第百三十四話
――オアフ島、聯合艦隊旗艦敷島――
「……長官、如何致しますか?」
通信紙を持ってきた通信参謀が豊田長官に聞いた。
「……ロスアラモスに約三百機あまりの戦闘機か……いくら富嶽でもそれを突破して研究所を破壊するのは不可能に近いだろうな。特攻隊で無い限りな……」
「……では?」
「……不本意であるが仕方なかろう」
豊田長官は椅子から立ち上がる。
「……全艦隊と富嶽隊に打電せよ。作戦は中止、直ちにハワイに帰還せよと伝えろ」
「……分かりました」
通信参謀は豊田長官に頭を下げて退出した。
「……何たる事だッ!!」
バァンッ!! と豊田長官は机を叩いた。
「……これが定められた歴史だと言うのかッ!!」
豊田長官はそう叫んだ。
――第二機動艦隊旗艦翔鶴――
「さ、作戦は中止ッ!?」
「……そうだ」
三笠の叫びに山口長官は頷いた。
「富嶽隊に何かあったのですか?」
「……どうやら強行偵察に向かった彩雲隊が敵戦闘機の迎撃を受けたらしい。彩雲隊がそれを偵察したらロスアラモスには彩雲隊が見つけただけで五ヶ所の滑走路があった」
「……予め備えていたというわけですか?」
「恐らくそうであろうな」
三笠の言葉に山口長官は頷いた。
「それにより豊田長官は富嶽隊の危険を危惧して作戦中止を発令したそうだ」
「……悔しいですね」
三笠は右拳を握り締める。
「だが……シアトルのボーイング社工場は叩けた。半分は成功したと言っていいだろう」
山口長官はそう言う。
「全艦回頭。真珠湾に帰還する」
第二機動艦隊は回頭して帰還を始めた。
「……無念だ。奴等の研究所を叩けば多くの非戦闘員の命が救われると言うのに……」
戦艦金剛の防空指揮所で艦魂の金剛はそう残念そうに言う。
「なに、また次がある」
金剛はそう言って刀を抜く。
「待っておくのだなアメリカよ。次こそは貴様らの首を取る」
金剛は米本土に向かってそう誓ったのであった。
そして全ての艦隊はハワイへと向かった。
――ホワイトハウス――
「何ッ!? ジャップがサンディエゴとサンフランシスコとその金門橋を攻撃しているだとッ!!」
報告を聞いたルーズベルトは信じられない表情をしている。
「……奴等は……奴等はサタンの使いなのだろうか……くッ!!」
ルーズベルトは近頃痛み出した左胸を押さえる。
ルーズベルトの疲労は既に限界を超えて溢れそうだった。
「た、大変ですプレジデントッ!! シアトルのボーイング社工場がジャップの爆撃を受けて工場は壊滅しましたッ!!」
「何ッ!?」
部下からの報告にルーズベルトは驚く。
「……まさか奴等の本命はシアトルとロスアラモスかッ!!」
そのための布石としてサンディエゴとサンフランシスコを陽動として爆撃したとルーズベルトは考えた。
「それでB-29は?」
「は、生産していたB-29は全て破壊され灰塵化となりました。工場の復旧は約一年後になるかと……」
「……何てことだ」
ルーズベルトはぐったりと椅子に座り込む。
ルーズベルトの表情は既に暗くなっており冷や汗も出ており弱りきっていた。
「…… まさかロスアラモスは既に……」
「大変ですプレジデントッ!! ロスアラモスが……」
そこへまた新たな部下が駆け込んできた。
「まさかロスアラモスは……ぐぅッ!?」
その時、ルーズベルトはまた左胸を押さえた。
「プレジデントッ!?」
ルーズベルトは椅子から落ちた。
「プレジデントッ!!」
部下が慌ててルーズベルトを抱き起こす。
「プレジデントッ!!」
ルーズベルトの右手がゆっくりと床に落ちた。
そして閉じられたルーズベルトの目は再び開く事なかった。
アメリカ合衆国大統領フランクリン・D・ルーズベルトはその生涯を閉じた。
病名は心臓麻痺であった。
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