第百二十六話
――八月八日、サンディエゴ沖約六百キロの地点――
「おい、航跡が見えたぞッ!!」
サンディエゴ基地から発進したカタリナ哨戒艇が偵察飛行をしていた。
その時、一人の乗員が航跡らしき物を見つけた。
「おいおいトム。昨日のビールが抜けてないのか? 周りは雲だらけで海面は見えてないぞ」
パイロットが笑う。
カタリナの周囲は雲に覆われていたのだ。
「いや、雲の隙間から見えたんだッ!! 少し降下してくれ」
「仕方ないな。今日のビールは奢れよトム」
パイロットは降下をした。
「イルカかクジラの移動を間違えたんじゃないかトム? 昨日もそうだったしよ」
銃手が笑う。
「だったら構わないんだが……」
そしてカタリナは雲を抜けた。
海面には多数の艦隊がいた。
「ジャ……ジャップの艦隊だッ!?」
「……クレイジーだ。ジャップめ、本土を狙うつもりかッ!!」
「後方からジャップの戦闘機だッ!!」
銃手の言葉と共に上空迎撃の任務をしていた陣風三機から三十ミリ機銃弾が放たれた。
大量に放たれた三十ミリ機銃弾は、カタリナの両エンジンを貫いてカタリナは瞬く間に爆発四散をしたのであった。
――空母大鳳艦橋――
「……カタリナから電波は放たれたのか?」
撃墜場面を見ていた小沢長官は通信室に訊ねた。
『いえ、カタリナから電波は発信されておりません』
伝声管を通して通信兵が答えた。
「……戦前にしては奇跡ですな。これは作戦も成功するでしょう」
草鹿参謀長がそう呟いた。
「参謀長、そんな軽はずみな発言は控えておくんだ」
小沢長官は草鹿参謀長を戒める。
「そのようですな」
草鹿参謀長は苦笑した。
「小沢長官、攻撃隊の発艦準備完了しました。何時でも行けますッ!!」
飛行甲板で状況を見ていた内藤航空参謀がそう報告してくる。
「よし、全空母に発光信号ッ!! 攻撃隊発艦せよッ!!」
空母大鳳から発光信号が全空母に送られ、飛行甲板で待機していた攻撃隊のプロペラが回り出した。
そして攻撃隊は乗組員達からの『帽振れ』に見送られながら発艦していく。
攻撃隊は烈風七二機、陣風三十機、彗星百二機、天山百二機(雷装四二機、残りは爆装)の編成である。
第一機動艦隊の他にも、第二機動艦隊からも烈風五四機、陣風三十機、彗星五四機、天山五四機が発艦してサンディエゴを目指す予定だ。
また、少し離れている第二機動艦隊はサンフランシスコをも爆撃するために烈風七二機、陣風三十機、彗星七二機、天山七二機を攻撃隊として発艦させていた。
「参謀長、彩雲からの報告はまだ無いのか?」
「は、まだ報告はありません」
小沢長官の言葉に草鹿参謀長は首を振る。
彩雲は西海岸付近にいるはずの敵機動部隊を捜索していた。
伊号潜の事前偵察では八隻の大型空母がいたのは確かであった。
「もし側面から叩かれたらいくら我々でも壊滅する」
小沢長官はそう思っていた。
この時、敵機動部隊は確かに西海岸にいた。
しかし、八隻のうち三隻はサンディエゴにて補給中だった。
残りの五隻は護衛艦と共にサンディエゴ沖合いのサンクレメンテ島付近にいたのだ。
――第二機動艦隊旗艦翔鶴艦橋――
「……パイロット達に負担をかけさせてしまうな」
艦橋で山口長官が呟いた。
第二機動艦隊は戦艦部隊を支援するためにサンフランシスコを爆撃する事が追加されていたのだ。
本来ならサンディエゴを爆撃する予定だったが……。
「今回が正念場ですのでパイロット達も分かってくれるでしょう」
三笠はそう言った。
「……頼むぞ」
山口長官は飛び立った攻撃隊にそう呟いた。
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