第八十五話
―――九月二十六日、モスクワ クレムリン―――
「な、何だとォッ!?」
ソビエト連邦書記長のヨシフ・スターリンは、部下からの報告に激怒した。
報告をした部下は身体がプルプルと震えている。
「極東軍が満州に侵攻したと言うのはどういう事だッ!!」
「で、ですから、同志毛沢東が書記長から極東軍総司令長官を拝命したと申して、極東軍を率いて満州に侵攻しました」
「馬鹿なッ!!あの男は本気で言っていたのかッ!!」
スターリンは毛沢東と会談をした時、毛沢東は極東軍だけで満州を占領出来ると豪語してスターリンは「ほぅ、面白そうだな」と呟いただけだった。
「それを勘違いするとは………中国人はどれだけ無能なんだッ!!」
スターリンは此処にはいない毛沢東を罵倒する。
「………それで戦況はどうなっている?」
「それが………」
スターリンの言葉に部下は言いにくそうにする。
「………まさか負けているのか?」
「………そのまさかです。極東軍の機甲師団はヤポンスキーの新型戦車との戦闘で壊滅しました。空軍も日本の関東軍と満州国の戦闘機に阻まれて陸軍を充分に支援仕切れていない状態です」
「畜生ッ!!何という事だ、極東軍を予備兵力にしてドイツ軍に当てようとしていたというのに………」
自分の計算が毛沢東というたった一人の中国人のせいで西と東の左右から攻められるとは思ってもみなかった。
「書記長、毛沢東を粛清をしますか?」
部下はスターリンに聞いた。
「あぁ。だが、今は時期じゃない。対独戦にある程度の光りが見えた時にやる。極東へは、T-34の初期型を送って時期を見て守勢に入れと伝えろ」
「ダーッ!!」
部下はスターリンに敬礼をして部屋を出た。
「………何て事をするんだ………」
誰もいなくなった部屋でスターリンは頭を抱えたのであった。
―――ベルリン、総統官邸―――
「これは嬉しき事態だッ!!我々は毛沢東とか言う中国人に感謝せねばならんな」
総統官邸でヒトラーは極東軍の満州国侵攻と日本がソ連に宣戦を布告をしたのに対して嬉しそうに言う。
「マンシュタイン元帥、反撃の準備は出来たかね?」
ヒトラーは対ソ戦域総司令長官のフォン・マンシュタイン元帥に聞いた。
「は、北アフリカからの援軍とイタリアからの援軍をも入れても充分な戦力となりました。今ならモスクワを占領してスターリンをウラル山脈に籠らせる事も出来るでしょう」
「フハハハッ!!それはいい。貴官の活躍を期待しているぞ」
ドイツ軍は数ヵ月の間、現地点を死守していた。
突破されそうになるとティーガー等の火消し隊が火消しに回っていた。
「諸君ッ!!これでソ連は終わるぞッ!!フハハハッ!!」
ヒトラーは笑いまくったのであった。
―――海軍省―――
「………まさか対ソ戦まで始まるとはな………」
山本次官がポツリと呟いた。
「下手人は毛沢東のようだ。いらん事をするものだ………」
吉田大臣は山本次官にそう言う。
「陸軍の方はどうなっている?」
「取りあえず、陸軍はウラジオストク、ハバロフスク、ブラゴヴェシチェンスク、チタ、北樺太、カムチャッカ半島を占領する予定だ。陸軍からの要請でウラジオストクの攻略を支援してほしいそうだ」
「それは当然の事だな。派遣艦隊は?」
「豊田は内地にいる山口の第二機動艦隊をウラジオストク攻略に当てるつもりだ」
この時、山口中将の第二機動艦隊は内地にて対空噴進砲の搭載をしていたのだ。
「それと、カムチャッカ半島へは戦艦部隊を送るそうだ。砲術屋が最近腐っとるみたいだからな」
「ハハハ。確かにそうだな」
吉田大臣の言葉に山本次官は頷いた。
「ところで、油の方はどうなっている?」
「何とか宮様が輸送しているが、ソ連の侵攻でまた大幅に減るようだ」
吉田大臣はウンザリするように山本次官に言う。
「毛沢東は我々にとっては疫病神だな」
「全くだ」
二人はそう言い合うが、スターリンも毛沢東の事を疫病神と罵っていたと聞いたのは戦後の事だった。
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