夜の高速道路
寺内いずみの旦那さんは、以前社用車で通勤していた時期があった。高速料金も会社持ち。なので、遠慮なく夜の高速道路で家路を急いでいた。
前を走る車以外には車はいない暗い道を、道でも間違えたのか前の車はやたらノロノロと走っていたらしい。
サービスエリアに入る道との分岐で、前の車がそちらに逸れたのでノロノロ運転にイラついていた旦那さんが少しスピードをあげると、やはり道が違っていたのか前の車が戻って来ようとしていた。しかし旦那さんの車がいて上手く戻れなかったようだった。
その車には、運転手の男性と、助手席には下を向いてスマホを弄っているらしき女性が乗っていたのだが、旦那さんがチラリと目をやると助手席の女性が顔を上げてこちらを向いた。
自分たちの迷惑運転を棚上げして文句でも言ってるのかと、ムッとして軽くそちらを見たら…助手席の女性の顔が、無かったのだった。
えっ⁈っと驚き思わず凝視していると、見る見る顔の無い女性の顔面が助手席の窓いっぱいになり、
「うわっ」叫んで目を逸らしたそうで。
恐る恐る、もう一度そちらを見たら、何事も無かったように女性は下を向いてスマホを弄っている様子。
「何だったんだ、アレは⁈」と、帰るなりいずみに報告して来たのだった。
「え、怖いんだけど。なんで今から寝るのに、そんな怖い話してくるの〜」
プチ喧嘩が勃発したのは言うまでもない。
いずみはしばらく夜道ですれ違う車がちょっと怖くなったのであった。