第百十二話
アイオワに落下してきたのは三発の五一センチ砲弾であった。
残りは至近弾となって高い水柱をあげた。
「後部三番砲搭被弾ッ!! 三番砲搭使用不能ッ!!」
「右舷両用砲群に命中弾ッ!! 火災発生ッ!!」
「後部カタパルト吹き飛びましたッ!!」
リー中将の元に被害報告が次々入り込んでくる。
「消火急げェッ!!」
ダメコン隊が消火ホースを持って火災現場に向かう。
「射程距離にまだ入らないのかッ!!」
「最大射程距離に入りましたッ!!」
リー中将の叫びに、測定をしていた士官が叫んだ。
「よし、直ちに砲撃開始ィッ!!」
「ファイヤーッ!!」
アイオワ以下の戦艦群は一斉に砲撃を開始した。
――旗艦大和――
「敵戦艦部隊発砲ッ!!」
「……我が戦艦部隊の砲撃も中々当たっているな」
宇垣長官が炎上するアイオワを見ながら呟いた。
「連日に渡る遠距離砲撃訓練の成果ですね」
「うむ」
宇垣長官が頷く。
史実の遠距離砲撃は海軍が予想していた数値よりも酷かった。
特に例としてあげられるのがスラバヤ沖海戦であろう。
昼戦において重巡二隻が撃った主砲弾は1573発だが、命中弾を確認したのは僅か四発のみで命中率は0.025%にしかならなかったなだ。
戦前では5%あまりの命中率を重巡部隊は出していたが命中率想定が甘過ぎた事のである。
三笠の指導もあって重巡、戦艦部隊の砲撃訓練は一層厳しくする事が決定されて重巡、戦艦部隊は猛訓練をしてきたのである。
「長官、長門以下の戦艦も砲撃を開始します」
「うむ」
距離が三万八千になってきたので長門以下の戦艦も砲撃を開始した。
長門型は大和型が搭載していた四六センチ砲を流用し、扶桑型、伊勢型は長門型が搭載していた四十一センチ砲を流用していた。
猛訓練のせいなのか、初撃から至近弾を出していた。
しかし、米戦艦部隊は目標を大和と武蔵に絞っていた。
大和と武蔵の周囲に次々と砲弾が落下して水柱をあげる。
「……やはり大和は狙われるな」
「はい、奴等の目標は大和と武蔵ですからね」
「敵戦艦発砲ッ!!」
見張り員が叫ぶ。
「……次くらいに当たるだろうな」
「砲弾来ますッ!!」
士官の言葉と共に砲弾が落下してきた。
そして遂に大和に命中弾が出た。
『左舷三番高角砲被弾ッ!!』
『負傷者多数ッ!!』
『一番砲搭に命中あるも被害無しッ!!』
砲弾は大和の左舷三番高角砲と一番砲搭に命中した。
左舷三番高角砲は吹き飛び、高角砲員は四肢を吹き飛ばされるか肉片となってしまう。
「ヒイィッ!?」
左舷一番高角砲員の一人が、飛んできた臓物を見て腰を抜かした。
「しっかりしろッ!! 俺達はまだ死んでねぇッ!!」
古参の水兵長が腰を抜かした一等水兵を励ます。
「消火急げェッ!!」
応急隊が辺り一面に血の水溜まりが出来て燃えている左舷三番高角砲に消火活動をする。
「衛生兵ェッ!!」
「負傷者を運ぶぞッ!!」
右足を吹き飛ばされた水兵を二人の衛生兵が医務室へ運んでいく。
また、一番砲搭にも命中弾はあったが、砲搭の厚い装甲により落下してきた砲弾は弾き飛ばされて右舷の海面に水柱をあげた。
「流石は砲搭だぜ。俺達を守ってくれるぞ」
一番砲搭内にいた一等水兵がニヤリと笑う。
「笑ってる暇があれば作業に入れッ!!」
それを見ていた水兵長が一等水兵に怒る。
「……被害は少ないようだな」
「ですが、だんだんと命中率は高くなるでしょうな」
「あぁ、奴等はレーダー射撃をするからな」
再び砲弾が落下してきて、三番砲搭に命中するがこれも弾き飛ばされる。
しかし、砲弾は置き土産をしていた。
『三番砲搭旋回不能ッ!!』
「……三番砲搭は動きを封じられたか。だが、砲搭が敵戦艦部隊に向いているのが幸いだな」
宇垣長官はそう呟いた。
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