第九十五話
十二月一日、チタを攻めていたソ連極東軍はゆっくりと後退し始めた。
弾薬と食糧の不足が目立ち始めたのだ。
ソ連極東軍司令部があるイルクーツクにいた毛沢東は後退に反対をしたが、部下達の説得によって渋々と承認した。
「………これは好機と思わないかね?」
三宅坂の参謀本部で東條は部下達に聞いた。
そこには、三笠と特別補佐として参加している。
「チタ防衛隊の弾薬と食糧が充分であれば、ウランウデを占領するのもありかと思います」
部下の服部参謀が言う。
「ふむ………姫神はどう思うかね?」
東條は三笠に聞いてみた。
「………難しいですね。現地部隊が進撃可能と判断すればいけると思いますが、東條さん。今は何月と思いますか?」
「今は十二月じゃないか」
何を聞いているのだ?
東條の表情は三笠にそう訴えていた。
「ドイツの第六軍は何故負けましたか?」
『ッ!?』
三笠の言葉に東條達は思い出した。
「………冬将軍か」
「はい。ソ連極東軍が後退し始めたのは冬将軍を予期しているかと思います。満州には防寒装備は充分ですか?」
「北部に展開している部隊には充分な防寒装備をさせている。南部はまだだがな」
服部参謀は三笠に言う。
「………やはり弾薬と食糧を充分にしておいた方がいいと思います。ウランウデへの侵攻はそれからでも遅くはないと思います」
三笠はそう判断した。
「………分かった。姫神の意見を尊重しよう。私も部下をシベリアに抑留などしたくはない」
東條の言葉に服部参謀達は頷いた。
史実に比べて三宅坂の参謀達は柔軟な頭に切り替えてきていた。
「それと………三式半自動小銃が遂に完成した」
「ほ、本当ですか?」
三笠の横にいた霧島少佐が東條に訪ねた。
「あぁ。既に五十丁が完成してチタに送る予定だ。弾丸は九九式実包を使えるようにしている。何回も試験はしたが、故障等も無かったが、新型の実包も開発中だ」
「………やっと日本も半自動小銃を持てる日が来たんやなぁ」
三笠は誰にも聞こえないように呟いた。
「取りあえずは何回も試験はしておきましょう」
三笠の言葉に東條達は頷いた。
しかし、数日後に新たな報告が届いたのである。
―――聯合艦隊旗艦敷島―――
「大変です豊田長官ッ!!」
「何事だ宇垣?」
宇垣参謀長が長官室に慌ただしく入ってきた。
「ハワイ諸島を偵察していた伊号潜から入電ですッ!!」
宇垣参謀長は通信紙を豊田長官に手渡した。
「なッ!?」
豊田長官は通信紙を一読して目を見開いた。
「新型空母三隻がオアフ島に入港しただと………」
ハワイ諸島を偵察していた伊号潜はたまたまオアフ島を偵察したら新型空母三隻を発見したのだ。
伊号潜は雷撃も考えたが、周囲には護衛艦がいたので断念して艦隊から十分に離れたところで旗艦敷島に打電をしたのである。
「………アメリカの工業力恐るべし………か」
豊田長官はそう呟いて通信紙を握り潰した。
「至急、小沢の第一機動艦隊をトラックに派遣しろ。山口と戸塚の機動艦隊は内地で待機させておけッ!!」
「分かりましたッ!!」
宇垣は豊田長官に敬礼をして長官室を出た。
「………やはりソ連と対峙中に来たか」
誰もいなくなった長官室で豊田長官はポツリと呟いた。
「………早くソ連戦を終わらせねばならんな。だが、今から冬だ。アメリカはそれを狙ったのだろう」
豊田長官は世界地図を見る。
「ラバウル、トラック、マリアナ、硫黄島、沖縄はコンクリート等の陣地構築は既に完了しているのが幸いと言うべきだな」
豊田長官はそう呟く。
「………決戦はマリアナか、ハワイだな」
海軍内では、ソ連戦が終了次第ハワイ攻略作戦を立案していた。
「………決戦はやらねばならんか………」
豊田長官は覚悟を決めるように呟いた。
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