第八十話
「え?帰国ですか?」
休暇を終えた三笠達が翔鶴に戻ると、山口長官に呼ばれてそう言われた。
「あぁ、緊急を要するみたいだ。ソ連の事だ」
山口長官は最後の言葉は三笠に聞こえるだけに呟いた。
『??』
八重達は全く気付いていない。
「………分かりました。即刻、内地へ帰還しましょう」
「第二機動艦隊は第一機動艦隊がトラックに入港次第、内地へ帰還の予定だ」
ニューカレドニアを出港した小沢長官の第一機動艦隊はソロモン諸島の西を航行していた。
「それでは内地で会いましょう」
「うむ」
三笠と山口長官は互いに敬礼をする。
「じゃぁ俺は一足先に内地へ戻るわ」
「久しぶりの内地なんだからゆっくりね」
「あぁそうするわ」
八重の言葉に三笠は頷く。
まぁ実際は会議の連続であるが………。
そして、三笠は霧島少佐と共に二式大艇に搭乗して内地へ向かったのである。
―――東京、とある料亭―――
三笠と霧島少佐は神楽坂のとある料亭に豊田長官や山本次官、吉田大臣、東條首相、杉山総参謀長等が集まっていた。
「………集まってもらったのは他でもありません。ドイツ―――ヒトラーから再三に渡って日本の対ソ戦の参戦要請が、大島大使を通じて通達が来ています」
杉山総参謀長が吉田大臣達に説明する。
「再三に渡ってだと?では、何度か来ていたのか?」
吉田大臣が杉山総参謀長に問い掛ける。
「………その通りです。ですが、その時はニューカレドニアやセイロン等の攻略の時期だったので準備不足を理由に断っていました」
杉山総参謀長は吉田大臣に説明する。
「むぅ、それは仕方ない………か」
「ドイツは北アフリカを占領したので、ロンメル等の将官や、兵力を対ソ戦に転換しています。また、イタリア軍も約十万の兵力が参戦しています」
「だが、今ソ連に参戦しても万が一破れて敗走したら満州にソ連軍が雪崩れ込むぞッ!!残留孤児等を生む気かッ!!」
豊田長官が反論する。
「満州にいる開拓団でソ連の国境に近い開拓団は既に退避させている。それに防衛線も、姉川の戦い以上の十五重の防衛線を敷いている」
東條が豊田長官に言う。
「それにドイツ―――ヒトラーは、日本が参戦しないと工作機械類を格安で輸出しないと言ってきている」
『ッ!?』
東條の言葉に三笠達が驚く。
「………ヒトラーめ、そう来たか………」
三笠がポツリと呟いた。
「前々からシベリア侵攻に関しては石原に作戦を考えさせている。石原の作戦では宣戦布告と同時に侵攻。ハバロフスク、ブラゴヴェシチェンスク等を一気に占領して、ウラジオストクを海軍の機動艦隊が奇襲して陸から侵攻するそうだ」
東條が三笠達に説明する。
「石原の作戦では兵力百五十万、戦車師団は十個、航空機は一千機を予定らしい」
「………兵力と航空機は何とか揃えられそうですが、戦車師団は到底難しいですね」
三笠が言う。
「だろうな」
山本次官が頷く。
「それに野砲は機動九〇式野砲だが、T-34中戦車に対抗出来るか不安だ………」
東條がポツリと呟いた。
「ん〜野砲は重巡青葉型や妙高型等に搭載していた四五口径十年式十二センチ高角砲を機動野砲化に改造したらどうですか?」
三笠が東條に提案する。
「………野砲という榴弾砲だな」
「それじゃあ秋月型の十センチ高角砲を改造しますか?」
「十センチ高角砲は命数が短いから無理だ」
吉田大臣は横に首を振る。
「………ん?待てよ………」
三笠は何かを思い付いた。
「何か思い付いたのかね?」
吉田大臣が聞いた。
「伊号潜の一部に50口径八八式十センチ単装高角砲がありましたよね?」
「あぁ、あるにはあるが………まさかそれを機動野砲に転用するのかね?」
「それしかT-34中戦車に対抗出来ないでしょう。東條さんどうですか?」
「………海軍が許可するなら十センチ高角砲を機動野砲に改造して生産しよう」
東條はそう判断した。
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