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第9話:激突

ついにボク達アスガルド軍はセフィロード軍と一戦を交えることになった。


ボクは神官として、リーゼと共に戦場に同行することになった。


リーゼは大反対したけど、ボクの治癒術は得難い物があると言って、将軍さんや隊長さんがどうしてもついてきて欲しいと頼んだからだ。


ボクは喜んで付いていくことを決めたんだ。


リーゼは怒ってたけど、ボクは自分に出来ることはとことんまでやり尽くすんだ。


ボクの回りにはアスガルド軍の中でもかなり地位が高い兵士さんや神官様が一緒に付いてきてくれている。


ボクなんかのために悪い気がしたが、ボクの治癒術にはそれだけ価値があるらしい。


セフィロード軍は見たことが無い空飛ぶ兵器や弓矢よりも早い飛び道具等を使ってくるという情報があった。


弓矢は熟練した兵士さんだったら剣とかを振るって弾くことが出来るらしいけど、弓矢より早い飛び道具はいつの間にか体を貫いて死んでしまうという恐ろしい武器だと聞いた。


さらに弓矢よりも連射する速さが半端無く速くて事前に結界魔法をかけとかないと危ないらしい。


空を飛ぶ兵器は上から大砲らしき物を発射するもののようで、戦場を混乱させるための牽制を兼ねたものらしい。


それに上からだと、戦場の様子を詳しく知ることになるし、奇襲とかにも有効だと隊長さんはいかにも恐ろしいぞというように語ってくれた。


弓矢よりも速く飛ぶ武器はともかく空を飛ぶ兵器はとても便利そうだと思った。


空を飛べたらどこにだって行けるし、空気も美味しそうだと思ったからだ。


セフィロード軍はなぜそんな便利な物を戦いなんかに使うんだろう。


そういうことに疑問を持ってしまうのはやっぱりボクが子供だからなんだろうか。


考えても仕方ない。


敵は恐ろしい武器を使ってくるんだということを覚えとこう。


もうすぐセフィロード軍がやってくる。


ボクはリーゼがいる陣営に行くことにした。


リーゼはまだ怒っていた。


ボクはリーゼの言うことを無視して危ない戦場に出てしまったんだから怒るのも当然なんだろう。


けど、来てしまったんだから仕方ない。


陣営はぴりぴりして熱い空気が流れている。


かなり緊張してるんだろう。


だったら緊張を和らげて気持ちの良い気分でいてもらわないといけない。


ボクは持ってきたハープを取り出して、みんなに聞かせることにする。


弾く曲は昨日リーゼと一緒に寝る前に弾いた曲だ。


みんなが生きて戦場から帰ってきますように。


陣営にボクのハープが響いていく。


ぴりぴりとした空気をボクが奏でる音色で包み込むようにして。


空気が柔らかくなっていく気がした。


ハープを弾き終えるとみんなの緊張が解けたのか、熱かった空気が少し下がった感じがした。


みんなはボクをアスガルドの聖天使だと褒めてくれていた。


ちょっと恥ずかしい呼び名だ。


ちなみにリーゼはアスガルドの戦女神と呼ばれている。


いかにもリーゼらしい勇ましい呼び名だ。


「ありがとう、作戦がまとまりそうよ。君のお陰ね…」


リーゼは喜んでくれた。


もう怒ってないみたいで良かった。


「戦場に出た以上、くれぐれも油断しないで。敵は君のハープを聞いても喜んでくれないし、私達を悪魔の使いだと言って容赦してくれないわ」


神聖セフィロード帝国は宗教国家で自分達が信じる神様以外の神様を信じている者を悪魔と呼ぶらしい。


神様って沢山いるのだろうか。


死んだお母さんは神様は人の数だけいるのだと教えてくれた。


ボクが信じるのはもう神様なんかじゃない。


信じてるのはアスガルドのみんなと何よりもリーゼだ。


みんなのためだったらボクは喜んで悪魔にだってなってみせる。


「いいえ、君は悪魔なんかじゃないわ。私達の希望の天使よ。だから、君は君のままでいて。私の大好きなエテルナのままで…」


リーゼはボクを優しく抱きしめてくる。


「悪魔になるのは私達で十分。血で汚れるのは私達の役目。君は私達に光を照らしてくれる天使でいて欲しいの…」


ボクはみんなが血で汚れてしまっても悪魔だなんて思わないよ。


アスガルドのみんなはいい人達だ。


それにリーゼはアスガルドの戦女神なんだから。


「アスガルドの戦女神か。ふふっ、なんか恥ずかしいわ、その呼び方。君だってアスガルドの聖天使と呼ばれているね」


ボクもアスガルドの聖天使なんて呼ばれるのはちょっと恥ずかしい。


けど、みんながそう呼んで喜んでくれるなら構わないと思った。


「私もそうよ。お父様もアスガルドの守護神なんて呼ばれてたしね。だったら、私はアスガルドの戦女神として、お父様の名に恥じないように戦ってみせる」


だったら、ボクはアスガルドの聖天使として、みんなを支えれるようにがんばってみる。


「約束よ、必ず生きて、生きて一緒にアインシュタイン家に帰りましょう。それで、毎日君のハープを聞いて暖かいベットの中で一緒に寝るの。綺麗な花園に囲まれて瑞々しい草木の中で君と一緒に可愛い動物達と遊んで、お母様と一緒に美味しい料理を作って君とお母様と使用人のみんなでパーティをして…他にも…」


