第七話 平和過ぎる日々を始めてみた
私に会いたいと、ゲームの世界から単身で飛び出してきたユナメラ。
突如話しかけられた時は恐怖を感じたが、今は信じる覚悟を決めた燈華。
余りにも奇妙な出会いを果たした彼女達の初めての共同作業は、
……汚部屋の掃除なのでした。
「燈華様?コチラの辞典のような書物はいかがいたしましょう?」
「ん?あぁ〜、『跳躍』か〜。それいつの……って、一昨年の11月号じゃん!懐かしー!後で読むから置いといて〜。」
「かしこまりました♪」
ユナメラは可愛く了承の意を私に示すと、床にずっと落ちたままだった『週間跳躍』を、つい先程まで誇りまみれだった本棚に戻した。
……とても上機嫌に。
彼女がこんなにも上機嫌である理由は、少し前に遡る……。
それは、私の汚部屋に対してユナメラが少し引いていた時の事。
掃除を決意した私に、ユナメラは自身も手伝うと言ってくれた。
私は、
「い、いいよいいよ!ほら、座って…て……」
と、断ろうとしたところで、そもそも掃除をしないと寛げる場所も無い事に気がついた。
なので諦めた私は結局、素直にユナメラのご厚意にあやかろうと決めたのであった。
と、ここまでは特に問題は無かった。
だが掃除を始めようとした時に、不意に彼女の服装を見て、そして気がついてしまったのだ。
……ユナメラは、卒業式の日にこちらの世界へやってきた。
つまり、ユナメラが今着ているのは……?
私は考えた。
それはそれは考えた。
あんなに綺麗な制服で、この汚部屋の掃除を手伝ってもらうのか、と。
そして、もし着替えさせるとしても、その着替えはどうするのか、と。
外にまともに出ない人間が、外にまともに出られるような服なんて持っている訳がない。
部屋着と数年前の服はあるが、前者は私が何度も着ているし、後者はもうどこに仕舞ったかすら覚えてない。
どうする……?どうするんだ私……!?
「あの、燈華様?」
突如フリーズした私に、ユナメラは心配そうに話しかけた。
そんなユナメラに一瞬、今日は近くのホテルにでも泊まって、と言いかけてやめた。
何故なら、私の覚悟に反するものだから。
……面倒見るって、決めたんだもの。
「あのね、ユナメラ。今から掃除するでしょう?だから?ユナメラには汚れても大丈夫な服に着替えてもらおうと思ったの。だけど今この家の中には、私の部屋着ぐらいしか無くてね?だから、今から服を買ってくるから待っててくれる?」
私はそう言って、久しぶりの外出を覚悟した。
外に出るのは嫌だけど、私が頑張らないとユナメラが苦労するから。
私は恐る恐るユナメラを見た。
何故なら、早速家に一人置いて行く事に、ユナメラは怒ると思っていたから。
しかし、返ってきたのは、予想外の言葉だった。
「でしたら私、燈華様の部屋着を着ます。……いえ、むしろ着たいです着させてください!!」
その後、恥ずかしいから嫌だという私の反対を押し切って、ユナメラは私の部屋着に着替えたのであった。
……それはそれは嬉しそうに。
私が後ろを向いている間に、ユナメラは部屋着に着替えた。
可愛い女の子が、私の部屋着を着てくれているというシチュエーション。
そんなの皆興奮せざるを得ないとおもうのだが、残念ながら私は全く楽しめていなかった。
その理由は、とある心配から来るものであった。
流石の私でも(ほぼ)毎日お風呂に入っているし、部屋着も下着もちゃんと洗濯しているので臭くは無いはず……と強く強く強く願う私。
そんな心配をする私の気も知らず、ユナメラは、
「これがこの世界の服……。学園の『セイフク』よりも更に伸縮性の強い布地ですね……。それにフワフワ……。後は……!!」
「あっ、待っ、!」
「……何だか凄く良い香りですね。これは……?」
と、上下セット1000円の安い部屋着に感動しており、それが何だかとても愛おしく感じられたのであった。
……私の静止より先に思いっきり匂いを確認された時はかなり焦ったけれど。
因みに、
「本当に…、良い香り……♡」
