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最終話:リーゼロッテ・アインシュタインへ捧ぐ

セフィロードとの戦いから一ヶ月。


ボクとリーゼは目まぐるしい日々を送った。


セフィロードにより壊滅的打撃を受けた国々の復興運動。


アスガルドの戦後処理。


今回の戦いで世界の半数の国家戦力が壊滅したという話だった。


そして、何カ国も滅ぼし、世界に恐怖を与えていた神聖セフィロード帝国の消滅をきっかけに戦乱の世に終わりを告げることになったんだ。


要するにどの国も戦争する余裕は無かったんだ。


皮肉なことだった。


結局はアスタロトの目論見通り、世界はある意味、浄化されたことになったんだ。


今回の戦いはセフィロードの乱、さらには戦乱の世に天罰を下した神の大審判と呼ばれ、後世の歴史に記されることになったらしい。


ボクとリーゼは必死に戦争で被害を受けた人の支援活動していった。


リーゼは魔力を絞り出してしまった影響で剣が握れなくなってしまった。


戦うことが出来なくなったリーゼだけど、全然気にすることなくアスガルドの戦女神として先陣を切って救済活動していってた。


戦えなくなってしまってもボクにとってリーゼは真の騎士なんだ。


世界各地で復興が行われ、早一年経っていった。










「ここは何も変わらないわ…」


ボクはリーゼと共に思い出の場所にいった。


思い出の場所。


リーゼと初めて出会った場所。


「ここでこうして君に出会ったのが全てのきっかけだったわね…」


まさしくそうだった。


ボクとリーゼは出会い。


一緒に過ごし。


一緒に戦い。


一緒に乗り越えたんだ。


おそらくボクの人生でこれほどの波瀾万丈な日々はこれから先無いんだと思う。


悲しい運命を背負った双子。


アスタロトとアスタロテ。


二人にはたくさん奪われてしまったけど、たくさん学ぶこともあった。


これから先、あの二人を忘れることは決してないだろう。


もしかしたらボクとリーゼのもう一つの未来の姿だったのかもしれないから。


ボクもおそらくリーゼに出会わなかったら、アスタロトみたいに世界を呪っていたかもしれない。


そう思うと憎み切れないんだ。


アスタロテはボクにたくさん教えてくれた。


リーゼと一緒に過ごしていけるのも彼女のお陰だ。


天国でアスタロトと仲良くして欲しいと思う。


二人のことは絶対に忘れない。










ボクとリーゼはある場所に行った。


かつてのボクの村があった場所だ。


たくさんの花の香りがしていた。


まるで村のみんなが花に生まれ変わってボクを歓迎しているみたいに。


確かにボクが生きた証があったんだ。


リーゼが後ろから抱きしめてきてくれる。


ボクは村のみんなを思いだして泣いてしまった。


リーゼは何も言わず、ただ抱きしめてくれた。











ボクは演奏会に呼ばれた。


生前、お父さんが認めた楽譜の本がもの凄く評判が良かったらしい。


ただでさえお金持ちだったアインシュタイン家がさらにお金持ちになるほどに。


けど、儲けたお金は全て戦争で家族を亡くしてしまった人達に寄附することにしたんだ。


そうした方が楽譜を認めてくれた天国のお父さんも喜ぶと思ったから。


ボクとリーゼは演奏旅行で世界中を飛び回っていった。


「人気者は辛いわね。けど、エテルナに悪い虫が付かないようにしないと…」


リーゼは時々、ボクに挨拶してくれる女の人を威圧するかのような雰囲気を出していた。


女の人は親切だったのになぜ、リーゼは怒るんだろうか。










セフィロードの乱から三年。


リーゼが歩けなくなった。


リーゼの体が突然変異で変わってるとお医者さんが言ってた。


ボクの治癒術は人間のあるべき姿に戻す術。


元々の体が変化してしまってはボクの治癒術でも完全に治せない。


リーゼの体はどんどんと弱くなってきている。


ボクはリーゼの体の悪化を止めるために毎日治癒術をかけることにしていった。


「これは君を守れた名誉の負傷よ。だから、私は後悔してないわ…」


リーゼはそう言って、ボクに変わらず笑いかけてくれる。













セフィロードの乱から五年。


ボクは車椅子にリーゼを座らせて外で散歩だ。


「やっぱり外の空気は気持ちいいわ…」


最近、リーゼはベットで寝る時間が増えていた。


だから、ボクはリーゼに美味しい空気を吸わせたいと思って、外に連れ出した。


「何だか毎日が掛け替えのない一日のように感じてくる。不思議ね…」


リーゼはアスガルドの大自然を見渡して懐かしげに呟く。


どんどんと体が弱ってきてるリーゼだけど、いつまでもリーゼのままだ。


「エテルナ、ちょっとこっちに来て」


ボクはリーゼに言われるがまま近づいていく。


ボクの頭にリーゼの腕が回り、柔らかいものに押しつけられる。


ボクの頭がリーゼの膝に埋まってるんだ。


「君はいつまでも変わらないわね…」


そう言って膝に乗せたボクの頭を撫でてくれた。


ボクはリーゼの腕が細くなってるのを感じた。










セフィロードの乱から十年。


ボクとリーゼはアインシュタイン家から出て山小屋に過ごすことにした。


体を動かすことが出来ないリーゼには広すぎる家だったからだ。


ボクとリーゼは自然が奏でる音色に囲まれて毎日を過ごしていった。












セフィロードの乱から十五年。


「エテルナ、私は幸せよ。君と毎日過ごせる日々が…。だから、毎日が掛け替えのない一日になっていくの…」


