昔の職場のトイレ
よろしくお願いいたします。
寺内いずみが若かりし頃に勤めていた職場は、昔はボーリング場だったという建物で広くて古かった。何なら水道管も古かった為、トイレの水道もその日最初に出した時は錆の為に古い血液のような赤茶色の水が出る様なところであった。女子トイレの中は電気を付けても薄暗く、いずみは霊感などないはずなのにゾワゾワするので、あまりそのトイレには長居をしないようにしていた。
当時その職場には女性が四人しかおらず、そのトイレを使用するのは最年少のいずみを含めて四人だけ。個室は和式で二つあるが、奥の個室は特に暗いため誰かが使用中でない限りみんな手前の個室を使用していた。
ある日のこと、いずみが手前の個室を使用中にスッと影が通った。誰か来たのかと思い、トイレで先輩と顔を合わせるのが少し気まずいと感じる性格のいずみは、鉢合わせないようさっさと出てそっと奥の個室に目をやった。
ところが、奥の個室はドアが空いている。暗い奥の個室を嫌った先輩の誰かが、手前の個室が使用中だからと一度戻ったのだろうか?しかし影は手前の個室を通過したが戻った感じは無かった。が、奥の個室のドアが閉まった音も思い返せば聞いていない。
急に怖くなったいずみは、急いで先輩達のいる部屋に戻った。
「先輩、さっきトイレに来ました?」
三人の先輩に同じ質問をしたが、全員答えはNOである。
「どうしたの?なんかあったの?」
少し様子がおかしいと感じたのか先輩の一人が聞いてきたので、いずみはさっきの出来事を話した。
「先輩の誰かが、来たけど帰ったって聞いて安心したかったのに…」
ガックリと項垂れるいずみと、「ちょっと気持ち悪いね」と顔色が悪くなった先輩。
結局、他の先輩にも事情を話し全員で怖くなってその日は終わったのだが。
しばらくして、同じ職場の男性がスーパーの女子トイレの覗きで左遷された。もしかして、以前のトイレの影もその人だったのか?幽霊でも覗かれていたのでも結局怖いのに変わりはないけれど、「え、どっち?」モヤっとしたいずみであった。