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第22話:LUX・AETERNA

ボクの体にぬるぬるとした縄みたいなのが絡みついてくる。


気持ち悪い。


生臭い。


嫌だ。


こんな椅子に座りたくない。


こんな血塗られた椅子なんかに。


ボクは椅子だと感じるものに縛り付けられるように座らされた。


体が椅子にめり込んでいく。


血肉で作られた椅子にボクの体が押しつけられていく。


椅子に座った途端、体から力が抜けていくような感じがした。


力が吸い取れている。


「君は神の心臓となり、セフィロードを天に導くのだ。さあ、審判の日だ。この世界を浄化するときがやってきたのだ!はははははははっ!」


何だろう。


揺れている。


地面がボクの足を上に押し上げるかのような感覚がしてきた。


何が起こってるんだ。


「セフィロードが浮上しているのだ。世界に大いなる光をもたらすためにね…」


セフィロードが空を飛んでいる。


国丸ごと空に飛んでいるというの。


「君の作り出す神の血の成せる業だ。ふはははははっ!まさか、これほどのものとはな…」


どうなっていくんだ。


このままだと、アスタロト、違う、ボクの手で世界を滅ぼしてしまう。


何かうめき声が聞こえてくる。


たくさんのうめき声。


この声は。


「神の息吹に応えて、天使が目覚めたのだよ。さて、セフィロードの教皇も民も不必要だ。天使に告げる。ただちに神の体内にいる異物共を排除するのだ。ただし、リーゼロッテとアスタロテは傷一つ付けるな」


今度は悲鳴が聞こえてくる。


人が天使に襲われているんだ。


殺されているんだ。


アスタロトの命令でリーゼとアスタロテには手を出さないようにするつもりなんだ。


「安心しろ。リーゼロッテには手を出させない。私は君の悲しむ顔を見たくないのだからね…」


ボクの耳にはひたすら天使の咆吼と人の悲鳴が聞こえてくる。


こんな酷いこと止めるんだ。


何でここまで残酷になれるんだ。


「私はこの醜い世界が嫌いなのだよ。憎悪していると言っていい。だからこそ、滅ぼしてやるのだ…」


アスタロトの今まで聞いたことない濁った声。


アスタロトは世界を憎んでるんだ。


どうして、そこまで憎むんだ。


「前に言ったね。私は神の力を得るときに一度死んだと…」





『私は一度死んだことがあるのだよ…』





言っていた。


神の心臓と脳は死んだ人、死にかけた人の肉体を作り替えていているとアスタロトは言っていた。


「私の体は汚されたのだよ。この世界の害虫にね…」


体を汚された。


どういうことなんだろう。


「女として汚されたというべきかな。私と妹は元々貴族の子で裕福な生活をしていた。だが、私欲に凝り固まった害虫共のお陰で戦争が起こり、家族を亡くし、当てもなく荒野を彷徨うことになったのだ。私は妹を養うために金を盗み、人を殺し、死体も貪ってきた」





『ならば、君は血肉を貪ったことがあるのか?金銭を盗んだことがあるのか?生きるために人を殺したことがあるのか?』





リーゼに問いかけていた言葉に似ていた。


これはアスタロト自身のことだったんだ。


アスタロトにこんな過去があったなんて。


「そんな惨めな生活も長くは続かなかった。ふふっ、私達は人飼いに捕らえれたのだ。後はもう地獄だった。私は妹を庇い、害虫共の欲望を一身に受けることになった。そして、ぼろ雑巾のように使い捨てられ、終わったのだ…」


アスタロトにとってはこの世界で生きることすら苦痛だったんだ。


だから、苦痛しか与えなかった世界を憎んだんだ。


「だが、今は感謝しているよ。地獄のような世界で苦しみ抜いたからこそ、この力を手に入れたのだからね…」


ボクにはアスタロトは止められない。


この世界を憎む悪魔を止めることはできない。


「そんな穢れた世界で君という光を見たのだよ。君は故郷が焼かれ、一人寂しく死にかけていた。君も地獄を見てきたはずだ。だが、君はそれでも光であり続けた。そんな君に私は憧れたのだよ…」


