9話「二人の休日」
「んん……あれ……?」
気がつくと凰牙さんの書斎にいたはずの私は自分のベットで寝ていた。
「ってもう朝!?」
凰牙さんを待って本を読んでいたのに結局寝てしまったらしい。
(あれ?でも私いつの間に部屋に……?)
不思議に感じながらも着替えを済まして朝の支度を始める。
「起きたか」
「あ、凰牙さんおはようございます……ってあれ?今日はスーツじゃないんですか?」
いつもこの時間帯は凰牙さんがすでに着替えを済ましてしまっている時間だ。
「いや、今日は休みだ」
「そうなんですか?」
朝ごはんの準備をしている間にコーヒーを準備して凰牙さんに出しに行く。
「まぁな。あと來香」
「はい?」
「書斎で本を読むのはいいが寝るなら部屋に行け、風邪引くぞ」
「……!?も、もしかして部屋に運んでくれたのって凰牙さんだったんですか…?!」
「あぁ」
凰牙さんを出迎えるために起きていたはずが、結局凰牙さんの手を煩わせてしまっただけになってしまっていた。
「す、すみません!!凰牙さんに先寝てろって言われてたんですけどやっぱり家主よりも先に寝るのはなって思って待ってたつもりだったんです……」
「別に気にすんな」
(そういえば、昨日この人また人を殺してきたのよね……)
あまりにもいつも通りで、優しいこの人が本当に人を殺しているのかと疑ってしまう。
が、あの夜見たことは夢ではなく現実なのだ。
そして、人を殺したと知っていても何も心が動かない私は、とうに壊れてしまった人間なのだろう。
(……でも、それでもいい。この生活が今までと比べ物にならないくらいに幸せだからといって、死んでしまいたいという気持ちは消えてはくれない)
とはいえ、死にたいという気持ちともう少しこの暮らしが続けばいいのにという気持ちが絡まり合って複雑になっているのもまた事実だった。
(私は……どうするのが正解なのかしら)
「……なぁ來香、どこか行きたいところはあるか?」
「……へ?行きたいところ……ですか?」
「あぁ、いつも世話になってるからな」
「い、いえ!それはこちらも同じことなので……」
急にどうしたのだろうか。
少しだけ考えるそぶりをしながらコーヒーを啜ったあと、凰牙さんは再び私に向き合って口を開いた。
「來香、今日出かけるぞ」
「え?で、出かける?ど、どこにですか?っていうかなんで……?」
「なんか予定でもあんのか?」
「別に大した用事はないですけど……」
「なら行くぞ、ずっと家にこもっていたら気が滅入るだろ」
「ずっと家にこもってるって……そんなこと……」
「買い物とか最低限だろ?うちには娯楽関係の物は本くらいしかないからな」
金のことは気にするな、というが私が気にしているのはそこではない。
(凰牙さんと出かけられるのはちょっと嬉しい。でもただでさえ居候させてもらったり服とかの日用品も全て買ってもらったりしているし……それに)
「……何か気にかかることがあるのか?」
「あぁいえ……その……知り合いに会わないかな……と……」
今の私は正直失踪している身だろう、おそらくだけれど。
そんな中、特に会社の知り合いにでもあったら本当に面倒くさい。
「なら服装と髪型を変えればいい、それだけで印象は随分変わる」
「そ、そんな簡単に……」
「あとお前は失踪したことにはなっていないぞ」
「え?」
サラッと私の気にしていたことを口に出す凰牙さん。
「ど、どういうことですか?」
「お前が勤めていた会社には退社するという旨を伝えてある。それとお前の家族にはすでに縁を切るという知らせを入れさせた」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだ、まずかったか?」
「い、いえ、それは別にいいんですけど……一体どうやって……」
あまりに衝撃なことを聞いたせいで、理解はできても納得ができない。
元々凰牙さんと知り合いだったわけでもないし、私がどこに勤めていたかや家の連絡先なんて凰牙さんに伝えたことがない。
「半分は仕事の伝手だ。もう半分は……まぁ夜の仕事の伝手だな」
「し、しごとの……そういえば凰牙さんって普段何の仕事をしてるんですか?」
夜の仕事……殺しをする前には確かに情報収集が必要だろうしそちらの方は納得できる。
だが、普段の仕事でそんなことができる伝手があるだなんて一体どういう仕事をしているのだろうか。
(今まで聞いたこと無かったものね……)
「あぁ……まぁ金融の仕事だ。銀行ほど大きなものではないが……どちらかといえば弁護士とかの方が近いかもな」
裁判には出たことがないから探偵業の方が近いかもな、という凰牙さん。
「それで……」
「ほら、これで心配事は無くなっただろ?さっさと準備していくぞ」
「え、あ、はい!」
結局、流されるようにして私は凰牙さんと出かけることになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よければ次回も読んでいただければ幸いです。