リーゼはいつものリーゼだった。


けど、最近、声が少し変わってきている。


ボクの頭を撫でてくれる手が細くなってきている。


リーゼは変わらない。


けど、変わってきているんだ。


なぜか切なくなってきた。













セフィロードの乱から二十年。


とうとうリーゼが起き上がることが出来なくなった。


ボクはベットを窓際に置いて少しでも外の景色が見えるようにした。


ボクはベットで寝ることしか出来なくなったリーゼのために毎日ハープを聞かせていった。


リーゼはいつもと変わらない拍手で喜んでくれる。


リーゼはいつも笑いかけてくれている。


何だか切ない。


本当は辛いはずなんだ。


もう外に出られないんだから。


ボクに心配をかけないために笑ってくれてるんだ。


だったら、ボクもリーゼを悲しませないために笑わないといけない。











セフィロードの乱から二十五年。


ボクはリーゼに喜んでもらうために新しい曲を作ることにした。


この曲は楽譜に残すつもりはなかった。


リーゼのための曲だ。


「楽しみだわ。君の新曲、私のためだけの曲を聴けるなんて…私は世界で一番の幸せ者かもしれないわ…」


リーゼの声が掠れてきている。


もう話すのも辛いのかもしれない。


なぜか目が熱くなってきた。


ボクは急いでリーゼの部屋から出ていった。


このままだとリーゼを悲しませてしまうから。










セフィロードの乱から二十六年。


リーゼはなかなか目を覚まさなくなってきた。


あれから何度も曲を作ろうとしたけど、なぜか作れなかった。


いつもは早く曲が作れるのに。


「そういえば、君はよく私の部屋に忍び込んでは勝手にベットを占領していたわね…」


リーゼは最近、よく昔のことを話すようになってきた。


まるでもうすぐ終わってしまうから振り返っているような。


そんな感じ。


どうしても曲が作れない。


なぜ作れないんだ。


リーゼの笑い声が痛々しい。


私のことは大丈夫だから。


リーゼの笑い声がボクにそう言ってるような気がした。









ある日、リーゼはボクに言ってくれた。


「私はもう年を取ってしまったわ。けど、君は変わらない。何だか切なくなるけど…。それ以上に私は嬉しいの。君が変わらず側に居続けてくれることが…。だから、そんなに悲しまないで…」


リーゼはお見通しだったんだ。


ボクがだんだん弱ってきてるリーゼを感じて、悲しんでることを。


ボクはリーゼの胸に抱きついて泣いてしまった。


リーゼもボクが悲しんでるのを我慢している姿が悲しかったんだ。


「君が泣いているのを見るのは久しぶりね…。我慢しなくてもいいのよ…」


ボクはリーゼの胸の中でいつまでも泣き続けた。


今まで我慢した分を全て出し切るように。











ボクの頭の中にふと音色が奏でられていた。


リーゼと初めて出会ったこと。


リーゼと一緒のベットで寝たこと。


リーゼに初めてハーブを聴かせたこと。


リーゼと戦場で一緒に戦ったこと。


リーゼと共に困難を乗り越えてきたこと。


リーゼはボクの片翼の天使。


リーゼはボクの真の騎士。


リーゼはこの世で一番大好きな人。











作れる。


今度こそリーゼのために。


今までで一番最高の曲を作ってみせる。


作曲家は自分の作った曲を恩人や偉い人に捧げていたらしい。


ボクの作った曲はこの世界で一番大好きな人。


リーゼロッテ・アインシュタインに捧げるんだ。









ついに曲が完成した。


ボクの最高傑作。


ボクはリーゼの部屋に入った。










リーゼは起きている。


そして、ボクに話しかけたんだ。


「エテルナ、君は永遠に生き続けるわ。辛い別れを何度も経験することになる。けど、それは価値あることなのよ。それだけ素晴らしい出会いをしてきたという証でもあるのだから。だから、出会いを大切にしてね…。君にはたくさん凄い物があるのだから、きっと素敵な出会いがあるわ…これから先…ずっと…」


か細いけど、ボクに染み渡る感じでリーゼの言葉が響き渡ってくる。








「さあ、聴かせて。君の最高傑作を…」









ボクはハープを取り出す。













「天使の歌声を…」











ボクは想いを音色に乗せて奏でる。





リーゼとの掛け替えのない日々を。




楽しかったこと。




辛かったこと。




苦しかったこと。




喜んだこと。







全てを。













リーゼロッテ・アインシュタインへ捧ぐ。










そして、ボクは弾き終える。
















けど、いつもの拍手が無かった。














ボクはリーゼと過ごした山小屋を燃やした。


リーゼとの思い出はボクの中にある。


リーゼ。


間違えなくボクはリーゼと素晴らしい出会いが出来たよ。




だって。




こんなにも。





悲しいから。





涙が止まらないよ。






リーゼ。






素敵な出会いをありがとう。






ボクはリーゼの想いを胸に抱いて。






永遠に生きていく。












さようなら、リーゼ。



















ありがとう、リーゼ。

最後までご覧になってありがとうございます。

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