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第5話:騎士の誓い

ボクはあの夜以来、寝るときはいつもリーゼと一緒に寝ることになった。


ボクはリーゼのことが大好きだけど、たまには一人で寝たいときもあった。


なぜなら、リーゼが寝ぼけて抱きしめてくると凄く体が痛いんだ。


しかも力が強いからお母さんが起こしにくるまで抜け出すことができないんだ。


それにお母さんもお父さんもボクと一緒に寝たいといって家族で喧嘩することもあった。


「エテルナ君はリーゼだけのものじゃないのよ、みんなのエテルナ君だから」


「お母様にはお父様がいるでしょ!」


「あら、だったらクロムウェルはリーゼに貸してあげるわ。だから,エテルナ君を貸してー」


「だったらリーゼは私と寝ようか?」


「一人で寝てください!」


という感じで楽しく喧嘩してるんだ。


いまさらだけど、お父さんの名前は今まで聞いたことがなかったのをつい最近になって気づいたんだ。


名前はクロムウェル・アインシュタイン。


アインシュタイン家が仕えているアスガルド王国の大将軍の地位にいる偉い軍人らしい。


戦場では勇猛果敢な猛将と言われているらしく、敵国には死神と言われて恐れられてるんだ。


お母さんであるカトリーヌ・アインシュタインも近衛将軍として、お父さんと共に戦場を活躍しているようだった。


それでもボクにとっては面白くて優しいお父さんでお茶目で綺麗なお母さんでしかない。


ちなみにアインシュタイン家の使用人のみなさんも王国軍の精鋭部隊として頑張っているんだ。







けど…。








最近、さらに血の匂いが濃くなっているような感じがする。


帰ってくる使用人さんがだんだんと少なくっているのは気のせいだろうか。


リーゼの話だと戦争はますます激化しているらしい。


一番脅威なのはアスガルド王国と長年幾度も交戦したことがある神聖セフィロード帝国だとリーゼは言っていた。


セフィロード帝国には神のお告げを聞いた神官がいて、その影響で急速に力を付けていき、既に三カ国も滅ぼしたというのだ。


さらに今はアスガルド王国の隣国と交戦中で、間もなくその国も滅ぼされるだろうとのことだ。


つまり、もうすぐセフィロードの毒牙がアスガルドに向かってくるだろうとの話だった。


迫り来るセフィロードとの戦いのためにアスガルド王国は周辺地域を平定していかなかればならない。


だから、騎士一家であるアインシュタイン家は日々戦いに明け暮れることになってしまうんだ。


多分、使用人が少なくなってるのはおそらく戦場で…。


いずれ、お母さんもお父さんも…。


ボクには癒す力はあっても戦う力、人を殺す力はもってない。


いや、もちたくないというべきなんだろうか。


ボクには家に帰ってくる家族の傷を癒すことしかできない。


しかも死んだらどうにもすることができない。


無い物ねだりなんてしても仕方ないけど、それでも戦う力も欲しかった。


ボクの体は朽ちたりしないけど、同時に変わることも無い止まった体だ。


いくら運動しても筋肉がつかないし、いくら走ってもそれ以上に早く走れるようにはならない。


それに決して成長しない。


そう考えるとボクはいつまでアインシュタイン家にいられるんだろうか。


周りが年老いてもボクだけは子供のまま…。


そうなれば、いずれ…。


戦争のことと体のことでボクの頭はぐちゃぐちゃだ。


あと、リーゼは何か途轍もなく重要なことを言っていて、ボクはそれを聞き逃した気がしてた。


なんだっただろうか。


リーゼの話にボクが不安がっているのを察したのだろうか、リーゼはボクを抱きしめてくる。


「大丈夫、もうすぐ私は大人になって騎士として戦えるようになれる。そうしたら私がエテルナを絶対に守ってみせるから」


最近、ボクはリーゼに抱いてもらうことが多くなっていた気がした。


リーゼはもうすぐ騎士になれる年齢だった。


いよいよリーゼも戦場へと行ってしまうんだろう。


ボクはリーゼに戦場へ行って欲しくない。


けど、ボクが言っても、きっとリーゼは止まらないだろう。


リーゼは代々騎士を輩出してきた名門アインシュタイン家の血を引いているから。


「私は騎士になって戦うことが生き甲斐。けど、騎士になるのは王国や家のためだけではないんだよ…」


リーゼはボクをさらに強く、だけど優しく抱いて耳元で囁いてくる。


「私はエテルナの騎士になりたいの。君を苦しめる全てのものから守りたいから…」


リーゼは騎士にはまだなってなかったけど、すでに騎士になっていたんだ。


何だかリーゼがボクの手から放れて遠くに行ってしまいそう感じがした。


リーゼの吐息がボクの頬をくすぐってくる。


「ねえ、初めて出会った時のことを覚えてる?私が初めて見た君は何か大きいものを背負っている感じで、それでも立ち止まることが出来ないようなそんな悲しいような顔をしていたわ」


