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第五話 光が射した

『好感度+12549』


 このゲームの好感度上限を大幅に超えてなおマイナスへ裏返っていない……?

 何故?

 またバグ?

 それとも新要素?



 私はこうして、謎の数字を前にまたも大混乱に陥ったのであった。





 ゲームのコンセプトを考えると、絶対にこんな数値になるような新要素は入れないはず。

 好感度が何処までも上昇したら、ハードモードの面白さがすべて消え失せると言っても過言では無いだろうから。

 と、新要素の追加を否定すれば、あと有り得そうな理由は一つ。

 私はその理由を思い、今の気持ちを呟く。


「まーーーた、バグ?もういいって…。」




 まあ何度も言っているようにバグは仕方が無いものなので、もう諦めて進めよう。




 だがここから、普段のゲームプレイでは見られなかった挙動が相次ぐ事になる。





 まずこれ、

『「あっ、燈華様!」

「あら、燈華様!!」

「燈華様〜〜!!!」』

である。


 

「……いや、ユナメライベントしか出て来ないんだけど!?」

 いくらユナメラ攻略ルートとはいえこれはおかしい!!

 他キャラとのイベントが入ったり、日常のちょっとしたトラブルイベントが入ったりするのは、今までの全キャラルートで当たり前の事。

 一体、どうなってるの!?




 次、

『ユナメラと目線が合う』

である。



「怖いって!!」

 このゲームに出てくるキャラは全て1枚絵だから目が動くわけがないのに、何故かどの位置から見ても目が合うの!!

 でもこの目が合う状態でユナが放つセリフは、まるで現実の私に言っているかの様な錯覚を強く感じさせるから、正直これはこれであり。




 他にもあるけど最後、

『私、プレイヤー名()()()何だよね。』

である。



「鳥肌!!!!」

 え、何でいつの間にか『トウカ』から『燈華』になってるの!?

 私の本名バレてるの何で!?

 本当に怖い……、でもユナメラ可愛いぃぃ……。






 そして、バグり続けた結果、ついに最後までユナメラ関連のイベントのみで埋め尽くされた3年間が終了致しました。


「まぁ、ユナメラ可愛いし良いけどね……。」

 私は乾いた笑みを浮かべながら、改めてユナメラの可愛さを噛み締め、最後のイベントへ進んだ。






 最後のイベント。


 それは、卒業式を終え一人帰ろうとする主人公を、攻略フラグを完全取得していた時のみ、攻略完了キャラが呼び止めるイベントである。

 桜舞散る正門、その前で攻略完了キャラは主人公に対し、自身の持ちうる全てをぶつけて告白するのだ。

 キャラの個性がよく出るこのイベントを見た時のあの達成感は……!!

 っはぁ!、ほんっとうに、堪らない!!




 さて、短いスタッフロールが流れる卒業式が終わった。

 ここで一度暗転するのだが、もしここで誰かを攻略完了していたら告白イベントが始ま


『こんにちは、燈華様。』



『見えてますか?聞こえてますか?』




『私です。貴方の、ユナメラです!』





 画面の暗転はそのまま、黒く染まった画面に赤い文字で()()は刻まれた。


「うぉ、ビックリした……。」

 この時点ではまだ、恐怖心よりも好奇心が勝っていた。



 しかし暗転が明けた時、その優位は逆転した。


 

 表示される『はず』であったのは、桜舞散る正門。


 しかし、そこに現れたのは、




『私の、ゴミに溢れた部屋であった。』





「なっ……、え……?」

 ここまでの事象は、本名を知られた事以外は新要素やバグとして説明がついた。

 ……いや、心の何処かでは既に、理解していたのかもしれない。



 私は恐怖に震える声を発した。

 振り返る事も出来ずに。

 

「ユナメラ……、そこに、、居る、の……?」



 しかし、返事はモニターに文字として表示された。


『……いいえ。残念ながら、私はこの世界の住人です。ですので、恐怖に震える貴方様のお身体を包み込む事も叶いません。…………本来なら。』


 何か最後に怖い事が書かれてあったが、一先ず今私の背後に立っているという事は無いと知って安心する。

 私は緊張でまともに出来ていなかった呼吸を、大きく一度深呼吸をする事で取り戻す。


「はぁ…………。と、取り敢えず電気を点けて、部屋の中確認しないと……。」

 そう言って席を立とうとしたその時、


『電気ですか?』


とモニターに表示された次の瞬間、部屋には明かりが灯る。


「ひっ……。」

 思わず小さな悲鳴が口から漏れる。

 するとモニターには、

『あっ、ごめんなさい!』

と、表示される。


 どうやら、私の姿はユナメラに見られているようだ。



 ……なんて、冷静になれるか!!!