ボクもリーゼと一緒に色んなことをしたい。


二度と戦場に行くことなく毎日楽しく過ごしていきたい。


だから、絶対に生きて帰ろう。


ボク達がいるべき場所、アインシュタイン家に。


ボクとリーゼは自然と口づけを交わしていった。








ボクたちはついに戦場の大地の上に立った。


戦場は風が泣くように寂しく吹いていて、血と汗と涙の匂いを運んでいた。


兵士のみんなもそれを感じ取っているのか何とも言えない雰囲気を出しているように感じだ。


ここで人が沢山死んでいくんだ。


ボクが今まで話してきた人もこれから迎え撃つ敵も等しくこの大地に体を預けていくことになってしまんだ。


神官様が勝利を祈って唄ってる声が聞こえてくる。


魔法部隊のみんなが結界をはるために口々に呪文を唱える声が聞こえてくる。


将軍さんがみんなにかけ声をあげていくのが聞こえてくる。


「我等はアスガルドの民を守るために必ず勝利し、家族の元に帰ろうぞ!」


アスガルドの戦女神リーゼロッテ・アインシュタインの声が高らかに戦場に轟いていく。


そして、戦いの始まりを告げるラッパが鳴り響く。


ボク達の帰るべき場所を守るための戦いが始まったんだ。


空気の流れが遮断されるのを感じた。


神官様のみんなが結界をはったんだ。


ふとボク達が立つ大地が震えているのを感じた。


もの凄く多い足音が聞こえる。


アスガルド軍がいる方向に向かって鳴り響いている。


たくさんの足音がまるで一つの生き物のようにそろえて響く。


ボク達を踏みつぶそうと巨人が威圧するかのような響きだ。


神聖セフィロード帝国の軍隊が進軍してきているんだ。


兵士のみんなはセフィロード軍の足音に息を止めるように固まっている感じだ。


ボク達はただ動かず待っていた。


獲物を狙う狩人のようにひっそりと。


足音がだんだんと近づいてくる。


同時にボク達の心臓の音も速くなっていく。


足音が鳴るのが止まるのを感じた。


セフィロード軍がアスガルド軍の手前まで近づいたんだろう。


ボク達は石像のように固く、まだ動こうとしない。


世界の時が止まったかのようだ。


聞こえるのは寂しく吹く風の音と兵士達の息づかい。


何かが壁にたくさんぶつかるような音が突然響く。


止まった世界が動き出した。


無茶苦茶鳴り響く激突音。


神官様達がはった結界に何かが連打するようにぶつかってるんだ。


これが弓矢よりも速い武器なんだろう。


ボク達はそれでも動かなかった。


遮断してた空気が少し漏れてるように感じた。


セフィロード軍が放つ弓矢より速い武器で結界は穴あきチーズみたいにボロボロになってるんだろう。


このままだと結界が破れてしまう。


だけど、まだ動かない。


アスガルド軍は待ってるんだ。


弓矢より速い武器を撃ち尽くしていくのを。


弓矢よりも連射が速い分、撃ち尽くすのも速いはずと考えてるんだ。


わずかだけど、結界にぶつかっていく音が少なくなってるのを感じた。


もうすぐ撃ち尽くすはずだ。


「武器を構えろっ!」


リーゼのかけ声と共に僅かな金属音が一斉に響く。


突撃するように構えてるんだ。


「魔法部隊、詠唱開始しろっ!」


魔法部隊のみんなが合唱するように呪文を唱える声が聞こえてくる。


結界にぶつかる音の勢いが無くなってきている。


もうすぐ反撃のときだ。


激突音が聞こえなくなり、遮断されていた空気の流れを感じた。


「放てぇええええっ!」


魔法部隊のみんなの気合いが戦場に響き、もの凄く熱い何かがアスガルド軍から放たれていく。


攻撃魔法を放ったんだ。


今度はセフィロード軍がいる方向に激しい爆発音が聞こえてくる。


「弓兵部隊、撃ち方用意っ!」


揃って沢山の足音が響き、何かを引っ張るような音が聞こえてくる。


「放てぇえええっ!」


風を切る音が鳴り響く。


しばらくして、鈍く突き刺さるような音と悲鳴が戦場に木霊するように聞こえてくる。


ボクは隣にいる先輩の神官様の手を思わず握ってしまう。


神官様もボクの手を強く握り返してくれる。


瑞々しい血の香りが風に乗ってボクの鼻に染みついていく。


ふとボクの周囲の空気が遮断されるのを感じた。


そして、壁にぶつかるような鈍い音がボクの耳に重く響く。


流れ矢が来て、神官様が結界をはって防いでくれたんだ。