違う。


ボクにはリーゼが、アインシュタイン家がいたからボクであり続けたんだ。


ボクはアスタロトが思ったよりも強くない。


「君は自分で思っているよりも強いのだよ。アスタロテから聞いている。君はリーゼロッテを背負いながら、血肉の大地をひたすら懸命に歩き続けていたと…。アスタロテは君とリーゼロッテの姿に昔の私達に重ね合わせたんだろうね…」


何となく分かった気がした。


アスタロトはもう一つのボクの可能性だったんだ。


ボクにはリーゼがいてくれた。


ボクのありのままの姿を見てくれるリーゼがいたんだ。


だけど、アスタロトにはいなかったんだ。


違う。


いるんだけど、気づかないんだ。


アスタロテ。


アスタロテはアスタロトが悪魔になったことを悲しんでいた。


それでも悪魔になったアスタロトを変わらず今でも愛してるはずだ。




『悪魔になってしまった姉様でも…やっぱり私の姉様なの…』




それにアスタロトは気づいてない。


見えないと言った方がいいんだろうか。


アスタロトは神の叡智を手に入れてしまったのだから。


神の叡智で世界を見渡せるようになった代わりに見えなくなってしまったんだ。


「神の根元たる神の心臓には刻まれている力がある。力の名はルクス・エテルナ。神の言葉では永遠の光と呼ばれている。さあ、エテルナ、汚れてしまった私に君の光、永遠の光を照らしてくれ…」


ボクの唇に柔らかいもの、アスタロトの唇が押しつけられる。


縋り付くような弱々しい口づけ。


アスタロトの悲しみが伝わってきそうな感じだ。


ボクの頭に滅びの言葉が刻まれていく。


部屋全体、いや、セフィロード全体に威圧的な合唱が響く。


セフィロードの糧になった神の血肉が唄ってる。


アスタロトの唇から流れている滅びの言葉を唄ってるんだ。


嫌だ。


また、アスガルド軍やセフィロード軍みたいに殺したくない。


ボクの唇からアスタロトの唇が離れる。


「滅びの魔法スクリーム。かつて血肉の暴走により荒廃していた神の世界を消滅させたという神の御業。セフィロードで放つスクリームは戦場を血肉の大地に変えたときと比較にならないほどの威力になるだろう…」


どんどんとセフィロードの威圧的な合唱が大きくなってくる。


まるで世界全体を震わせるほどに恐ろしく。


体から感覚が無くなっていく。





あれ。




耳が聞こえない。




匂いが感じない。




何も無い。




無い。




ボクは。




誰。








「まずはヴァルガイア帝国を世界から消し去ろうか…」









ボクは一人だった。











「あははははははははっ!これこそが永遠の光だ!世界を照らす大いなる光なのだ!ははははははっ!」










ボクには何もない。












「次はグランディアス共和国だ…」









ボクは誰でもない。









「世界が綺麗になっている!絵画に認めたいほどの絶景だ!私は今ほど君の目が見えないことを残念に思ったことはない!君にも見せたかったよ!ははははははっ!美しい!全ての穢れが世界から洗い流されるようだ!あははははははははははっ!」








ボクはボクでない。









「さてと、まだ完全ではない。まだまだ血肉が必要だ。材料を調達してくるか…」











ボクは何で生きてるんだろう。










ボクは。


「エテルナ!」


エテルナ。


そうだ。


ボクはエテルナだ。


「貴方はここにいるべきではないわ!エテルナ!」


この声はリーゼ。


違う。


「ここから逃げるのよ!こんなの間違ってるわ!」


この声はアスタロト。


違う。


「エテルナ!目を覚ましなさい!」


この声は。















アスタロテだ。

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