11話「嘘と事実は裏表」
私の言葉を聞いた瞬間、椎奈はぱぁっと顔を輝かせていつものように話しかけてきた。
「やっぱり!鈴音先輩!こんなところで何してるんですか!?なんで会社辞めちゃったんですか!?ってか先輩この辺でしたっけ?!」
「あ……え……」
最近は凰牙さんとの会話ばかりで、作り笑いをする機会もなかった。
そのせいで、今まで私がどうやって笑っていたのか、椎奈にどう接していたのか思い出せなかった。
「……知り合いか?」
固まっていた私は凰牙さんの言葉を聞いてはっと現実に引き戻された気がした。
「……か、会社の……後輩……です」
私がそう答えると、凰牙さんはなんとも言えない顔をした。
多分、ちょっと申し訳ないとか面倒臭いとか……そういう感じの……
「あれっ?っていうかこの人誰です?彼氏さんとか?……あ!もしかして先輩が会社辞めたのって寿退職だったんですか!?もう〜言ってくださいよ〜!」
「そ、そういうのじゃ……」
「……会社辞める前の先輩、なんかどんどんやつれていってて私たちみんな心配してたんです。ほら!うちの会社って結構ブラックじゃないですか!だから先輩も……でも寿退職ならあれですよね!結婚式の準備で忙しかったとか!さっき外からお二人が見えた時鈴音先輩久しぶりに明るい感じがしたので少し安心しました!」
いつもの猪突猛進の明るさではなくこちらを気遣うような明るさ。
会社の人たちは冷たく厳しい人が多かったけれど、自分の育ててきた後輩たちだけは私のことをいつも気遣ってくれていた。
「……あぁ思い出した。お前、轟椎奈だろう」
「「え?」」
ずっと黙っていた凰牙さんが急に口を開いた。
と思えばなぜか椎奈の名前を知っていて、私と椎奈は思わず口を揃えて呟いてしまった。
「なんで私の名前…ってあぁ!!」
「し、椎奈?どうし……」
「先輩!この人矢木凰牙さんですよね!?あの!!イケメン社長の!!矢木事務所の!!」
「……色々と突っ込みたいところはあったがまぁそうだな」
「え、凰牙さんってそんなに有名なの……?」
「有名なんてもんじゃないですよ!!」
椎奈によれば若いうちから成功した社長で、凰牙さんの説明してくれた探偵業っぽい仕事だけでなく物流など幅広く取り扱っており、さらにイケメンということで様々な業界で有名なんだそう。
「そ、そうなんだ……?」
「っていうかなんで先輩知らなかったんですか!?うちでもかなり有名ですよ!?」
「えっと……あんまり余裕がなくて……」
椎奈に押されていたのもあるけれど、凰牙さんが思っていた以上にすごい人で曖昧な返事しか返すことができなかった。
「でも、なんで先輩と矢木さんが……?」
そう問われて、私はどう答えればいいのか分からず再び固まってしまう。
すると私の代わりに凰牙さんが答えてくれた。
「來香は実家で酷い扱いを受けていてな、とあることで知り合った俺が保護してんだよ。会社辞めたのも親からの連絡を断つためだ」
嘘のようで本当で嘘な感じの、事実を拡張させたような話をすらすらと説明していく凰牙さん。
(やっぱり凰牙さん、こういう誤魔化し?っていうの得意よね……)
さすが捕まらない殺人鬼なだけあると、変なところで納得してしまう。
「そ、そうだったんですか先輩!?」
「そういうことだからお前も今日來香と……俺たちと会ったことは内緒にしておけ、わかったな」
「は……はい……!」
……最後、凰牙さんの口調がものすごい圧を持っていたような気がしたが、椎奈はおとなしくなってくれた。
しかもしっかりと口封じまでしている。
「えっと……じゃあ私は今日はこの辺で失礼しますね!久しぶりに鈴音先輩に会えて嬉しかったです!それでは!」
なぜか逃げるように去っていった椎奈。
「……えっと、凰牙さん……?」
「こうしておけば絶対に來香の居場所があいつから漏れることはないだろ」
サラッと悪びれもせずに言い放った凰牙さん。
戸惑ってしまった私の代わりに言ってくれたのは嬉しかったけれども、私はほんの少しだけ椎奈に心の中で謝った。
「お待たせしましたー!」
椎奈が去って数分後、私と凰牙さんの頼んでいたコーヒーが運ばれてくる。
「……あれ?そのパフェどうしたんですか……?」
「俺が頼んだ」
「い、いつの間に……」
少しいるか?とスプーンを差し出してきた凰牙さん。
「……えっと、凰牙さんって甘党ですか?」
「……そうだが?」
私の問いかけに何か文句があるのか?っとでもいいたげな返事をしてパフェへと視線を戻す。
(そういえば凰牙さん、卵焼きも甘い方がいいって言ってたものね……)
見た目や肩書き(?)から見ると似合わないけれど、なんだかそういう部分が凰牙さんらしい気がした。
「凰牙さん、私にも一口ください」
「さっき聞いた時答えなかっただろ、もう一つ頼め」
「こんな大きいの一人じゃ食べれないので」
「あぁもううるさい、ほら一口だけだぞ」
いつものような軽口。
二人で食べたパフェは、多分一生忘れることがないくらい美味しく感じた。
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