ボクの回りで鈍く突き刺さる音がたくさん聞こえ,悲鳴と水が飛び散る音がさらに聞こえてくる。


ボクは神官様に結界を広げてくれるように言って、血の匂いがする方向に向かっていく。


ボクは無差別に怪我している人の体に触れては治れと念じていく。


治った兵士さんはまた武器をもって、元気がいい足音を立てていく。


「突撃ぃぃぃっ!」


兵士のみんなの足音がセフィロード軍に向かって颯爽と響く。


ぶつかる金属音。


生々しい血飛沫の音


甲高い悲鳴。


大地を振るわす足音。


大気が震える爆発音。


アスガルド軍とセフィロード軍が奏でる出鱈目に酷い音楽。


あまりにも聞いていられない音に頭が痛くなっていく。


味方と敵が混じっていて、みんな同じ音を出しているから目の見えないボクでは誰が味方で誰が敵なのかさっぱり分からない。


神官様がボクの手を引っ張ってくれる。


ボクは神官様の手に導かれるように動き、味方である人の体に触れて治れと念じていく。


ボクの手はみんなの血でどろどろになっていた。


もうボクの体は兵士さん達と同じように血まみれになってるんだろうか。


血の匂いがボクの鼻から離れない。


リーゼはいつもこんな血みどろの戦場で戦っていたんだろう。


リーゼは無事なんだろうか。


空気は魔法攻撃で色んな属性のものを放っているためか、熱気と冷気が入り交じっていて、風は無茶苦茶な方向に吹き荒れている。


空から何かが噴出するような音を立てている。


淀んでる空気をかぎ分けるように飛んでる重々しい物体があるのを感じた。


まさか、この重々しい物体がセフィロード軍が持つ空飛ぶ兵器なのだろうか。


噴出する音はアスガルド軍の頭上まで移動するように響く。


空気を突き破るような甲高い音が聞こえた瞬間、今までにない凄まじい爆発音と共に石つぶてが飛び散る音がたくさん響いた。


ガラスが割れるような音が響き、ボクの体が宙に浮く。


爆風で結界が砕かれて吹き飛ばされてるんだ。


神官様はボクを庇うかのように抱きしめていた。


体中の骨が砕けるかと思うぐらいの衝撃を受けて息が止まりそうになる。


それでも神官様がボクの下敷きになってくれたことで気絶するほどは痛くなかった。


体は無茶苦茶痛かったけど、もう痛みは無い。


ボクの不滅の肉体が怪我も痛みも消してくれたんだ。


ボクの下敷きになってくれた神官様は笛の音のような息をしていた。


ボクは神官様の体に触れて治れと念じる。


すると笛の音の息が元の普通の息づかいに治っていった。


神官様は立ち上がり、すぐに結界をはってくれた。


その瞬間にまた空気を突き破る音が聞こえる。


今度は少し遠いところから響く。


凄まじい爆音と共に立ってられないほどに大地が揺れていく。


戦場の大地は血と肉が焼け焦げた匂いと亡者のようなうめき声でいっぱいだった。


目が見えないボクでも分かるぐらいの地獄の光景なんだろう。


噴出する音が再びボク達がいる頭上に移動していくの感じた。


また、何かを落としてボク達を塵のように吹き飛ばしていくつもりだ。


神官様がはる結界でもガラスのように砕いていくほどに激しく。


ボクの足下には苦しげに喘ぐ声がたくさん聞こえてくる。


このままではアスガルド軍が負けてしまう。


ここで負けてしまったら、ボク達が帰るべき場所が無茶苦茶にされるだろう。


地獄の業火に焼き尽くされてしまったボクの村のように。


「エテルナぁああああ!」


悲痛なまでに高々とボクの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


リーゼの声だ。


リーゼがここにいる。


リーゼがいるところに何もかもを吹き飛ばす物が落ちてくる。


『だから、必ず生きて帰りましょう。私達のアインシュタイン家に…』


リーゼ。


リーゼが塵のように吹き飛ばされてしまう。


『間もなくアスガルドはこの地上から消え去り、君の居場所が無くなる。そして、思い知ることになるだろう。君には私だけしかいないということを…』


アスタロトの言うとおり、ボクは何もかも失ってしまう。


『約束よ、必ず生きて、生きて一緒にアインシュタイン家に帰りましょう』


何よりもリーゼを失ってしまう…。


どうすれば…。


どうすればいいんだ…。


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