第四話 冒険してみたら
突如暗転し、更新して早々にゲームはフリーズした。
先程発生した、いつもとはかなり違うホラーテイストな起動画面の事もあるので、
「なにこれ……。なんか怖いし目細めとこ……。」
と身構えつつも、しかし心の別の場所では何が起きるのかと期待も湧いていた。
だがそんな私の心構えを他所に画面は、
『システムがクラッシュしました。
ソフトの再起動をお願いします。』
と、その表情を変えた。
その画面を見てかなりの安堵感を得る私。
「あ、ああ〜なんだ〜、バグかぁ。」
しかし次第に落ち着くに連れ、
「何だったんだ今の暗転の仕方は!期待するでしょうに……。はぁ…、これ、データ消えてないよね……?クラウドストレージだから大丈夫だとは思うけれど…………。」
と、落差による落胆と怒り、そして不安を今度は得るのであった。
と言う訳で、私はため息混じりにマウスカーソル動かし、このゲームのウインドウからゲームを閉じた。
……だがこれが、私の人生が破滅に向かうスタートの合図である事を、私は知らなかったのである。
再起動されたゲームは、まるで先程の事が嘘であったかのように、いつも通り起動した。
しかしそれがかえって不気味さを感じさせるのだ。
不安な私は一応『つづきから』を押したが、そこにはいつも通りそれぞれのルートのクリアデータが上から順番に綺麗に並べられてあった。
「さて、今度はバグらないでよ……?」
何となく安心した私は、そう呟きつつ再び『はじめから』をクリックした。
すると今度は、無事いつものオープニングが流れ始めた。
見た所映像に不可解な点は無いので、一安心だ。
さて。
ここで私は、今回のゲームを起動した際の挙動から一つの結論に至る。
それは妄想でしか無い不確定かつ浅はかな結論だが、
「きっと今回の更新による何かしらの不具合で、旧デザインの起動画面が出てしまった。そして、そんな不具合の処理に追われているときに、私が高負荷のかかるオープニングムービーを再生しようとしたからフリーズした……。うん、あり得るかも。」
と、私は勝手に納得したのだ。
「まぁバグは仕方無いし、本編中にヤバいバグが発生しないのならもういいや。」
私はそう言って気持ちを切り替え……
「って、そうだった!変なバグのせいで注目がそっちに持って行かれたけど、ユナメラに会いに行くんだった!!」
……無理に気持ちを切り替える必要すら無かった私は気が付くと、バグなんて忘れ、期待に目を輝かせる。
そうして再び、この『HTLG』の世界に入り込んでいくのだ……。
〜8時間後〜
さて現在、まだユナメラ攻略1週目の1年秋。
この段階で既に数多くの新規イベントに遭遇していた私は、目を輝かせながら、新しいノートにその全てを書き込み始めていた。
ハードモードに『選択肢に対する事前セーブ機能』は無い為、それぞれの選択肢で何がどうなるのかは、何周もしないと把握出来ない。
だからしっかりとしたメモ書きをする事が大切なのだ。
このユナメラ攻略ルートに敵は無い。
それはこの長年のプレイ経験と膨大なデータで既に判断していた。
……と、格好良く言ったものの、実際はユナメラの好感度上昇に反比例して好感度が下がるキャラが居なかっただけだけど。
まあそれはともかく、その事とストーリを踏まえると、ユナメラというキャラの人柄の良さがより見えてきた。
という訳でユナメラについて簡単にまとめておこうと思う。
・ユナメラは可愛い
・父は伝説の大商人
・出来損ないの長男が居る
・長男とは違い、凄まじい『商売の才能』を持っていた為、父に溺愛されている。
→天才的な頭の回転の速さ
→天才的な人当たりの良さ、など
・透き通るような長く美しい金髪と、光を反射しキラキラと輝く海辺のような水色の瞳を持っている(キャラ説明より)
要するに、皆に好かれる優しくも賢いお嬢様という事だ。
そんな彼女がなぜ2年の秋頃に、フードを深く被った状態で突如として主人公の前に現れ始め、そして怪しいアイテムを売る様になってしまうのか。
きっとそれは、これからストーリーが進むにつれて分かるのだろう。
さて、ここまで長々とユナメラについて振り返ったのには訳がある。
その訳とは、文化祭で確定で発生する『青春イベント』にて現れたこの選択肢、
ーーーーーー
『ユナメラさん、一緒に回る?』
『ユナメラさんも皆と行こう。』
『一人で回るから。』
ーーーーーー
によるものであった。
私は恋愛シュミレーションゲームをする際、1週目は効率や細かい数値などは気にせずに、自分の心に従って遊ぶ。
そして今回、ユナメラの好感度にも余裕がある為、恐らくどれを選んでも後ろから刺されたりはしないだろう。
だから私は今、目の前にユナメラが居ると考えて、なんと言ってあげたら喜ぶのかを真剣に考えているのだ。
(ちなみに、今までのほぼ全ての選択肢でこれをやってきているから、まだ1年の秋なのに既に8時間も経過しているんだよ!こんなに真剣なの初めてだし、ユナメラに真剣過ぎ!!)
