第十話
―――八月中旬―――
度重なる満州からの撤退を促していたアメリカは日本に対して石油の輸出を禁止した。
史実より一ヶ月程遅い輸出禁止だが、禁止は禁止である。
このままだと、日本陸海軍は干乾しになるのは明白であった。
そして八月下旬。
日本は仏印に進駐を始めた。
ルーズベルトも予想通りとほくそ笑み、若干の衝突はあると考えていたが、全くの衝突はなくあっという間に仏印全土が日本に進駐された。
―――ホワイトハウス―――
「何の抵抗も無かったのか?」
「はい。どうやらジャップは前々から交渉をして根回しをしていたようです」
「うぅむ………」
ハルの報告にルーズベルトは唸る。
「ですが、我々も戦争に参加するかもしれません」
「うむ。連日、チャーチルが参戦を要請してきているが、選挙での公約で我々かろ参戦は出来ないからな」
「はい、その代わりに武器の輸出をしていますが」
「うむ。たが、チャーチルはそれでは足りないと言ってきておる。日本に対する警告を強めにした方がいいだろうな」
「幸い、ジャップのノムラやクルス大使は我々が強気に出れば弱く出ます。そこを突いて、交渉します」
「うむ。頼んだぞハル」
ルーズベルトの言葉にハルは力強く頷いた。
―――九月上旬、海軍省―――
「失礼します」
「うむ」
海軍省の大臣室に三笠が入ってきた。
「まぁかけたまえ」
今だに海軍大臣をしていた吉田善吾は三笠にソファーに座るよう促す。
「近衛公は首相を降りるようだ」
「………やはりそうですか。史実でも中国との戦いを泥沼化させてますからね」
「そして、有力な首相候補は米内さんか東條さんだが………」
「………此処は吉田さんで行きませんか?」
「ん?わ、儂か?」
三笠のいきなりの言葉に吉田は驚く。
「もし戦になった場合、主戦場は太平洋です。陸軍の東條さんがやるより吉田さんが適任だと思います」
「ふむ。しかし、米内さんは?」
「………米内さんはソ連と親密の関係があるかもしれません」
「何?」
三笠の言葉に吉田は目を見開く。
「米内さんはソ連に何回か駐在していました。吉田大臣、米内さんで有名なのは何ですか?」
「有名……女好きかッ!?」
「はい」
吉田の言葉に三笠は頷く。
「米内さんの女好きは吉田大臣の知っての通り有名です。もしかしたらソ連駐在時に、米内さんはハニートラップに引っ掛かった可能性があります」
「むぅ……確かに無いとは言いにくいな」
吉田大臣は腕を組みながら呟く。
「それで儂に首相になれと?」
「はい。別に東條さんでも構いませんよ。あの人は陛下には忠臣ですからね」
「ふむ。このまま行くと東條さんが首相に任命される可能性はあるな」
「なら東條さんでいいでしょう。それと、山本長官なんですが……」
「山本も何か問題があるのか?」
「率直に申しますと、山本長官はGF長官より、次官等をやって大臣を支えた方がいいと思います。戦術家というより軍政家タイプですから」
「ふむ、そうなるとGF長官は誰にするかだが………姫神少佐ならどうするかね?」
吉田大臣は三笠に聞く。
「自分としては山口さんや小沢さんが適任だと思いますが、海軍は海兵の成績で決めているので山本さんの後だと古賀さんか豊田さんのどちらかですね」
「そうか……なら豊田に任してみるか」
吉田大臣はそう決断した。
「しかし、急に代えるのも不自然ではないか?」
「確かにそうですけど、この際仕方無いと思います」
「ふむ………分かった」
吉田大臣は頷いた。
「それと、君にはやってもらいたい仕事がある」
「何でしょうか?」
「君には……………をやってもらいたい」
「………え?」
吉田大臣の言葉に三笠は目を点にした。
それから九月中旬。
吉田大臣は突然、連合艦隊司令長官の変更を発表した。
山本五十六は海軍次官となり、後任には豊田副武大将が着任したのであった。
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