と、何だか怪しい雰囲気を醸し出すユナメラが一瞬見えた気がしたが、恐らく気のせいだろう。
とまあこんな事があり、ユナメラは今上機嫌のまま、一緒に部屋を片付けていったのであった。
そんなこんなで床のゴミはまとめ終わった。
一息ついて横を見ると、初めて付けたマスクで息苦しそうなユナメラ。
私は彼女をゲーミングチェアに座らせて休憩させると、休憩中に私は、部屋の隅に埋もれていた掃除機を用意した。
「燈華様?そちらは……?」
と、不思議そうな顔をするユナメラに
「これは掃除機と言って……、」
と、何をすればどうなるのかを軽く説明する。
そして、私はユナメラに爆音注意と伝えてから、電源をつけて実演してみせた。
「おお…!これはかなり便利ですね……!」
ユナメラは両耳を塞ぎながらそう言った。
可愛過ぎて凄く凄い。
部屋のゴミが片付けばもうあと少し。
そもそも私の家は激狭アパートなので、掃除する場所が少ない。
廊下にキッチン、お風呂にトイレ、そして1部屋。
その全ての掃除が終わった時、外はすっかり夕方になっていたのであった。
私は、すっかり綺麗に片付いた自身の家を見て、軽く感動する。
これなら、これからユナメラと共に暮らして行っても何も問題は無いだろう。
……広さ以外は。
掃除を終え一息つくと、ふと空腹を感じる。
そういえば普段からカップラーメンとポテチぐらいしか食べていなかったので、せっかく部屋を綺麗にしたんだから良い物食べたいな。
それに、お手伝いしてくれたユナメラへお礼もしたいし。
私は狭い部屋の真ん中に小さな低い机を置くと、その前に座り、そしてスマホを取り出す。
すると反対側……では無く隣にくっついて座ったユナメラが、
「そちらは?」
と、興味深そうに覗いてくる。
流石にスマホの事を今から全て教えるのは気が引けたので、取り敢えず、
「これは、色んな事が出来る道具なの。本当に色んな機能があり過ぎるから、それは今度教えるとして……、今は、これ!」
と言い、私は某有名宅配アプリを開いた。
?と疑問符を浮かべるユナメラに、私はファミレス店をタップして見せた。
「こ、これは……!?」
と、多種多様な料理を前に驚くユナメラに、
「これはね、ここに表示されているご飯の中から好きなのを選んでお金を払ったら、それがお家まで届くの。どれか、食べてみたいのはある?」
と言うと、私はスクロールして更に多くのメニューを見せた。
ユナメラはその全てを目を輝かせて一生懸命眺めていた。可愛い、やはりユナメラ可愛い。
そしてそのまま一通り見終えたユナメラだったが、その表情は少し困り気味で、
「本当に沢山ありますから、正直、どれを選べば良いのかが分かりませんね……。」
と、少し申し訳無さそうに笑いを浮かべた。
気を使って、というよりかは本当にメニューがあり過ぎてよく分からないの方が正しそうなので、私は
「ユナメラは、お肉は食べられる?」
と聞き、
「あっ、はい!お肉も好きですよ!」
というユナメラの確認も取れたので、
「分かった。ならこの、ハンバーグ弁当にしようかな。これなら食べやすいし、あと万人受けしやすいだろうから。」
と言い、カートに入れる。
そして、私は好物のカニクリームコロッケ入りの弁当を選んで、注文を完了させた。
私は注文待機の画面を見せると、
「これで、あとはしばらく待てば料理が届けられるの。」
と、伝える。
彼女がそれに対し小さく「おぉ…。」と驚いたのがとても可愛かったがそれはともかく、私は料理が届くまでの間、そのままスマホで色んな事をしてみせ、そうして時間を潰すのであった。
……こうして誰かと並んで過ごすのなんて何年ぶりかな。
私はとても元気なユナメラの楽しそうな表情を見て、心に温かい気持ちが溢れるのを覚える。
そしてしみじみと、あの時ユナメラを受け入れて良かったと、微笑みを向けながらそう感じるのであった…………。
家は、ゲーム『偽夢』の家を思い浮かべて下さい。
ユニットバスな事以外は大体同じです。
……え?やったことない?
やりましょうね☆