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第23話:アスタロトとアスタロテ 

ボクの体を縛っていた気持ち悪い感触の縄はいつの間にか解けていた。


「どうやら目が覚めたみたいね…」


アスタロテだ。


どうして、こんなところにいるんだろう。


「姉様は今は天使と共に血肉を調達してるわ。私の手につかまって!」


ボクはとりあえずアスタロテに手を引かれるまま走っていった。










アスタロテはアスタロトの妹だ。


それにアスタロトの命令には絶対従うはず。


ボクを逃がす命令が出たなんて有り得ない。


どうしてボクを助けてくれたんだろうか。


「神様の世界を復活させたところで姉様の欲しいものは何一つ手に入らないわ」


アスタロトの欲しいもの。


何か欲しい物があったんだろうか。


「姉様が欲しい物は自分を分かってくれる人よ。私を守るために体を売り、地獄のような世界を見てきた自分を…。でも、そんなの見つかるはずがない。姉様の世界は姉様にしか理解できないもの…」


うめき声が前方から聞こえてくる。


天使だ。


「大丈夫よ。天使は私達には手を出せないはず…」


そうだ、確かアスタロトがアスタロテとリーゼロッテには手を出さないように命令を出したはずなんだ。


ボクとアスタロテはうめき声が聞こえてくる道を止まること無く走っていく。


「姉様が見つけるべき相手は自分を出せる相手、自分を受け入れてくれる相手よ。理解してくれる相手じゃない。理解しようと思うのは大切だけど、完全に理解してくれる人なんて存在するはずがない。それに姉様は気づいてないのよ…」


理解してくれる相手じゃなくて自分を出せる相手。


そして、受け入れてくれる相手。


そういえば、リーゼは老いることもなく、死ぬこともないボクを受け入れることをアスタロトに言っていた。


ありのままのボクを見てくれた。


だから、ボクもありのままでリーゼの側にいられたんだ。


「だからこそ、姉様は神様の世界を、全てが同じ神様を見ていく世界を復活させようとしているの。そんなことしたって、何も変わらないのに…。違う相手だからこそ分かり合おうとできるのに…。貴方にはいるはずよ。自分を出せる相手が、自分を受け入れてくれる相手が…」


そうだ、リーゼだ。


リーゼはどこにいるんだろうか。


「リーゼ?あの娘のことね。けど、セフィロードは私達以外はみんな天使の餌食にされてしまったわ。おそらく、もう…」


違う。


リーゼも天使には手出しされてないはずだ。


だけど、神の脳の力で動くことが出来ないんだ。


だから、リーゼを探さないと。


「そう、分かったわ。一緒に探しましょう。貴方が帰るべき場所はここじゃない。貴方だけは私と姉様のようになって欲しくないから…」


「エテルナをどこに連れ行くつもりだ?アスタロテ…」


「姉様!」


ボクとアスタロテの走っていく前にアスタロトの声が聞こえてきた。


「まさか、お前が私を裏切るとはな…。血の繋がった双子といえど、所詮は血が繋がった他人にしか過ぎないわけか…」


ボクとアスタロテは立ち止まる。


長い沈黙が続いた。


聞こえてくるのは天使の喘ぎ声と人の悲鳴。


「姉様、もう止めましょう。こんなことしたって何も変わらない。本当は分かってるんでしょう?」


「変わるさ。苦しみも悲しみも無い完全なる世界が創世されるのだ。私達は全て同じ神の御許に委ね、安らぎを得ることが出来る…」


「その代わり、喜びも楽しみも無いわ!全て同じ?そんなの死んでいるのと同じよ!人はそれぞれ違うからこそ生きている証を感じられるのよ!」


アスタロトとアスタロテは双子で顔と姿が同じ。


でも、同じじゃない。


アスタロテは自分がアスタロトと同じ神様が見えないと分かっても、それでもアスタロトを分かりたいと願っている。


けれど、アスタロトが分かり合おうとしていないと意味がない。


なぜ、こんなにもすれ違ってしまったのだろう。


「アスタロテ、お前は私が叡智の力を得たことで変わってしまったと言っていたが、私は今も昔も私のままだ。お前は私に幻想を抱いていたのだよ。私は生きるために人を殺し、奪い、貪ってきた。そして、害虫に汚されてしまった。こんな私が天使のはずがないのだ。いい加減に目を覚ましたらどうだ?」


「やっぱり姉様は分かってないわ。それは全部私のためにしてくれたんでしょう。あの地獄の世界で私には姉様が誰よりも輝ける天使に見えたのよ。例え、世界中の全てが姉様を悪魔と罵ろうと私にとっては今も昔も天使のままの姉様なの…」


