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第18話:再創世神話

ボクとリーゼはたくさんの喘ぎ声が響く部屋にいた。


まるで地獄の亡者のように狂おしい叫び。


声だけ聞けば、地獄に迷い込んでいるのかと勘違いするかのような世界。


そんな地獄の世界でアスタロトの声が透き通るように響いてくる。


「世界の真実の鍵は再創世神話に集約してくる。さて、エテルナ、もう一度再創世神話について説明してもらえないだろうか?」


アスタロトの言うようにボクはもう一度再創世神話について言った。


まず、神様が支配していた世界があった。


しかし,神様が自らの力と叡智に溺れたために神様の世界が滅んだ。


そして、神様は新たな世界を創世し、二度と同じ過ちを起こさないために力と叡智をそれぞれ自らに似せた者、すなわち人間に与えて、世界を委ねた。


「そう、この話でまず重要な点は自らに似せた者、すなわち人間だ。なぜ、人間が神に似せられた存在なのか君達は分かるかな?」


ボクは考えた。


なぜ、人間は神様に似せた者なのか。


「それは人が神の子だからよ。神が作った人形なのだから」


リーゼはアスタロトの問いに答える。


神様が作ったから神様の子。


確かにそうだ。


「またしても半分正解というところか。ならば、言い直そうか。人間はなぜ、神に似ているのだ?」


人間が神様に似ている。


神様が作ったから人間に似てるんだろう。


アスタロトは何を言ってるんだろうか。


「リーゼロッテ、君は自分の顔が父親か母親の顔に似ていると言われたことはなかったのかな?」


「言われたことはあるわ。当たり前よ。私はお父様とお母様の間から生まれ…」


リーゼは途中で話すの止めた。


まるで何かに気づいたかのように。


「君の言うとおり、人は神の子だ。なぜならば、人は神の血肉によって作られた存在だからだ」


人間が神様の血肉によって作られた存在。


子供が親に似るように、人間は神様に似ると言うことをアスタロトは言いたかったんだ。


「そんな!だったら神様はどうなったというの?」


リーゼは何に驚いてるんだろうか。


神様は血肉になって。


血肉。


ボクはふと伝承魔法ゴーレムを思い出した。


ゴーレムは自分の体をちぎって岩を投げつけていた。


けど、足下にある土を吸収して体を元通りにしてたんだ。


神様は自分の血肉を全部ちぎっても吸収するものが無いから元通りにはならない。




「神は死んだのだよ。言葉通り、再創世された世界の糧となってね。君達が今まで信じてきた神はただの偶像だ」




神様は死んでいた。




余りにも唐突な話だ。


ボク達はいつでも天から神様が見守ってくれていると信じていた。


信じていた神様はもういなかったということなのか。


「私達は魔法を使ってるわ!これは神様がいるからこその奇蹟!だから神様はいるはずよ!」


「奇蹟か。君達は神の血肉で作られた存在だ。ならば、神の奇蹟を使用できるのは当然のことだろう。なにしろ、君達は言葉通り、神の子なのだからな…」


「くっ!」


リーゼは毎日を感謝して神様にお祈りしていたから落ち込んでるんだろう。


それにしても、余りにも信じられない話。


セフィロードが聞いたら、悪魔呼ばわりされるどころじゃない。


「そして、神の血肉に宿る神の血こそが神の奇蹟、すなわち魔法。再創世されて間もなくの世界では伝承魔法はただの魔法として、誰もが扱えていたのだ」


「伝承魔法が誰もが扱えていた普通の魔法?有り得ないわ。伝承魔法は莫大な魔力を必要とする伝説の魔法よ」


確かにリーゼの言うとおり、人には扱えない膨大な魔力を持たないと伝承魔法は使えない。


けど、実際に使えるんだ。


リーゼが持ってる腕輪で。


「人間の体は細胞と呼ばれる物で構成されている。細胞は体の成長に伴い、分裂し、数を増やしていくのだ。だが、一定までに分裂していくと細胞は死に絶えていく。神の血肉もまた然り。人が細胞分裂を繰り返すように子を成し、世代を越えることで神の血肉は死に絶え、神の血が薄くなった。血が薄くなったことで魔力が少なくなり、やがて、魔法は伝承魔法となったのだ」


