く前にそんなのどっかいったよ?


 実際100人以上にハグほっぺすりすりキスの3連コンボをやられ続けてみればわかる。

 そんなの考えることが馬鹿らしくなる。


 1歳児には無茶すぎないか?


 無口無表情キャラが裏目にでたようだ。

 疲れてきても表情が変わらないため、相手に疲れているということを理解させることができない。

 喋れるか嫌がればいいんだが、疲れているのと入れ替わり立ち代りの3連コンボで、その隙も暇もない。



 なんだかんだで全員分祭りをやり遂げたのだ。

 日々の魔力(仮)訓練とにぎにぎ訓練で、培われた体力はちょっと恨めしいくらいに大いに役に立ってしまった。



 最後の方は無の境地に近かったがね。



 考えたら負けだ、考えたら負けだ。





 ハグされ、ほっぺすりすりされ、キスをされる。

 ここは本当に生前住んでいた国とは違うということを思い知らされる。


 ずいぶん遠いところにきたものだ……。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 虚空をボーっと眺めながら、思考の海に埋没しかけた自分を誰かが抱き上げる。


 首を少し動かして、確認するまでもなかったが、母クレアだ。


 プレゼント授与式は終わったようだ。


 まったくもってお疲れ様だぜお母ちゃん。



「クリストフ家が次女、リリアンヌ・ラ・クリストフの1歳の誕生日にお集まり頂き、まことにありがとうございます、ささやかではありますが食事をご用意させていただきました、どうぞお食べください」


 クレアが感謝の言葉を述べる。




  " リリアンヌ・ラ・クリストフ "




 これが自分の正式名称のようだ。

 1歳になって初めて知る自分のフルネーム。


 ミドルネームとファミリーネームか?リリアンヌとラとクリストフの間で一拍置いてたし、ラがミドルネーム?ファミリーネームはクリストフ?

 ミドルネームとか一般的じゃなかった国の出身には、ミドルネームなのかそうじゃないのかよくわからない。



 これからの人生でずっと付き合っていく名前だ、詳しく知りたいところだな。

 まぁもう少し大きくなってからでも別にいいけどさ。



 思考の海にいながらも、クレアとアレクが細かく切った自分用の食事を口に運んでくれる。



 はむはむもきゅもきゅ。



 ここ最近歯が急に成長してきて、すこし歯ごたえのあるものでも潰して食べられるようになった。

 とはいっても、硬いものはさすがに無理だし、みじん切りより少し大きい程度に切ってないと噛むのも難しい。



 誕生日パーティ仕様なので、前に家族の誕生日に食べたような普段食べないちょっとお高めの味のするモノが多い。

 結構好き嫌いなく食べてはいるが、それでも好みが出てきたので割と野菜と果物多目だ。

 肉や魚は嫌いじゃないけど、こっちの料理はどうも全体的に味が薄い。

 香辛料や調味料をあまり使わないのだろうか?

 素材の味を優先しているとかそんな感じだろうか。

 赤ちゃん用の食事だからというわけではなく、テオやエリーが食べているのをちょっと食べさせてもらったこともあるのだが、味の差はあまりなかった。


 でも十分美味しい、いや慣れるとこれはこれでなかなかいいんだよ?





 そろそろ自分で食べ始めてもいい年頃なんじゃないのかと思うのだが、クレアと……特にアレクが嬉しそうに料理を口に運んでくる。


 こんな親馬鹿丸出しの表情されちゃったら、フォーク奪って自分で食いたいなんて思ってたのが心の隅の方に移動して体育すわりを始めてしまった。


 回復にはしばらく時間がかかりそうだ。




 まぁ誕生日パーティだし、アレクは普段こんな風にスキンシップを取ることが、忙しくてあまりできていないわけだから、今回は我慢しよう。


 そんなことを思いながら美味しい料理を食べていたら、ふわふわぷわぷわの何かが口に運ばれてきた。


 甘い匂いだった。



 特に気にせず、運ばれたそれを食べる。




「っん!」




 思わず声を上げてしまった。


 いや……1歳になって無口無表情キャラ終了のお知らせをさっきやったばかりじゃないか。

 別に声出しても、笑ってもいいんだよな。



 でも1年ずっと通してきたキャラは思いのほか強情で、あの予想外の可愛いー!発言の前に喋った以外は普段通り無口無表情だったのだ。



 そんな感じだから食事中に声を……いや……生活してて声を出す場面なんて滅多にないから、この声を聞いたクレアは満面の笑みになっていた。



「リリーはこのケーキが気に入ったのね?ふふ、頑張って作った甲斐があったわぁ~」



 頬に手を当て魔力(仮)を放出しながらのクレア。




 抱きしめてるわけじゃないのに放出する場合もあるんだ……。


 そんな放出の新しいパターンを見つけて感心しながらも、ふわふわぷわぷわの甘いやつをもきゅもきゅ食べる。


 いやこれほんと美味しい。

 なんだろう、ふわふわでぷわぷわでしっとりと滑らかで甘くて美味しい。

 クレアの手製だというのも、美味しさを向上させるに一役買っている。


 ついつい表情が緩んじゃうよ。



 実際表情が緩んでいたのだろう、周りから黄色い声が大量に出ていた。

 もう気にしないことにする。


 そんなことより今はこのふわふわぷわぷわだよ!親父!もう一丁!

