第八十六話
―――九月二十九日、柱島泊地―――
この日、南方から貨物船とタンカーを護衛していた第一護衛艦隊が帰還した。
輸送船団の数は、貨物船二五隻、タンカー同じく二五隻と定められている。
これは戦時標準船の建造と配備が上手くいってるからである。
第一護衛艦隊旗艦朝日(輸送船の配備が順調なため、高速輸送艦の任務は解かれて再び武装している)の艦橋には海上護衛隊総司令長官の宮様がいた。
南方にいたため、宮様は日に焼けて屈強な船乗りになっていた。
「艦長、済まないが後は任せるぞ」
「はい。何処へ?」
「聯合艦隊旗艦の敷島だ」
朝日艦長の問い掛けに宮様はそう答えて聯合艦隊旗艦敷島へと向かった。
―――聯合艦隊旗艦敷島長官室―――
「豊田ァァァッ!!」
「な、何ですか宮様いきなり………」
長官室で仕事をしていた豊田長官は、いきなりの宮様の襲来に驚いていた。
「電文で知ったがソ連と開戦したとはどういう事だッ!!」
「そ、それは毛沢東の仕業なんですよ宮様。今の満州の関東軍と満州国陸軍は必死に防戦をしています」
ソ連極軍に配備されていた機甲師団を壊滅させた関東軍だが、ソ連極東軍は依然として満州に侵攻していた。
そのため、関東軍と満州国陸軍は攻勢に移らず防戦をしていたのだ。
「満州にいる関東軍はまだ完全には戦車師団を更新もしていないのだぞッ!!それに機動九〇式野砲もまだ完全には配備されてはいないんだぞッ!!」
陸軍は野砲を機動九〇式野砲と九二式十センチ加農砲を改造した機動九二式野砲の二種類しか生産していない。
百ミリクラスの野砲は海軍の伊号艦に搭載されていた十センチ高角砲を改造する話があったが、陸軍内からは「海軍への貸しの作りすぎは良くない」との声が出て、九二式十センチ加農砲を機動野砲に改造する事にしたのだ。
陸軍は一式中戦車の戦車砲や戦闘機の統一化で海軍のが選ばれたりと(最初は零戦なため)、海軍に貸しを作っていたためたまには自分らで作ろうという雰囲気が出ていた。
それを聞いた三笠は苦笑しながらも九二式十センチ加農砲の機動野砲の改造を支援したのである。
ソ連極東軍が満州に侵攻した時、機動九二式野砲はまだ第一戦車師団に三個中隊が配備されていただけである。
現在は、日本各地にある工場で必死に機動九二式野砲と機動九〇式野砲が工場員の懸命な努力によって生産が成されている。
「野砲を作る資源は満州とオーストラリアから貨物船で運んでいるが、その弾薬もそんなにあるわけではないんだぞッ!!」
宮様はそう指摘する。
満州の弾薬量は陸軍が思いっきり使えば、一週間で底を尽くすのだ。
「それは陸軍も分かっています。なので、そろそろ戦果報告が来ると思います」
「何………だと?」
豊田長官の言葉に宮様は首を傾げた。
それは十分後に来た。
「長官やりましたッ!!シベリア鉄道と補給施設の爆撃は成功です」
宇垣参謀長が通信紙を持ちながら長官室に駆け込んできた。
「どういう事だ豊田?」
「これは三笠からの発案なんですが、ソ連極東軍の補給を支えるのはシベリア鉄道です。なら、そのシベリア鉄道と各所にある補給施設を陸海軍共同で爆すればどうなりますか?」
「………ソ連極東軍は補給が満足に出来ず、立ち往生をする」
「はい」
宮様の言葉に豊田長官は頷いた。
「向こうが補給で苦しんでいる間に此方は物資を満州に送り続けます」
豊田長官は宮様にそう言った。
「そのためにウラジオストクの攻略です」
豊田長官はウラジオストクの地図を見せた。
「ウラジオストクを攻略出来れば、ウラジオストクとチチハルを結ぶルートが出来ます」
豊田長官は宮様に説明する。
「そうなると、ウラジオストク攻略が物資輸送のカギになるわけだな?」
「その通りです」
豊田長官はそう頷いた。
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