第三十六話
「消火急げッ!!」
「零戦隊は何をしていたんだッ!!」
空母千歳では消火活動中だった。
千歳は爆撃を余裕で回避をしていたが、雲を利用したドーントレス二機が、千歳の隙をついて急降下爆撃を敢行した。
結果、千歳は四百五十キロ爆弾二発が飛行甲板に命中し、飛行甲板は衝撃で捲れ上がっていた。
「しっかりしろ千歳ッ!!」
前部飛行甲板の端の方で、一人の水兵長が艦魂である千歳を抱き抱えていた。
「……しゅ……修ちゃん?」
千歳は右腕をあらぬ方向に曲げ、口の周りは血が付着していた。
「しっかりしろ千歳。爆弾が命中しただけで沈みはしないぞ」
川原修司水兵長は千歳に言う。
「………ごめんなさい……怪我しちゃった……」
「気にするな」
千歳の言葉に川原はそう言った。
米攻撃隊の戦果は空母千歳に爆弾二発を命中させて中破させただけだった。
翔鶴には爆弾どころかドーントレスが来なかった。
「………乗り切ったようだな」
翔鶴の艦橋で状況を見ていた山口多聞はそう呟いた。
「長官。第一次攻撃隊より入電です。スコールで敵空母を逃したようです。代わりに重巡一、駆逐艦四隻を撃沈しました」
「むぅ、スコールか。それはやむを得ないな」
山口長官は悔しそうに言う。
「ですが、空母レキシントンには多数の爆弾が命中したようですので、ミッドウェーでは出てこないのではないですか?」
奥宮航空参謀は山口長官に尋ねた。
「いや分からんぞ奥宮。姫神によれば、珊瑚海戦で損傷したヨークタウンを僅かな日数で飛行甲板を直したらしい。もしかしたら出てくるかもしれない」
既に聯合艦隊司令部や軍令部はミッドウェー作戦を了承して、艦艇の補給や修理をしていた。
「米海軍との第一次の決着をつけるのはミッドウェーだッ!!」
聯合艦隊司令部や軍令部はそう判断していた。
「申し訳ありません。少し楽観していたようです」
奥宮航空参謀は山口長官に頭を下げる。
「なに、仕方ない事だ」
山口長官はそう言って、視線を飛行甲板に向けた。
飛行甲板には三笠の零戦が着艦をしていた。
「それでは第二次攻撃隊は帰還中ですか?」
「あぁ。スコールで敵空母が見えないから、爆弾と魚雷を投棄して帰還中だ」
三笠の言葉に奥宮航空参謀が答える。
「………引き分けと考えるべきかね?」
山口長官は三笠に尋ねた。
「………まだヨークタウンが無傷なので探しだして叩くべきだと思いますが、こう雲が多くては………」
第二航空艦隊の上空は雲で覆われていた。
「………とりあえずは敵空母を探す。奥宮、ショートランド島にいる水上機部隊も索敵に加わるように伝えろ」
「分かりました」
ショートランド島には第二十五航空戦隊の水上機基地が設けられていた。
「敵空母を探せッ!!」
それから二日間、第二航空艦隊は米機動部隊を捜索した。
―――旗艦翔鶴―――
「米機動部隊が逃げただと?」
「はい」
奥宮航空参謀からの報告に寺岡参謀長は驚いた。
「ショートランド島の二式大艇からなんですが、発見した地点はインディスペンサブル諸島の沖合いで、進路はニューカレドニアに向かっています」
「偽装ではないのか?」
「全速でニューカレドニアに向かっているらしいです」
「………長官、どうしますか?」
三笠は山口長官に尋ねた。
「………我々の目的はポートモレスビーの攻略だ。米機動部隊が逃げたのならこの戦は我々の勝ちだ」
山口長官の言葉が艦橋に響き渡る。
「索敵機は直ちに帰還せよ。姫神、このままポートモレスビーへ進んだ方がいいかね?」
山口長官は姫神に聞いた。
「………オーストラリアのタウンズヴィルやケアンズを偵察しましょう。米軍の航空基地があるかもしれません」
「分かった。奥宮、直ちに偵察機を出せ」
そして第二航空艦隊から新たな偵察機が発艦した。
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