「だったら、なおさら私達が伝承魔法を使うことができないわ。私達の神の血肉が死に絶えてたら使えないはずよ」


リーゼの腕にある物が答えなんだ。


「エテルナ、どういうことなの?君が空間転移をするために私に付けた腕輪に何か関係があるというの?」


「ふっ、リーゼロッテ、君はその腕輪が何で作られたのかを知ってるのかな?」


そういえば、リーゼにボクはまだ言ってなかった。


その腕輪がどうやって作られたのかを。


リーゼのつけてる腕輪は。


『これは屍魔の腕輪。何百何千もの魔力を持った人の血肉を合わせて作った腕輪。私が伝承魔法を発動させることが可能となった姉様の兵器よ』


アスタロテは言ってた。


たくさんの魔力がある人の血肉を合わせて作ったのが屍魔の腕輪だと。


少なくなった魔力をたくさん寄せ集めることで伝承魔法を使えるようにしたんだ。


「じゃあ,私はたくさんの死んだ人の血肉で作った腕輪を今まで付けてた訳なの!?エテルナ!何で早く言わないのよ!」


リーゼが怒っていた。


ごめん,リーゼ。


色々あって言うときが無かったんだ。


考えてみたら腕輪は女性に贈り物として届ける物だ。


よりにもよって死体で作った腕輪をリーゼにあげてしまったんだ。


後でリーゼに謝ろう。


それよりも。


「貴方はこんな腕輪を作るために何百人も殺してたわけなの!どこまでも人の命を弄ぶつもりなの!?」


「ふふっ、その腕輪はあくまで副産物にしか過ぎない。さて、ここまで話したのだ。君達は何か気づいたことがあるのではないか?」


アスタロトはリーゼの怒りを無視するように話を進めていった。


ボクとリーゼが気づくこと。


何を気づくことがあるんだろう。


アスタロトは黙っている。


部屋から喘ぎ声が相変わらず響いている。


たくさんの人の喘ぎ声。


一つの物体に複数響く息づかい。


まさか。


アスタロトは。








「まさか!貴方は人の血肉を集めて神様を復活させるつもりなの!?」








「ははははははっ!正解だ!私は神の世界を復活させるために人間に宿る神の血肉を寄せ集めていたのだよ。生きとし生けるもの全てが同じ神を見ていく世界、完全なる神の世界。それが私が求める世界だよ」








『生きとし生けるもの全てが同じ方向で同じ神様を見る世界、完全なる神様の世界。姉様が目指している世界よ』






アスタロテが言ったとおりだ。


アスタロトは本気で神の世界を復活させるつもりなんだ。


けど、なんで滅びた世界を復活させたいのだろうか。


「私がなぜ神の世界を復活させたいかを説明するのは後とする。ちなみにこれは神が支配していた世界の住民、君達の聖書には天使として記されている者だよ」


不自然で歪な物体が天使。


天使というのは人に翼が有る者だと思ってた。


「嘘よ!天使とは翼有る者。天に飛び立ち光輝く存在のはず!」


「天使とは神の御使い、神の命に従う者の総称。翼無くとも神の血、すなわち魔法があれば空を飛ぶことも容易いもの。君達は空を飛ぶことと翼が有ることを同義に捉えていたということだな」