 もう無理怖い!!

 何で!?どうしてこんな事に!?

 誰か……、怖いよ……。



 我慢の限界で涙が滲む私に、モニター越しにユナメラは話しかける。


『燈華様。どうして、そんなにも私を恐れるのですか……?…………私、この世界の主人公様とお会いするたびに、モニター越しに貴方様の事を見ていました。』


「え……?」

 普段のゲームプレイ中、ユナメラ関係のイベントを引いたときに彼女は見ていたのだ。

 主人公越しに私を。


『しかし、私には貴方様にアイテムを売る事と、護符の効果で身代わりになる事でしかお会いする事が出来ませんでした。とても、寂しかったです……。』



「あっ……。」

 1枚絵の表情から感じられる悲しみが、刺さる。

 先程恐怖に囚われ、ひたすらユナメラを拒んだ事に酷い罪悪感を覚える。



『寂しかったですが、同時に私と会える事を望む貴方様の強い想い。貴方様の都合の良いタイミングでお会いできた時の、貴方様のあの笑顔とお声掛け。身代わりとなった私にかける、あの少しの罪悪感が込められた感謝の言葉。……私の心は、貴方様に囚われてしまいました♡』


「ユナメラ……。」

 私はその名を呟くと、無意識にモニターの縁を撫でる。

 それは、恐怖心と相対していた好奇心が消え、代わりに別の想いが浮かび上がってきたから。

 勿論、目の前の事象には恐怖している。


 だけど……、ユナメラには……。



『ねぇ、燈華様。私、燈華様に会いたいです触れたいです抱き締めたいです愛しているのです……!!!!……燈華様。もし、私の事を受け入れてくださるのなら、その場に立って、モニターの方を向き、そして両手を広げたまま私の事を呼んでください。』


 そう言ったユナメラは、『覚悟』の表情差分でコチラを強く見つめた。



 対する私は、

「でも、人間なんて……」

と、過去を想い1歩前に進めない。



 するとユナメラは、まるで私の過去を知っているかのように、

『……私、ユナメラ・サシュヤントはこの名と命にかけて何があろうと貴方様から離れず何処までもお供し、私の全てを貴方様の為に使い、決して裏切ら無い事を誓います。……どうか、私を側においてはいただけませんか、燈華様。』

と、誓った。


 変らないはずの表情差分から、先程より強い意思を感じられる。



 幻覚かもしれない。

 夢かもしれない。

 妄想かもしれない。



 だけど、ただひたすら引きこもり、死ぬのが怖いから生きるだけの毎日に、



……光が、射した気がしたんだ。






 私も遂に覚悟を決め、椅子から立ち上がって叫んだ。

「来て……!ユナメラ……!私の所に!!」


 するとモニターには、見たことの無いとびっきりの笑顔を浮かべるユナメラが現れ、大きく



『はい!!!!!!』



と、表示された。

 その瞬間、モニターから眩い光が放たれ、そして次の瞬間、私の大きく広げた両腕の中に、それはそれは暖かくていい匂いな存在が、飛び込んできた。


 が、思ってたよりもずっと強い勢いだったので、私はその暖かさを守るように強く抱きしめたまま、後ろのベッドに飛ばされた。



 光によって潰れた視界が回復すると、私は改めて、その存在が何であるかを見た。



 その存在はベッドに私を押し倒したかのような姿勢のまま顔を上げると、少し涙を含んだその蒼き瞳でコチラを覗くと、ニコリと微笑み囁いた。



「ずっと……、お会いしたかったです……♡」




「燈華様♡」

 ようやく本編開始です。

 丁寧に過程を描きたくて。

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