 テーブルをばんばん叩いて催促する。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 食事が一段落すると、パーティ参加者による3大祭りが再開される。

 全員分祭りは終わったと思ってたのにどういうことだよ。


 ハグされ、ほっぺふにふにされ、キスされる。

 されるがままに任せて、流されていたのだがさすがに疲れた……。

 お腹もいっぱいだし、そんなに激しくされるとリバースしそうだよ。



 魔力(仮)の訓練で体力がかなりついているとはいえ、所詮は赤ん坊だ。

 もうグロッキーですよ、ダウン寸前ですよ、ボクのライフはもう0ですよ。


 意識が薄くなる。


 瞼が落ちそうだ……。


 あぁ……あのふわふわぷわぷわまた食べたい……。





 気が付いたらベビーベッドに寝かされる寸前だった。

 パチっと音がしそうな感じで瞼を開ける。


 漫画的な表現だったら、カッ!って効果音がしそうな感じだな。



 ベビーベッドに寝かそうとしたところだったからか、ちょうどばっちりエナと目が合う。


 少し驚いたような彼女だったが、すぐにいつもどおりの優しい笑顔になる。



「起きちゃったの?リリー、人がいっぱいのところは初めてだったものね、疲れちゃったよね、さぁ寝なさい?」




 諭すように言われたが、正直目が冴えてしまった。

 起きたら目の前に凛々しい美人さんがいるのだ、毎日見ているとはいっても、そりゃ目だって冴えるよ。


 それに、お触りOK祭りのせいで疲れたんだよっていう突っ込みを衝動的に入れようとしてしまったのもある。


 というか、それで意識が完全に覚醒したのだよ!







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 訓練成果の一つとして、体力の回復力がかなり上がっている。

 もう疲労は全然ないんだぜ!



 なのでジーっとエナを見る。

 大抵朗読の催促はこんな感じで行う。



 ジーっと見られると、察してくれて玩具とか本を持ってきてくれる。

 喋らずに意思を伝えるというのは中々に難しいが、それでも7割程度の確率で催促に成功する。

 残りの3割を引きあてても、何度もジーっと見てれば大体大丈夫なのだ。




 今回もご多分に漏れず。



「完全に起きちゃったかぁ~しょうがないわねぇ何を読んであげましょうかねぇ」


 朗読の催促成功である。



 ご本読んで読んでビームの後はいつもどおりに、エナの膝の上にお座りして読書タイムだ。


 とはいっても、ヒアリングはもう完璧に近い。

 単語や文章の掬い上げ作業はあまり必要ではないため、同時進行で魔力(仮)訓練と手をにぎにぎ足をにぎにぎしたりして体の方の訓練も行う。



 読書タイムは静かに動かず聞いているなんてのは幻想だ。


 毎回こんな感じで必ず手足を動かしながらなので今ではもう慣れたものだ。

 特に気にすることもなく選んだ本を読んでいくエナ。


 今回のチョイスはどんなモノかな?



「えーと、これは私の最近のお薦めよ~ " しじみの一生 ~中級編~ " 」



 相変わらずの海産物チョイスだなぁエナさんよ。



 兄テオが樹木、姉エリーが草花。

 エナはというと、海産物なのだ。


 その範囲の広さは兄姉の比ではない。

 海に生息するモノならほぼ全て網羅しているのではないかと、いうほどの広大さだ。


 海水魚に始まり、深海魚、海草、貝類、果てはプランクトンに至るまで様々な本を読んでくれる。


 特に好きなのが、貝類のようだ。

 二枚貝、巻貝、多板鋼、掘足綱、殻があるなしは関係なく軟体生物も彼女の中では貝類であり、ウミウシやナメクジ、果てはイカや蛸などの頭足綱も範囲のうちだ。


 さすがにイカや蛸を貝類って分類するのはどうかと思うんだけど、いや詳しくは知らないから正確なところはわからないけど。



 彼女曰く。



「貝の仲間であれば、それすべからく貝類である」



 なんか名言みたいなことを言っていた。

 ちなみに自分は特に何も聞いていないのにである。



 まぁそんな貝類マニアなエナの今回のチョイス " 蜆の一生 ~中級編~ " はどんな内容かというと。


 どこかの砂泥底に生息していた一匹の蜆が二枚の貝で立ち上がるという、超展開から始まった。





 あれ……?なんかデジャヴな……確かに蜆は二枚貝だけどさ……。




 この作者……もしかしなくても例のあの作品の人か?