ボク達は幻の天使を見てきたということなんだ。


一つ夢が失ってしまった感じだ。


だって、天使は綺麗なものだと信じていたから。


「天使には空を飛べる者と飛べない者がいた。聖書では空を飛べる者は天使、飛べない者は悪魔と呼ばれていた。つまり、飛翔魔法が使えない天使が悪魔だということなのだ」


空が飛べる天使が天使。


空が飛べない天使が悪魔。


恐ろしいほどに現実的で合理性がある真実。


ボクとリーゼは言葉を失い、ただアスタロトが語る話を聞き入るしかない。


「そして、飛べる天使と飛べない天使で神の世界は天地に分かれてしまう。天使は神の血肉で作られた存在であり、数あれど全てが神に繋がっていた。だが、世界が分かれたため、その繋がりが断ち切られてしまったのだ。だから、天使は繋がりを取り戻すために血肉を寄せ集め、再び神に還ろうとしたのだよ」


神様に還る。


血肉が再び一つになって神様の肉体に帰るんだろう。


体をちぎったゴーレムが大地を吸収して元通りになるように。


「神に還るはずだった。だが、神の血肉は繋がりを失い、神の支配から外れたため、暴走し、互いを貪り、喰らい合うようになってしまった。そして、血肉のみらず、世界のありとあらゆるものまでもを喰らい尽くし、神の世界を滅ぼしてしまった。これが君達の聖書に記された黙示録。天使と悪魔の最終戦争であり、神の世界の終末なのだよ」


自分の血肉が一つになるために動物の共食いをし、血肉だけでなく世界も喰ってしまったんだ。


「神は全てを見渡す叡智を持っていたが、一つだけ見渡せないものがあった。それは神自身だったわけだ。神は自らの力を見渡すことが出来ず、血肉を暴走させて世界を滅ぼしてしまった。これが神が力と叡智に溺れて世界を滅ぼしたという意味なのだよ」


だから、神様の世界が滅んだわけなんだ。


けど、そんなことになったらボク達のいる世界を作る前に神様が死んでしまうはず。


だって、自分の体が共食いするのだから。


「エテルナが言うように自分の体が共食いしていけば、神様が死んで私達の世界が作れないはず。それはどう説明するつもり?」


「いくら繋がりが絶たれ、神の支配から外れても神の肉体は不滅だ。滅びることは無い。だから、血肉は永遠に互いを貪り続け、永久に神の世界を滅ぼし続けたのだ」


おかしい。


矛盾していた。


だったら、なぜ神様は死んだのか。


「それに私達も神の血肉なら共食いしているはずよ」


リーゼがボクの疑問を後押しするように言ってくる。


「神の血肉が一つに還ろうとしたのは、神の持つ不滅なる肉体の成せる業。だから、神は自らの不滅なる力を取り除いたのだ」


永久不滅の肉体を維持する物はいったい。


「エテルナ、人間の体の中で生き続けるために最も重要な物は何なのか分かるかな?」


人間が生き続けるために体の中で最も重要な物。


心臓だ。


「その通りだ。神の不滅なる肉体は神の心臓が司っていた。だから、神は肉体から心臓を取り除くことで、世界を滅ぼし続けていた神の血肉を止めることができたのだよ」


不滅を司る心臓。


朽ちることのない不滅の肉体。


ボクの体みたいだ。


「さらに人間の体で心臓以外にもう一つ重要な物がある。さて、分かるかな?」


「それは脳よ。脳があることで人は考え、感じ、生きていくのよ」


心臓と脳。


人間の体の中にある、生きていくために最も重要な物。


体を維持するために必要な心臓。


考えるために必要な脳。


心臓と脳も神の血肉。


だったら、心臓と脳の血肉で作られた人間は。






「心臓は人間の体を維持するため、血を作り、全身に巡らせていく。さらに人は血が巡ることで体の治癒効果も高めていくのだ。エテルナ、君の力にどこか似ていないかな?他者を治癒する力と分け与える力にね…」






ボクは神の心臓で作られた人間。






「その通りだ。そして、私は脳の血肉で作られし者。心臓と脳は生命を維持する最も重要な器官。だからこそ、私と君は特別な存在なのだよ…」







アスタロトは神の脳。







ボクは神の心臓。








ボクとアスタロトは神の命を司る存在だったんだ。

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