そうだ、ボクが初めてリーゼに出会ったのは…。


『あれ?君、泣いてるの?』


ボクが故郷を失って悲しんでいたとき、リーゼはそう言ってボクに話しかけてくれた。


『辛かったんだね、君…』


ボクはリーゼに抱きしめられて泣いたんだった。


今でも忘れられない掛け替えのない思い出。


「私は君を抱きしめたときから守ろうと決めてたんだよ」


リーゼの声がボクの耳に、心に響いてくる。


「お父様は言ってた、騎士が戦うことができるのは守るべき存在があるからだと。だから私は誓った。私が騎士として戦うのはエテルナを守るためだと、私の愛しい天使をこの荒んだ世界から守るためだと…」


リーゼはボクに騎士としての誓いを宣言していた。


ボクがこの世で一番大好きな人は誰よりも気高かったのだ。


けど、ボクにはそんな資格は無い。


だって、ボクは永遠に生き続ける…。


「一足先に君にだけ早く騎士の誓いを立てとくね…」


リーゼはボクを抱いていた手をほどいてボクの手を取った。


「アスガルド王国騎士団団長クロムウェル・アインシュタインの長女リーゼロッテ・アインシュタインは貴方の騎士になることをここに誓います。私は剣となり盾となり、貴方を阻む全ての敵を討ち砕きましょう」


そして、ボクの手の甲に湿った暖かいものが押し当てられる。


騎士の忠誠の接吻だった。


リーゼはボクの騎士になったんだ。










そして、リーゼは大人になり、いよいよ騎士授与式に出ることになる。


騎士授与式はアスガルド王国の城で行うこととなった。


アスガルドが誇るアインシュタイン家の長女の騎士授与式なのだと王様が大々的に執り行うらしい。


ボクもアインシュタイン家の一員として出席することになった。


ボクにはリーゼの晴れ舞台の姿が見ることができない。


でも、もうリーゼとは二人だけで騎士授与式をやったから全然平気だった。


ボクはリーゼに騎士の接吻をされた手の甲をさする。


これから先、永遠に生き続けようとあの瞬間のことを決して忘れないだろう。


もうすぐ授与式が始まる。


リーゼの夢が叶うときだ。


そのとき、無骨な金属音が会場に近づくのを感じる。


かなり慌てた足取りだ。


「申し上げますっ!」


「何事だ!今が神聖なる騎士授与式と知ってのことか!」


会場にがやがやと戸惑ったかのような声が沢山響く。


慌てて来たのは王国の兵士なのだろう。


血の匂いがわずかにしてた。


「神聖セフィロード帝国がガルバトス王国を滅ぼしたとのことです!」


会場の空気が一気に冷えた感じがした。


がやがやとした声が聞こえなくなる。


ボクの隣にいたお父さんもお母さんも何だか体が固くなったかのように動かなくなってた。


ガルバトス王国。


確かアスガルド王国の隣国で神聖セフィロード帝国と戦争してた国だ。


そのガルバトス王国が滅ぼされたんだ。


だったら、セフィロードが次に狙う獲物は…。


「セフィロードは我が国を攻めるべき戦の準備をしてるとのことです!」


ついにアスガルドにもセフィロードの毒牙が迫ってきたんだ。


「して、敵将は誰ぞ!」


「はっ!噂の神の信託を受けた神官アスタロト・ヴァンシュタインです!」


会場の空気がさらに冷えた感じがする。


ボクも体が冷えてきた。


思い出した。


リーゼが言ってた重要なこと。


セフィロードにはボクと同じ神様のお告げを聞いた者がいるということを。


アスタロト・ヴァンシュタイン。


名前からして男なのだろう。


彼もボクと同じような力を得ているのだろうか。


それともただの狂信者の戯言なのか。


できれば後者であってほしい。


けど、例え後者であっても、セフィロードがここに攻め込んでくるのは確かなんだ。


ボクは地獄の業火に包まれていった村のことを思い出す。


このアスガルドもまたそうなってしまうんだろうか。


またボクは大切なものを失ってしまうのか。


神様、応えてください。


これがボクに下した大いなる試練なのでしょうか。









そして、ボクはこれから始まっていく戦争で自分の課せられた残酷な運命を知ることになる。

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