2話「終わるはずだったあの日から」
「…ねぇ、私を…殺して」
「…は?」
「貴方は…殺人鬼なんでしょう?」
死んだ人を抱えながらも平然としており、そして血に塗れたその姿。
殺人鬼としか思えなかった。
だからこそ、今の私にはちょうどいい。
「だから、殺して」
沈黙が流れる。
ダメか、と思った時相手が口を開いた。
「お前は人を殺した俺を見た、いわゆる目撃者だ。だから殺す…のが普通だな」
「…なにが言いたいの?」
「俺は別に誰彼殺しているわけじゃねぇよ。」
彼は死体をその辺に放り投げ、私の元に座った。
「俺が殺すのは悪人だけだ。お前は殺さねぇ。死にたいなら勝手に死ね」
「…よ」
「あ?」
「死ねないから…頼んでるのよ…ッ」
気づけば、涙が出てきた。
死ねないから泣いているのか、はたまた別の理由なのかはわからない。
「あー?んだよめんどくせぇ…」
彼は血に濡れた指で私の涙を拭う。
私の目には、涙ではなく血の跡が残った。
「はぁ…ならこんなんはどうだ?俺はお前の望み通りお前を殺してやる。だがそれは俺が捕まる時だ。それまでお前は俺のそばにいろ」
「殺して…くれるの?」
まさか、本当に…
「あぁ。最後にな。それはいつになるかわからねぇぞ?俺は捕まる気なんてさらさらねぇからな。あとこれも言っておく」
彼は池で血を落とした手で、私の顔を掴む。
「俺がお前を殺すまで、俺のそばを離れることも、勝手に死ぬことも許さねぇ」
「…っ」
「これは取引だ。俺に自分のルールを破ってまで殺させるならそれ相応の何かをしてもらわねぇとな、いくら最後だからってできりゃあやりたくねぇよ。ルールは俺が殺しをする上で必要なものだ。それがないなら殺す意味だってねぇんだ。わかるか?」
「…はい。それでも、良い…殺してくれるなら」
私がそういうと、彼は交渉成立だ、と怪しげに笑った。
それから、私たちはいくつかルールを決めた。
彼が捕まる時私を殺し、私は彼に殺されるまでそばにいる。
その絶対的なルール以外にも、私は意図的に彼が捕まるように仕向けてはいけない、家事や掃除を含めて身の回りのことは全て私がし、殺しについてなにも言わない、など。
基本的には、私に対して課せられるものだった。
「ほら、ここだ」
彼に連れられてやってきたのは大きなマンション。
「…大きい」
「お前は働かなくていい。金はあるからな」
ついてこい、と彼はこちらを見ずにマンションへと入っていった。
靴を脱ぎ、彼は汚れた上着を洗面所に放り込んだ。
そして、私はリビングへと案内された。
「そういやお前、名前は?」
「…鈴音來香…」
「來香な。俺は矢木凰牙だ。凰牙でいい」
「…凰牙、さん」
私がそう呟くと、満足(?)したようでシャワーを浴びてくる、と行ってしまった。
今日終わると思っていた人生。
まだ続くことへの憂鬱感があった。
けれども、その心とは裏腹に、新しい生活を少し楽しみにしている自分もいる。
(自分を殺してくれる人との生活が楽しみって、意味がわからないけれど)
とりあえず今は彼にもらった部屋を整理して、“自分が死ぬため“に“生きる準備“をすることにした。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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