第三話 やりこんでみた
『Happy Together Lily Garden』
気が付くと、このゲームを遊び始めてから三ヶ月が過ぎていた。
あんなに神ゲーだと騒いでいた人達も、今は皆このゲームを忘れてしまった。
結局皆、難し過ぎてつまらない、理不尽過ぎてしょうもないと言って捨てた。
簡単に、捨てた。
私はそれが何だか悔しくて堪らなかった。
だから私は、世間にどんな新しいゲームが出ても、一切見向きもせずに『Happy Together Lily Garden』をプレイし続けた。
このゲームについて研究した事を記したノートは既に8冊を超えた。
そして今日、私は遂に、
『全世界初の実績コンプを達成した。』
私は下を向きワナワナと少し震えると、全身から溢れ出る歓喜をそのままに開放した。
「ストアページに記されたこの!!……実績コンプ者のみに与えられる最後の実績に記された取得率『0.1%』………それは私の事だぁ!!!!!」
それは長い戦いだった。
皆が攻略を諦めたから攻略サイトも動画も無いなか、必死に手探りで全イベントの法則性を看破していったのだ。
来る日も来る日も嫌われて、何度も何度も殺されて。
「そしてようやく一人を攻略出来た時は嬉しかったんだよね…!」
私はその思い出をまるで走馬灯のように思い浮かべながら、背後のベットにそのまま後ろに倒れた。
ボフッと布団は大きな音を立てて私を包む。
「あっ…、達成感と共に、眠気…が……。」
そういえば、ここしばらく眠ってなかったね……。
私の意識はその思考を最後に、深い深い眠りへと落ちていったのであった…………。
『ポロンッ♪』
私が再び目覚めたのは、その通知音が原因であった。
聞き慣れたその音は、この世界的ゲームストアで、ゲームのダウンロードや更新が完了した事を知らせる役割を持つ音。
私は眠たい目を擦りながら、
「今日、何かのゲームの更新日だっけ…?」
と呟きながらモニターを見た。
すると右下には、
『更新完了:Happy Together Lily Garden』
と、表示されていた。
その瞬間私の思考は覚醒し、
「もしかして新要素!?」
と、つい叫ぶ。
だが一瞬で私の顔は冷静になり、
「…どうせバグ修正だろうね。」
と呟いた。
この3ヶ月、2回だけ更新が入った。
そしてその全てがバグ修正であった。
私は一応確認するかと、ゲームのアイコンをクリックして起動。
そしてそこにはいつもの起動画面……
「……え?なにこれ……」
私は目を大きく見開くと、もしかしたら夢なのではと考え、1度目を擦ってみる。
しかし、しっかりと少し目が痛くなった事で、夢では無いのだと諦めた。
そこに、いつもの11人の少女達が幸せそうに笑って並んでいるスチルは無く、あるのは、真っ黒な画面に赤い文字で記された、
『Happy Together Lily Garden』
というタイトルのみ。
しかしその字体も、いつものフワフワしたフォントでは無く、web小説の字体のような普遍的な堅いフォント。
そのフォントがより恐怖を呼び寄せる。
私は全身の鳥肌を感じながら、
「き、気味が悪いし、早く消さないと……」
と言ってEscキーを…………
……押せなかった。好奇心が、勝ってしまったのただ。
このゲームの全てを見たであろうこの私が見た事のない起動画面。
怖いが、それ以上にワクワクしている自分がいた。
そうこうしているうちに、ゲームは起動した。
以外だったのは、現れたタイトル画面がいつもと何も変わらなかったところだろうか。
『つづきから』の部分が押せなくなっているという訳でも無さそうだ。
そんな中、更新後に現れては良く分からないバグ修正を報告してくれるポップアップウィンドウ君が現れたが、普段とは違い、記されていたのは、
『新攻略対象、ユナメラ実装』
というシンプルな文字のみで、あった。
私はまたしても全身から溢れ出る歓喜に身を任せ、顔を真っ赤に染め上げた。
なぜなら、私は彼女を知っているからだ。
「ユナメラ!?ユナメラってあの、ゲーム本編でランダムに会えて、現在の好感度とか、そのキャラの情報とか、お助けアイテムとかを買わせてくれたあの謎多きユナメラ!?!?」
謎の説明口調の通りで、ユナメラは言わばお助けキャラ枠であり、その素性の殆どが謎のキャラ。
馬鹿高い代わりに一度だけ強襲イベントからその身を持って守ってくれるアイテム『純愛の護符』には、本当に何度もお世話になった。
クリアの為の犠牲に何度もなってもらったので、この娘には頭が上がらない。
だが、私が興奮しているのには別の理由がある。
それは彼女はこのゲームの中で唯一、私を守ってくれる存在である事が関係してくるのだ。
勿論、ストーリ上に『主人公』を守ってくれるキャラはいる。
それは『近衛騎士ラスター』であり、とあるイベントでは主人公が誘拐され、両親からの身代金支払いを待つ身になった時、
「そこまでです!!よくも…、よくも私の(主人公名)様を!!」
と、一定の好感度ならば助けに来てくれるのだ。
だがしかし、それは『主人公』が助かるだけで、現実の私はそれをただ見守るだけ。
それに対しユナメラは、
「(主人公名)様……、ゲホッ……、お約束どおり……、助けに……、まいり…、ま………。」
と、『主人公』を助けるのだが、それと同時に現実の私のゲームオーバーも回避させてくれるので、正直な所、一番思い入れが深いキャラだ。
なのでプレイ中は、
「……おっ、ユナイベか……?…………!!!!ヤッホーユナメラ!あまりにもナイス過ぎるタイミングだねぇ!!ここで護符は激アツ過ぎ!!!ありがとー!!!!」
と、話しかける程。
この長いプレイ時間によって、一方的な絆すら感じている程なのだ。
だからこうして今、ユナメラとの熱い友情(一方通行)を思い出しながら狂喜乱舞しているのは、どうか許してほしい。
私は落ち着きを何とか取り戻すと、両頬を叩いて気合を入れ直す。
「さぁ、ユナメラ!何日かかるか分からないけれど、必ず貴方を落としてみせるから!!!!」
そう言って、私はこれまたいつもの様に『はじめから』をクリックした。
だがその瞬間
『ーーーーーーーーーーーーーーーー』
と、画面は突如として暗転し、ロングフリーズを見せたのであった…………。
ロングフリーズは、皆さんが好きなものを想像してください(神とか神々とかG〇Dとか)