第五十話
米機動部隊は黒煙を噴き上げながら真珠湾へ向けて敗走を始めていた。
「………これは負けだな」
空母ホーネットの艦橋で司令官のスプルーアンス少将はそう呟いた。
「敵空母四隻に爆弾が命中したが、魚雷は命中しなかった。訓練不足だな」
スプルーアンス少将はそう判断する。
実際はデバステーターの性能が古いのだが、如何せんスプルーアンス少将は今回初めて空母を指揮していたのだ。
これは情報不足と言うべきだろう。
「………しかし、敵は何故艦爆隊だけだったのだろうか?」
スプルーアンス少将は先程まで行われていた攻撃に首を傾げる。
新たに米機動部隊に到着した攻撃隊は戦闘機と艦爆隊しかいなかったのだ。
勿論、これは第二航空艦隊からの攻撃隊である。
攻撃隊は空母と重巡に狙いを定めて急降下爆撃を開始。
両方とも沈む気配は無いが、重巡は対空戦闘、対艦戦闘が出来ない程まで建造物が破壊されてしまった。
「………何故だ?」
スプルーアンス少将は頻りに首を傾げるが一向に答えは出てこない。
米機動部隊の司令官の苦悩を知らないまま、米機動部隊はオアフ島へと目指した。
そして、それは唐突に起こった。
「ぜ、前方に敵艦隊ですッ!!」
「何ィッ!?」
見張り員からの報告にスプルーアンス少将以下参謀達は驚いて、双眼鏡で前方を見た。
水平線上にポツリポツリと何かの塊が米機動部隊を目指して航行してくる。
「せ、戦闘準備だッ!!」
スプルーアンス少将は慌てて指示を出す。
「レーダーに反応ッ!!敵機ですッ!!」
数機の航空機が米機動部隊に向かってきた。
それは零戦九機だった。
ダダダダダダダダダダッ!!
比較的損傷がマシで、ワイルドキャットを発艦させようとしたワスプに九機の零戦は機銃掃射を仕掛けた。
グワアァァァーンッ!!
滑走していたワイルドキャットは機銃掃射を受けて炎上。
ワイルドキャットはワスプから発艦したが、そのまま不時着水をした。
ドンドンドンドンドンッ!!
対空砲が零戦九機に火を噴くが、零戦九機はそれを気にせずに上昇して米機動部隊の上空を飛行する。
「ジャップめ。一体何をする気なんだッ!!」
スプルーアンス少将は思わず叫んだ。
その間にも敵艦隊―――第二航空艦隊は米機動部隊に接近してくる。
「敵艦隊は戦艦を含むッ!!」
『ッ!?』
見張り員からの報告に米機動部隊司令部は驚愕した。
―――第二航空艦隊旗艦翔鶴―――
「今頃、向こうは戦艦を見てビビっているだろうな」
「そうですな」
山口長官の言葉に寺岡参謀長が苦笑する。
「姫神の容態はどうだ?」
「はい。今は自室のベッドにいます」
「………アイツも災難だな」
「は………」
「まぁいい。金剛と榛名は射程に入ったら威嚇射撃を開始しろ」
「分かりました」
そして金剛と榛名は射撃を開始した。
ズドオォォォォォーーンッ!!
ズドオォォォォォーーンッ!!
二隻の前部四基が火を噴く。
更に山口長官は九九式艦爆十八機を発艦させて米機動部隊上空に待機させた。
「米機動部隊に打電しろ。『降伏セヨ』」
―――空母ホーネット―――
「そういう事かジャップッ!!空母を………空母を捕獲する事だったのかッ!!」
ならこのミッドウェー作戦の目的は空母を捕獲する事だったのか………。
スプルーアンス少将は背中がゾクッとした。
「スプルーアンス司令官………如何なさいますか?」
参謀長は悔しそうに言う。
そう言ってる間にも第二航空艦隊の水雷戦隊が米機動部隊の後方に回り込んでいる。
「………挟まれては仕方がない。全責任は私が取る。参謀長、日本艦隊に平文で返答せよ。『我、降伏ス』」
スプルーアンス少将はそう決断したのであった。
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