第七十八話
ヒトラーの声は沢木郁也さんしかいません。(笑)
かなり印象ありますから。
―――1943年六月十五日、ベルリン総統官邸―――
「北アフリカのドイツ軍の戦力は全て東部戦線に投入するのだッ!!イギリスへの侵攻はソ連を崩した後でも遅くはないッ!!」
総統室でアドルフ・ヒトラーが部下に怒鳴る。
「しかし、航空戦力も全て投入すればイギリス軍の防空任務が疎かになります」
「馬鹿者ッ!!投入するのは陸軍の戦力だ。空軍は三分の一を投入して残りはイギリス軍の爆撃機を叩き落とすのだッ!!」
東部戦線投入に消極的な部下にヒトラーは怒鳴る。
「ところで………日本の対ソ戦参戦はどうなっている?」
「は、オーシマ大使は対ソ戦参戦には賛成していますが、首相のトージョーはT-34戦車に対抗出来る戦車がまだ出来てないので対ソ戦参戦には踏み切れないと申しております」
「何だとッ!?日本はティーガーと技術者を送ったりしているではないかッ!!」
「日本の戦線は主にアメリカとイギリスなので海軍力を増強させています。勿論、陸軍も増強させているようですが、戦線が戦線ですので………」
部下はたじたじしながら報告する。
「使えない黄色い猿どもだッ!!」
ヒトラーは罵倒する。
「あれだけ工作機械類を提供しているのに大量生産が出来ないとはどういう事だッ!!」
「日本も工場はある事はありますが、機械類は全て欧米諸国中古品が騙し騙し使われているらしいです」
「………それでアメリカと対等に戦っているのかね?」
流石のヒトラーも冷や汗をかいた。
「………残念ながら………」
「分かった。日本には充分な支援をするのだ。そして対ソ戦参戦にこじつけるのだッ!!東部戦線には余からの厳命を伝えよッ!!『死守せよ』」
『ジーク・ハイルッ!!』
―――東京、三宅坂―――
「東條閣下。ドイツから対ソ戦に参戦せよと要請が来ております」
「分かっている………が、今の兵力では侵攻は到底出来ない………」
東條は苦虫を潰したような表情をする。
日本各地に分散させた工場は、一式中戦車改や三式自走榴弾砲、三式自走対戦車砲を大量に生産をさせているが、まだ日本軍としては充分に配備出来ていなかった。
陸軍は既に戦車師団を創設させて満州に三個師団が配備されている。
師団は史実とほぼ同じだが、中戦車中隊は一個中隊で十六両と陸上自衛隊と同じ編成である。
それで三個中隊と連隊本部の中戦車二両を加えると一個戦車師団の中戦車は五十両もある。
「早く新型戦車を開発せねばならん。開発にドンドンとカネを注ぎ込め」
「は、分かりました」
部下は敬礼をして部屋を出る。
「………せめて、後五個師団はいるな………」
東條は満州の地図を見ながらそう呟いた。
陸軍の兵力はビルマに六個師団、マリアナ諸島に十二個師団等を太平洋各地に配備しているが、半分は満州に配備している。
「満州は日本の生命線だ。何としても死守せねばならん」
東條はそう呟く。
「姫神を呼んで協議しなければならんな」
東條は溜め息を吐いて、温くなった御茶を飲む。
陸軍は九四式軽装甲車などを退役、解体して溶鉱炉の中へぶちこんで材料の足しにしている。
歩兵の移動を早くするためにハーフトラックや一式装甲兵車等の量産を急がせている。
ザアァァァッ!!
すると、雨が降りだした。
日本は六月に入っているので今は梅雨である。
「………今の日本は雲のように暗雲としているな………」
東條は雨が降る東京を見ながらそう呟いた。
「だが、我々が頑張らねばならんな」
東條は気合いを入れ直して、仕事に入ったのである。
なお、戦車開発部では相変わらずチハたん病が出ていたのは何時もの事であろう。
この新型戦車が姿を現すのはまだ少し先であった。
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