第八十三話
全くの偶然が重なった結果がこれだった。
「馬鹿な………何故共産党軍が侵攻するんだ………」
モンゴルには、中国から逃げてきた中国共産党軍約八十万がいた。
だが、大半は小銃を持った兵士で航空機や野砲も極端に少なかった。
「共産党軍が度々挑発好意をして銃撃戦をしていたのは知っているが、何故侵攻を………」
東條は軽く頭を叩く。
「閣下ッ!!大変ですッ!!」
そこへ新たな部下が通信紙を持ってきた。
「これを………」
「うむ」
東條は紙を受け取って一目した。
「なッ!?」
「如何なさいましたか閣下?」
東條の表情に部下が訪ねた。
「………中国共産党軍は、満州にも侵攻しているみたいなのだが、更に共産党軍の後方には、モンゴル軍とソ連軍も確認したそうだ」
『ッ!?』
東條の言葉に部下達は驚いた。
「まだモンゴル軍は分かりますが、何故ソ連軍が………」
「それは儂にも分からん。今言える事はソ連が日ソ中立条約を破棄した可能性が大だ」
「閣下ッ!!」
そこへまた部下が通信紙を持ってきた。
「………諸君、ソ連が日ソ中立条約を破棄した。そして千島列島の占守島がソ連軍の砲撃を受けている。更にノモンハンに機甲師団も確認したそうだ」
「………閣下。急ぎ救援部隊を送らねば………」
「うむ、それは分かっている。海軍にも協力を要請ッ!!満州の関東軍には迎撃態勢を取らせろッ!!何としてでも満州を死守するのだッ!!」
『ハッ!!』
部下達は直ぐに仕事に取り掛かった。
「………だが、何故ソ連軍がこの時期になって………」
東條は満州の地図を見ながらそう呟いた。
実は、この侵攻はソ連の書記長であるスターリンも知らない事だった。
原因は中国共産党の主導者である毛沢東である。
国民党によってモンゴルに逃げ込んだ毛沢東は、スターリンに援助を要請した。
しかし、スターリンはドイツとの戦争があったために援助は出来ないと断った。
納得がいかない毛沢東はスターリンの下へ直接出向いて援助の必要さと自分を総司令官にして満州の侵攻を説いた。
ドイツで手一杯なスターリンは毛沢東の話をあまり聞かず、ドイツ戦の事ばかり集中していたスターリンはつい「それは必要だな」と呟いた。(実際は東部戦線から兵力の増援要請を見ていた)
それを毛沢東は自分に総司令官を任してくれると勘違いの判断をして、毛沢東は急ぎモンゴルに戻って自分はシベリア方面の総司令官になったと主張してソ連軍に後詰めを要請した。
極東ソ連軍はいきなりの事に最初は驚いたが、スターリンからの命令(粛正を恐れて)と毛沢東から聞かされたので渋々と満州に侵攻したのである。
ソ連軍機甲師団は前回の雪辱戦とばかりにノモンハンへ侵攻した。
―――満州国首都新京、関東軍総司令部―――
「山下長官ッ!!百式司偵から入電ッ!!ソ連軍の機甲師団がノモンハンに侵攻しましたッ!!」
満州国首都新京に置かれている関東軍総司令部にはソ連軍侵攻の電文が届けられてからひっきりなしに前線から交戦を告げる電文が届いていた。
関東軍総司令長官の山下奉文大将はそれを一つずつ対処をしていた。
既に満州国に配備されていた対地襲撃部隊は何回も飛行場と戦場を往復をして爆弾や二十ミリ機銃弾をソ連軍に叩き込んでいた。
「………ノモンハンには精鋭の第一戦車師団を投入せよッ!!ノモンハンでの屈辱を晴らすのだッ!!」
この時、第一戦車師団の戦車は二個中隊+四両の三六両だけだが、三式中戦車が配備をされていた。
「三式中戦車の初陣はノモンハンですか。何か運命を感じますな」
関東軍総参謀長の山田乙三大将がそう呟いた。
「そうなると満州里の戦車師団は第四戦車師団になりますが宜しいので?」
第四戦車師団は第一戦車師団から更新された一式中戦車改を中心にした戦車師団であった。
「構わん。第四戦車師団は新編されたばかりだが、戦車兵はベテランだ」
山下長官はそう言った。
「何としても耐えるのだッ!!」
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