 貝類にまで手を出していたなんて……。



 魔力(仮)制御訓練と手足の訓練をしながら、エナの朗読を聞く。

 すでに集中度の比重は3:1:6くらいに傾いている。


 久しぶりに訓練より朗読に集中する比重が多い。

 ヒアリングが上達してきてからは、7割以上を魔力(仮)制御訓練に回しているわけだから、珍しいことだ。





 話は進む。


 立ち上がった蜆は隣に住む幼馴染の蜆を導くように成長し、一緒に学校に通ったり、ちょっとしたエロハプニング的な要素を出しながら、青春していくという青春学園物だった。




 蜆の青春学園物。




 深く考えたら負けだな。



 物語が終盤に差し掛かり、もう一人(一匹?)の蜆の幼馴染とのどろどろの三角関係に終止符を打とうとするそんな展開になったときだった。



 母クレアが部屋に入ってきた。


「リリーちゃん起きてたの~?エナにご本読んでもらってたのねぇ~」


 三角関係の結末がちょっと気になったけど、そこで読書タイムは終わりになった。


 クレアに抱っこチェンジして、パーティのお客さんの相手は大体終わってあとはアレクに任せてきたとクレアが言う。


 アレだけ人数いたら相手するのも大変だったのだろう。

 実際自分はグロッキーだったし。



 まぁ見上げた母の顔には疲労の影なんてまったくなかったけど。



 立ち代りに今度はエナが、では片づけを手伝ってくるわと部屋を出て行く。

 部屋を出る時に額にキスして。


「リリー誕生日おめでとう」


 にこやかに手を振ってエナは片付けに向かった。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 二人きりの部屋では、幸せそうに自分を抱きしめて魔力(仮)の放出全開のクレア。

 相変わらずこんなに放出して大丈夫なんだろうかと思うが、どんなに放出しても疲労の一つも見せないこの人はすごい人だと思う。





 魔力(仮)の放出。




 散々苦労して、ふとしたきっかけで出来るようになった思い出いっぱいの技術だ。




 そうだ……今なら彼女のように出来るかもしれない。




 そう思ったらあとは止まらなかった。


 クレアが行っているような放出のようにふわふわの温かい……そんなイメージをしながら魔力(仮)を放出していく。


 自分の濁った瞳には、クレアの放出した魔力(仮)と自分の放出した魔力(仮)が真っ白な雪のように見える。





「なんだかリリーに包まれてるような気がするわぁ~……ふふ……幸せぇ~」



 本当に幸せな蕩ける様な笑顔で、静かに彼女が安堵の息を漏らすかのように呟く。




 しかし、そんな呟きは自分の耳には右から左に通過していった。







 なぜなら。








 それどころではないモノが。










 自分の、暗闇と魔力(仮)しか映さない濁った瞳に映っていたからだ。











 あの位置にあるものは窓。


 壁は魔力(仮)がないから当然見えない。

 見えないけれど、透過できるわけではないので外にある魔力(仮)のあるモノも見えなくなる。

 窓は抱っこされてたときに触る機会があり、ガラスのような感触のモノがはまっていたけど、透過して見ることが出来た。

 たまに窓の位置より外を小鳥の形状をした魔力(仮)の塊が、結構な速さで飛んでいったりしていたのだ。






 ソレは、確かにエナが窓拭きをいつもしている場所に、存在していた。







 小さな手足。



 窓の位置と見える対象の比較が子供の……兄や姉とを比較対象に想像しても明らかに小さい。

 目測でも20cmに満たないのではないだろうか。


 その上背中には薄い濃度の昆虫の羽根のようなモノ。


 姿形は人間。



 物語に出てくるような、某ネバーなランドにいるような、あんな感じの。








 妖精……?









 呆然と頭の中で呟いた。








これにて第1章終わりです


第1章の副題を書いてなかったのですが、別にいいかなと思ったりもしました

ちなみに副題は


1年目


章の終わりが見えちゃうから書かなかったのだけど、書いておくべきかな?




半ば勢いだけでプロットとも言えないプロットを脳内展開させて、書いた第1章でしたが、お楽しみいただけたでしょうか

次は別視点の外伝です


ご意見ご感想お待ちしておりまっすまっす


3/9 句点、文頭スペース、三点リーダ修正

3/10 禁則処理修正

5/3 誤字修正

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[気になる点] 2桁人で段階踏まずに大した事前説明もなく突然100人以上の見知らぬ他人の前に放り出されるって普通の1歳児にとってかなり本気で怖いと思うんだけど家族共は何でのんびりほのぼのしてるんですか…
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