授業中
シャーペンをもてあそびつつ、黒板の文字をノートの書き写していく。ときどき横を向いて、爆睡している男子生徒を見て、心の中でくすっと笑ってみる。
一番後ろの窓際の席って、いいな。なんでもできる。
今回の席替えはツイてる。だって、一番後ろの一番窓際だし、となりは山田くんだし、前は萌だし。しいて文句を言うなら、あたしの斜め前、山田くんの前の席が高島くんだってこと。後ろを向いて山田くんと話すのはいいんだけど、あたしをバカにするのはやめてほしい。
先生が黒板に文字を書いている間、あたしはとなりを見る。大胆にも、机に突っ伏して爆睡している山田くん。規則正しい寝息が聞こえてくる。その寝顔がすごくかわいくて、このままそっとしておきたくなる。でもいまは、英語の授業。英語の先生、寝てる人がいたらすぐに見つけるからなぁ。きっと山田くんも……。
「おい、山田!」
ほら、来た。でも、それだけじゃ山田くんは起きなくて。
「聞こえてるか、山田! 起きろ!」
「――ふぇっ?」
ガバッと体を起こす山田くん。前の席の萌と斜め前の高島くんが、ニヤニヤして後ろを振り向く。
「寝てただろう」
「いえ、寝てません」
うそつけ。――心の中で突っ込む。思いっきり爆睡してたじゃん!
「そうか、じゃあ、この英文を訳してもらおうかな。寝てないなら、簡単に訳せるはずだぞ」
黒板に書かれた英文を指して言う。
『Kenta is the talledt in our class. But Bob is taller than Kenta.』
「え……」
英語が苦手な山田くんは絶句。慌てて電子辞書で単語を調べたり、教科書で文法を調べたりしている。っていうか、そんなことしなくても、簡単に訳せるんだけどな。だってこれ、中学生レベルだよ?
しばらく教科書と黒板の英文を交互に見て、ようやく中学生レベルだと気付いた山田くんは、
「えっと……、ケンタはわたしたちのクラスの中で一番背が高いです。でも、ボブはケンタより背が高いです!」
ドヤ、って感じで言う山田くん。いやいや、そんなことでドヤ顔されても……。っていうか、高島くん、爆笑してるし。
「もう寝るなよ」
先生は苦笑して、新しい英文を書く。山田くんはしばらくまじめに授業受けていたけど、すぐに違うことを始める。まったく、英語が苦手なんだったら、ちゃんと授業受ければいいのに。
山田くんを眺めていると、ふと顔をあげた山田くんと目があって、思わず挙動不審になる。
山田くんはニヤッと笑って、
「あとで、英語の小テストの解説、ヨロシク」
と言ってきた。
授業の初めに返された英語の小テスト。あたしは五十点満点中四十七点。一方の山田くんは、五十点満点中……十二点。高島くんでさえ、半分は取れてたのに。あたしも萌も一瞬絶句して、それからは爆笑してた。
山田くんが話しかけてきたことがうれしくて、あたしを頼ってくれたことがうれしくて、あたしはにっこり笑ってうなずくと、ニコニコしながら黒板を向いた。
いまは六時間目。放課後まで、あと五分。あ、でも授業の後、ホームルームがあるんだっけ。じゃあ、あと十五分か。とにかく、はやく放課後にならないかな。
後ろを向いてニヤニヤする萌をつついて、あたしは山田くんをちらりと見る。山田くんはまた机に突っ伏して寝ていて、授業を聞く気なし。でもあたしは、そんな山田くんが好き。そんな山田くんを見れる授業中が、好きなんだ。
どーも、百田真咲です。
これ、『放課後』の続編みたいなものです。
いやー、あれ、気に入っちゃって(笑)
でもいいですよね、好きな人がとなりの席って。
妄想ふくらませつつ、『放課後』、シリーズ化していこうかな(笑)