私はブツブツと、
「ユナメラは皆に人気……、転入生の私はまだ、ユナメラにとっては有象無象の一人……、ユナメラの独占は早すぎるか……?しかしだからといって有象無象に紛れて一緒に文化祭を回る……?そこからの関係の発展に可能性は無いのでは……?」
と、検討に検討を重ね検討を加速させた。
そしてそのまま10分程悩んだ結果、
「……よし。せめてゲームの世界では、恋愛強者になってみせる!」
と意気込み、私はユナメラと二人きりルートを選んだ!
その結果……?
「まぁ!喜んで!……ただ他のお友達からも誘われているので、共に回れるのは1時間ほどとなってしまいます……。それでも宜しいでしょうか、トウカ様?」
ですって奥さん。
しかもその後の選択肢よ。
ーーーーーー
『ユナメラさんと回る』
『帰る』
ーーーーーー
私は思わず
「なにこれ悲し過ぎない!?」
と大声でツッコミを入れる。
「いや帰るて。……あー、流石にユナメラと回るかなぁ……、1時間だけだけど。」
まだ断らないだけ優しいのか、それともやんわりと断られているのか分からないが、ユナメラ愛強めな私は、何だかもう振られた様な気分になる。
少し傷つきながら、私は『ユナメラさんと回る』を選ぶ為に、画面下にあったマウスカーソルを上にある選択肢へ動かした。
しかしその時、ほんの一瞬だが、マウスカーソルが、何もない場所でクリック可能を示唆する音を出したのだ。
「…ん?」
ほんの少しの違和感。
スルーしても良いのに、何かが私を留めた。
それは先程の選択肢
ーーーーーー
『ユナメラさんと回る』
『帰る』
ーーーーーー
の、『帰る』の下の部分。
少し、不自然な空白があるその場所にマウスカーソルを持っていくと、カーソルが選択肢に重なった事を知らせる小さな効果音が入るのだ。
つまり、そこには見えない第三の選択肢がある。
私に数時間前のバグの記憶が蘇ると、
「まーたバグ?こんなの無視無視。それより、早く『ユナメラさんと回る』を選ばないと。またフリーズしても嫌だしね。」
と、それはまるで自分に言い聞かせるように話す。
……だが
……それでも
……好奇心には、抗えない……!!
「ゲーム壊れないでよ…!!」
私はそう祈りながらその謎の空白をクリックした。
するとユナメラはまず驚きの表情差分になり、続いて照れの表情差分になり、そして最後に、赤く頬を染めた状態でコチラを見つめる『覚悟』の表情差分になった。
初めて見る真剣な表情差分に、思わずドキッとときめく。
ユナメラは主人公に一歩近づくと、
「燈華様、私、嬉しい……!ようやく、その言葉が聞けました……!」
とだけ言って教室からそそくさと去っていってしまった。
バグを恐れていた私は、
『ユナメラは教室から去っていった……。
→次ターンへ』
という青春イベント終了の合図を見て、肩の力を抜いた。
「もーー、結局、可愛いユナメラの表情差分が見れただけじゃん。」
そんな気の抜けた私は、何も考えずにそのまま次の画面に進んだ。
しかし、そんな次の画面に現れたのは、
『好感度上昇:+6606』
という、あまりにも異質な数値であった。
別に、好感度+〇〇が出る事は不思議では無い。
殆どのイベントは、その終了後に好感度の増減を教えてくれる。
問題はそのプラス値だ。
私は驚愕しつつも呆れる。
「青春イベントでのプラス値は最高でも10……。はぁ……、またバグかぁ……。そっかぁ……。」
はい、という訳でね。今から私はバグに殺されます!
このゲーム、好感度30超えたらアウトなのに、バグのせいで超過しまくっちゃった。
つまり、次ターン確定で背中にナイフが生えた主人公が誕生するという、ね。
まぁ1週目なんてこんなもんか。
さあ2週目2週目。
と、私はもう諦めて次を意識しながら、画面をクリックした。
……だがしかし、次に流れたのは、特に何でもない日常イベントであった。
「あれ、おかしいな……。」
私は戸惑いつつも日常イベントをスキップし、すぐにユナメラの好感度を見た。
するとそこに書かれてあったのは、
『好感度+12549』
という、あまりにもイカれた数値であった。
見てくれた貴方にLOVE