第八十一話
「しかし、本当にソ連と開戦して勝てるのか?」
山本次官が皆に問い掛ける。
「………四割……いや二割ですね」
三笠が呟いた。
「ソ連と開戦をして、樺太全土、カムチャッカ半島、イルクーツクまで占領出来たら奇跡ですね。間を取ってウランウデかチタくらいまででしょう」
三笠は地図を見ながら言う。
「その後はどうするのかね?」
「ひたすら防衛ですね。ヒトラーが対ソ戦参戦を打診し続けているのは東部戦線の兵力をシベリアに持って行かせようとする狙いなんでしょう」
三笠の考えは当たっていた。
東部戦線で、思わぬ被害を出しているドイツ軍にヒトラーは日本に対ソ戦参戦を要請して東部戦線の兵力を少なくさせようと考えていたのだ。
「………もし、それが事実だったら洒落ならんな」
東條は冷や汗をかいた。
「ま、あくまでも自分の考えですから」
三笠はそう言って日本酒を飲んだ。
「そういえば、今の満州の兵力はどれくらいですか?」
三笠は思い出したかのように言う。
「約八十万だ。戦車は三個師団で、雷雲は二個大隊だ」
雷雲とはソ連軍のカチューシャの日本名である。
一個中隊で二十両の編成となり、三個中隊で一個大隊になる。
「更に機動九〇式野砲、機動九一式十センチ榴弾砲の連隊が多数いる。改造三八式野砲も、更新が出来ていない砲隊以外は中国軍に格安で売却した」
中国では国民党と共産党が争って内戦をしていたが、日本は国民党を支援していたために共産党軍は破れてモンゴルに逃げていた。
共産党軍は度々、中国を攻めようとしたが、国民党軍は日本から格安で買い取った改造三八式野砲や三八式小銃、九七式戦闘機等を使って共産党軍の侵攻を抑えていたのだ。
「九〇式野砲を機動化に統一化して配備させている」
「弾薬を統一しておかないと、砲が合いませんからね」
「うむ。それで、ドイツにはどう返答するかね?」
『………………』
東條は皆に訪ねるが、皆は中々良い案が浮かんで来ない。
「………あ」
「どうしたかね姫神?」
三笠が何か思い付いたのを東條は見逃さなかった。
「良い案が浮かんだんですけど―――――――ってのはどうですか?」
「………うむ、一理あるな」
「ヒトラーは怒り狂いそうだがな」
三笠の言葉に吉田大臣、山本次官が苦笑する。
「取りあえずそれで返答するか」
東條は三笠の案に賛成したのであった。
―――ベルリン、総統官邸―――
「………フッフッフ、フハハハハハハッ!!」
『………………』
ヒトラーは日本からの返答を見て笑っていた。
「クックック、成る程成る程。日本も中々策士な奴もいるものだ」
ヒトラーは文面を見た。
『シベリアへの侵攻ですが、まだ出来ません。何故かと言うと、ドイツがソ連に侵攻した際、ソ連が新たな領土に逃げようと満州への侵攻計画を我が諜報員が入手したのです。そのため満州に守備隊を送り込んで防衛線の構築をしていたので侵攻する部隊の編成が出来ていません。現在は侵攻部隊を編成中で、完了は来年になるかと思われますのでドイツも現占領地を守備しては如何ですか?同時侵攻はそれからでも遅くはないはずです』
文はそう書かれていた。
「………良かろう。日本の提案に乗ろうではないか」
ヒトラーの言葉に部下達は驚いた。
「よ、よろしいのですか総統?」
「仕方あるまい。侵攻を要請しているのは余だ。東部戦線に伝えろ、現地点にて防衛線を構築してソ連軍の反攻に備えろッ!!それと充分な弾薬や前線に必要な増援を送るのだッ!!」
ヒトラーは部下にそう言う。
『ハイル・ヒトラーッ!!』
部下達はナチ式の敬礼をした。
「………クックック。あの文を考えた奴に会ってみたいものよ………」
誰もいなくなった総統室でヒトラーはポツリと呟いた。
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