アスタロテの足下に何かが落ちる音が聞こえた。


アスタロテは泣いてるんだ。


自分の気持ちが大好きなアスタロトに伝わらないことに。


大好きなアスタロトを救うことができないことに。


「さあ、今ならまだ許そう。アスタロテ、エテルナを連れてくるんだ」


「嫌よ。もし、神様の世界を復活させたら、本当に姉様は悪魔になってしまう。それにエテルナには私達と違って、帰るべき場所があるわ。こんなおぞましい場所じゃない」


アスタロテの周囲の空気が揺らめいている感じがする。


これは魔力。


それにアスタロトは気づいたのか、笑っていた。


「姉である私に刃向かうつもりか?いいだろう、久しぶりに摂関をしてやろう。それでお前の私に対する幻想を粉々に打ち砕いてやる」


「私は姉様をこの狂った世界から救い出してみせる!このままいくと姉様は絶対に後悔することになってしまう!だから、私は姉様を取り戻すために戦うわ!例え、どんな結果になったとしても!」


アスタロトとアスタロテを挟んで、凄まじい熱気が放出されるのを感じた。


お互いの攻撃魔法がぶつかり合ってるんだ。


「エテルナ!今のうちに早く逃げて!そして、必ず見つけだして!貴方の大切なものを…」


けど、このままだとアスタロテは。


「約束よ。貴方は必ず帰るべき場所へ戻っていくの。そして、私と姉様が出来なかったことを…。だから、早く逃げて!お願い!」


「くっ!退くんだ!アスタロテ!待て!エテルナ!」


アスタロテは自分のやるべきことをやってるんだ。


「さあ、姉様、久しぶりに仲良く姉妹喧嘩しましょう!私こそ姉様の狂った幻想を木っ端微塵に打ち砕いてあげるわ!」


ボクのやるべきこと。


それはリーゼを助け出すことだ。


「行きなさい!エテルナ!」


ボクは走り出した。


ボクの帰るべき場所へ。


リーゼの元に。












どれだけ走っただろうか。


セフィロードはもう人の命の息吹は感じられなかった。


途中で何度も人だったものに躓きそうになった。


ボクはひたすらリーゼの名を叫んでいた。


どこかにいるはずなんだ。


アスタロテがせっかくアスタロトを引きつけてくれたんだ。


ボクはそれに応えるためにもリーゼを見つけないと。


リーゼは神の脳の力に囚われている。


だとすると食事も満足に取れてないはずだ。


空腹の苦しみはボクが身をもって知っている。


早く見つけださないと。


リーゼと叫ぶボクの声が空しくセフィロードに響いていた。












リーゼ。


早く見つけないと。


リーゼ。


どこにいるんだ。



「エテルナ!」


この声は。


「エテルナっ!」


リーゼの声だ。


声が聞こえたのはこの先だ。


ボクはリーゼの名をひたすら叫んだ。


自分がここにいることを示すために。










初めて天使以外の人の息づかいが聞こえた。


リーゼだ。


間違えない。


リーゼ。


ボクはここにいる。


ボクの片翼の天使。


ボクの真の騎士。


ボクの世界で一番好きな人。


「エテルナっ!どうしてここに…」


アスタロトの妹のアスタロテがボクを逃がしてくれたんだ。


「アスタロトの妹って、あの伝承魔法を使っていた人?」


リーゼはボクがアスタロトにさらわれる前にままな感じだった。


神の脳の力で全然動けてなかったんだ。


ボクはリーゼの体を抱きしめた。


いつもはしがみつく感じだったけど、リーゼがしゃがんでる姿勢だったら背が低いボクでも抱きしめれた。


「エテルナ、無事で良かったわ…」


ボクは死なないから大丈夫だ。


「そういう問題じゃないのよ。例え、死ななくて、すぐ治ってしまう体でも心はそうはいかないのよ。心は生きていると感じていくのに大切なんだから…。心が死んでしまったら生きていても死んでるのと同じようになってしまうの…」


心。


ボクがセフィロードに繋がれたときに確かに心が死にかけた感じがした。


アスタロテに助けられてなかったらボクの心は死んでたかもしれない。


「とにかく、本当に無事で良かった…」


いつもならここでリーゼはボクを抱きしめてくれるんだけど、手が動かせないんだ。


どうやったらリーゼをここから動かせるんだろう。


「エテルナ、心配しないで…。もう少しのはずだから…」


何がもう少しなんだろうか。


とにかくリーゼが動けないんだったらボクが運ぶしかない。








「もう気が済んだかな?」








ふと響く声。








「お転婆な妹にはしばらく頭を冷やしてもらってるよ…」









「アスタロトっ!」


リーゼの怒りの声が響く。









やっぱりボクは避けて通れないんだ。






ボクの対になる運命の相手。






アスタロト・ヴァンシュタイン。






世界を滅ぼそうとする悪魔。







ボクとリーゼの敵。








『だから、必ず生きて帰りましょう。私達のアインシュタイン家に…』









ボクとリーゼは必ずアインシュタイン家に帰ってみせる。









だから。









「さあ、エテルナ…」















今度こそ決着をつけるんだ。
























「遊びはもう終わりだ…」

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