第九話
あの震災から1年になります。
亡くなられた方へご冥福をお祈り致します。
必ず日本は復活します。
―――1941年一月下旬―――
まだ冬の厳しさがある一月下旬、三笠は海軍横須賀航空基地にいた。
「『アレ』の具合はどうや?」
滑走路にいた三笠は近くにいた技師に訊ねた。
「はい、今は最終段階の急降下試験の真っ最中です」
「そうか………」
三笠は上空を見上げると、急降下してくる一機の戦闘機がいた。
全面灰色に塗られた戦闘機は高度五百になると急降下から一転して急上昇をする。
ブオオォォォォォーーンッ!!!
『こちら試作機。機体に異常無しッ!!』
『オオォォォッ!!』
スピーカーから聞こえるテストパイロットの言葉に周りにいた陸海軍の士官や技師達が歓声を上げた。
「………これで零戦は本当に完成しました。姫神少佐、ありがとうございます」
三笠に歩み寄ってきたのは眼鏡をかけた一人の技師だった。
「それは違いますよ堀越さん。自分は後押しをしただけですよ」
三笠は技師―――堀越二郎の言葉に苦笑する。
最終飛行を終えた試作の零戦が着陸する。
この零戦は史実のような栄エンジンを搭載していない。
史実では試作に終わった零戦五四型が搭載していた金星エンジンを搭載している。
金星エンジンは史実の金星五四型で最大馬力は約千三百馬力で史実では九九式艦爆二二型が搭載していた。
新型零戦は装甲も付けられて、(それでも欧米諸国に比べたらまだ軽い)操縦席後ろには防弾板も付けられた。
武装は機首に十二.七ミリ機銃が二門と、主翼に長銃身の九九式二号二十ミリ機銃二門(左右二百五十発のベルト給弾式)を搭載している。
更に六番(六十キロ)爆弾を二発搭載可能である。
航続距離を延ばすために、操縦席後ろの胴体にも燃料タンク二個を取り付け、落下式燃料タンクは三百リットルから四百五十リットルに変更して何とか三千キロを維持した。
速度低下を防ぐために史実の零戦五二型で採用された推力式単排気管をこの世界でも採用して、最大速度は五四五キロである。
更に、航空無線も改良されている。
「………六月には魔改造……ゲフンゲフン。改装が終わる赤城と加賀。七月から九月には翔鶴型の翔鶴と瑞鶴、隼鷹型の隼鷹、飛鷹が竣工するし、小型空母群も八月までに竣工する………何とか零戦の配備は間に合いそうやな……」
三笠はそう呟く。
「………ま、今は零戦の成功に喜ぶとするか。イヤッフーッ!!」
三笠は商船学校の卒業式のように帽子を上に投げたのであった。
完成した零式艦上戦闘機二二型はその日のうちに制式採用され、翌日から三菱、中島、川西 、愛知、九州などの航空会社が一斉に零戦二二型の生産を開始した。
優秀な技術者や工員などを除隊したので月の航空機生産は史実より大幅に増えるのであった。
更に局地戦闘機は陸軍の『鍾馗』が採用された。
―――七月、軍令部―――
「失礼します」
三笠が作戦会議室に入る。
「おぅ、久しぶりだな姫神少佐」
「お久し振りです宮様」
作戦会議室には宮様を初めとして、軍令部第一課長の富岡定俊大佐、第一部長の福留繁少将等がいた。
「今日は一体どうしたのですか?」
「うむ。実は此処最近、連合艦隊の砲撃訓練件数が対航空機回避訓練と同様にかなり増えてきているのだが、姫神少佐は何か知らないかね?」
福留少将がそう尋ねてきた。
「(あぁ成る程。あの件か)福留第一部長。それに関しては此処にいる皆さんの秘密ということにしてくれませんか?」
「ほぅ。どうやら姫神少佐も一枚噛んでいたみたいだな」
富岡第一課長が苦笑する。
「まぁ言い出しっぺが自分でありますので。実は史実で開戦後の1942年の二月二十七日から二十八日にスラバヤ沖海戦という重巡同士の砲撃戦があったんです」
三笠はスラバヤ沖海戦の説明を宮様達にした。
「………成る程。それで昼夜問わず砲撃訓練をしていたのか」
「はい。敵艦隊への命中弾が僅か四発しかなかった事に宇垣参謀長や南雲中将が大激怒をしまして………」
「そうなると、砲戦時の命中率想定が甘すぎたというわけか」
宮様が言う。
「はい、ですので宇垣参謀長はそれを隠したかったので何も言わなかったのです」
「成る程。なら私達からも言わない事にしておくよ。確かに隠しておきたい事だ。宇垣参謀長が率先して砲撃訓練をやっているなら大丈夫だろう」
宇垣参謀長は砲撃に関してはプロなので宮様達も何も言う事はなかったのであった。
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