第十四話
―――十二月一日皇居―――
「陛下。残念ながらアメリカは我が国と戦う事を望んでいます」
皇居の『千種の間』で開かれた御前会議で首相の東條が陛下に言う。
「………そうか。やはり無理であったか……」
陛下は残念そうに言う。
「力及ばず申し訳ありません陛下」
東條は席を立って、陛下に頭を下げた。
「よい。宣戦布告はやはり十二月八日かね?」
陛下は東條に問う。
「はい。海軍のハワイ空襲にはアメリカ艦艇の真珠湾在泊が比較的多く、休養日である日曜日が有利と判断しております」
東條は陛下に言う。
「………宜しい。認めよう」
陛下はやや時間を置いて認めた。
「騙し討ちにはならないだろうな?」
陛下は最も恐れている事を尋ねた。
史実では宣戦布告の文書を提出するのに遅れて『リメンバー・パールハーバー』とアメリカ国内で言われた。
ルーズベルトが大使と会う時間を引き延ばしたとか言われているが……。
「大丈夫です陛下。攻撃十五分前に全世界へ発表します」
「………ならばよい」
陛下は頷き、御前会議は終了した。
そして十二月二日。
軍令部次長の伊藤整一少将は連合艦隊司令部に打電した。
―――連合艦隊旗艦敷島―――
「豊田長官。伊藤軍令部次長より電文です」
「うむ」
連合艦隊司令長官豊田副武大将は宇垣参謀長から電文を受け取った。
「大海令第十二号を開封せられたし……か」
豊田は電文に従って開封した。
文面を読んだ豊田は連合艦隊全艦隊に打電した。
『ニイタカヤマノボレ 一二〇八』
「開戦……か」
豊田は攻撃開始時刻を発信した後、そう呟いた。
なお、敷島とは日露戦争で活躍した戦艦敷島である。
史実では練習特務艦であったが、三笠が逆行した次週から大改装をした。
通信機能を大幅に特化するようにしたのだ。
勿論、石炭専焼缶から重油専焼缶に変えられて武装や艦橋、艦を伸ばす作業をしていた。
「まさか私が再び旗艦になろうとはな………」
戦艦敷島の艦魂である敷島は新しく生まれ変わった艦体を見ながらそう呟いた。
「まぁ最後の御奉公だ。派手にやるか」
敷島はそう言ってニヤリと笑った。
開戦が決定後、陸海軍は慌ただしく動いていた。
陸軍兵士を乗せた輸送船団を護衛する近藤信竹中将の第二艦隊は南部仏印のサイゴン沖合いにいた。
更に、南雲忠一中将が指揮する南遣艦隊もいた。
南遣艦隊には戦艦長門、陸奥、扶桑、山城がおり、空母は飛鷹、隼鷹、龍驤、千歳、千代田が配備されていた。
「………いよいよ日本の運命をかけた戦いが始まる。全員一丸となってアメリカ、イギリスに立ち向かおうッ!!」
戦艦長門の第三会議室で長門が南遣艦隊全艦艇に訓示をしていた。
『オオォォォッ!!』
長門の言葉に各艦魂達は拳を上に上げて叫んだ。
「陸さんも新型戦車を投入するみたいだから輸送船団は守らないとね」
扶桑は頷く。
陸軍はマレー作戦に新型戦車八十両を投入しようとしていた。
名前は一式中戦車『チハ』である。
武装は八十ミリ戦車砲一門、七.七ミリ機関銃一、十二.七ミリ機関銃一である。
装甲は前面に七十ミリと日本陸軍戦車の中でダントツに厚めである。
速度は三十八キロであるが陸軍にしては上出来だった。
名前がチハなのは史実でやられまくったチハの生まれ変わりとしている。
なお、八十ミリ戦車砲は海軍の旧式高角砲で八センチ高角砲を戦車砲に改造したのである。
陸軍は一式中戦車を集中的に生産するために九七式中戦車やその改良型、九五式軽戦車の生産を中止して一式中戦車のみを生産していた。
この時点での生産は百二十両だったが、三分の一の四十両は満州に配備されていた。
また、ドイツから提供されたロケット技術で日本陸軍版のカチューシャが試作されたり、日本陸軍版のパンツァーファウストも開発されてたりする。
そして、日本帝国は運命の日である十二月八日を迎えるのであった。
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