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第十話 娯楽を教えてみた

 部屋に射し込む陽の光で目が覚める。

 ……そんなの、いつぶりだろうか。



 頭痛も胃痛も不快感も無い、爽やかな朝に凄まじい快感を感じる脳は、その明晰さを久しぶりに発揮し、私に私の状況を伝えてくる。



 眼前にあったのは人の顔。


 微かに聞こえる呼吸音。


 ほんの少しだけかかる息。




 私より先に目を覚ましたであろう少女は、朝日を反射し輝く金髪を垂らしながら、私の事をじっと眺めていたのであった。






 適切な睡眠のおかげで、私の脳は既に覚醒していた。

 なので、私は当然のように


「うおぁ!?!?」


と、大声を上げ飛び起きる。

 そんな私の反応に少しいたずらに微笑むと、ユナメラは、


「おはようございます、燈華様♡」


と、笑いかける。

 本当に、本っっっ当に驚いたけど、朝日を背後に輝くユナメラがあまりに綺麗で、何かもう怒りが湧かなかった。

 薄めの金髪が日光で少し透け、まるでステンドグラスの様であった。



 私は、そんなユナメラが放つ神々しさに少し呆れた笑みを浮かべると、


「おはよう、ユナメラ。」


と、返すのであった。






 そして私はこの日から、自身の為ではなく他人、つまりユナメラの為に生活をしていく事となる。







 ……なんて、格好つけて見たはいいものの、結局のところ、家で引き篭もってゲームしてるだけだったんですけどね。

 …………そう、『だった』んです。 






〜1週間〜


 ユナメラがやって来たあの日から1週間が経過した。

 そして1週間ユナメラと生活を共にした事で分かった事がある。

 ……それは、彼女が『普通の人間』では無いと私に改めて分からせるものであった。





 それは、ユナメラには大前提、ゲーム内に無かった概念や事象が無い事。


 

 これはどういう事か具体的な例を上げると、彼女は、用を足す、睡眠を取る、食事を内臓で消化する、生命活動の呼吸…………などが出来ない。



 リアルさに対し異常なこだわりを持つ作者でもない限り、わざわざ2D恋愛シミュレーションに、内臓が摂取した食物から栄養素や水分を抜き取る描写なんてしないだろう。

 他にも、彼女の世界では、『ベッドに入って横になると朝になる』というプログラムは存在するが、では何故そうなるのかという仕組みは用意されていなかったし、何なら夜何時間夜更ししても、朝は訪れない。


 だから彼女はこの世界での初めての夜、私が用意した布団に入っても朝にならず、寝ている私を起こす事も出来ず、結果朝までひたすら私の寝顔を見る事となったらしい。




 排泄とか呼吸とかは、別にそれで体調を崩さないのならいいが、睡眠はどうしたものか。


 徹夜と不眠は別だ。

 私もそんな何日も起き続けることは出来ない。

 でもだからといって、夜の数時間を孤独に過ごさせるのもどうかと思う。



 と、私はこの一週間、頭を悩ませている。








 そして日曜日の今日。

 世間的には休日なこの日に、私は今ユナメラにとある事を教えようと決意した。



 それは、ユナメラが夜中一人でも退屈しないため。


 それは、私の数少ない教えられる事の中でも、かなり自信を持って教えられる事。



 それこそまさに、『ゲーム』であった。




 とはいえ、いきなりPCゲーは厳しいかと感じた私は、少し悩み、そして立ち上がった。

 私にくっつき、何もせずノンビリとしていたユナメラは、


「わっ……、燈華様?」


と、少し驚く。

 そんなユナメラに、


「ユナメラよ。この一週間、この家での生活をかなり体験し、そして学んできた貴方に今こそ!……人類が生み出した最高の娯楽(当社比)を贈呈してしんぜよう……!!」


と、何故か王様みたいな口調で話しかけながら、数年触っていなかった携帯ゲーム機を持ってくる。

 するとユナメラはこちらのノリに乗り、私に傅く(かしずく)

 膝をついたユナメラはそのままこちらを見上げる。


「これは……、燈華様の持つ()()()とはまた違う機械のようですね……。」


 私はそんなユナメラの前でその機械をパカッと開き、そして2つの画面を露出させると、それを高く掲げ、


「これこそが、『天人堂TDS(トライ・デッ・セー)』であーる!!!!」


と、宣言したのであった。




 画面が立体になる機能を誰も使わないでお馴染みな、あのゲーム機。

 今はレトロゲームとまで言われてしまうあのゲーム機。


 高く掲げたそれを、私はわざとらしく大きな動きでユナメラの前に持っていく。

 そして、


「このTDSをお前に預ける。」


と、急に全然違う人のセリフをパクりながら、ユナメラに渡した。



 そして、流石に片腕さんのセリフには乗れなかったユナメラは、


「ハハッ。恐れ多くも、受け取らさせていただきます。」


と、そのまま王と臣下ロールプレイを続けるのであった。






 まあ変な茶番はさておき。


 私達は、お互い照れ笑いを浮かべながら王と臣下ロールプレイを辞め、そしてベッドを背もたれに二人並んで床に座るという定位置に戻った。


 不思議そうにTDSを逆向きに持っているユナメラの可愛さに微笑を浮かべると、私はまずユナメラに、これが何をするものなのか説明を始め、


「これは前教えたスマホとは違って、基本的にはゲームをする為に使う物なの。スマホの時に教えた電源ボタンはこれで…………、」


そして各種ボタンについて教えていく。



 スマホの時もそうだったのだが、ユナメラはかなり物覚えが早い。

 というかその物の利用方法を理解するのが早い。

 商人の血がそうさせるのかは知らないが、これは非常に助かった。




 そして10分後。


「なるほど。ようやくこの()()()()()()という物と()()()()()()()という物についてかなり分かりました。」


 と、この様に、ユナメラはボタンによる操作を習得致しましたとさ。

 やっぱりユナメラは凄い。




 さて。

 ユナメラは今のままでも十分楽しそうだが、今はまだ、ただホーム画面でカーソルを動かしたりしているだけ。

 それではまだ、TDSを遊んだとは言えないだろう。



 私は楽しそうなユナメラから一度、TDSを返してもらう。

 少し悲しそうなユナメラに私はニヤリと笑うと、


「ユナメラ。実はこのTDS、このカセットという別の機械を繋げる事で、更に面白く進化を遂げるの……!!」


と言い、とあるゲームのカセットを挿入した。

 ユナメラは


「さ、更に面白く……!?」


と、目を輝かせる。



 そんなユナメラにTDSを返し、そしてホーム画面に新たに表示されたゲームのアイコンを選択してもらう。



 表示されたタイトルは、




『タイニークリーチャー・ボルドー』!!




 これは、野生のクリーチャーを捕獲し、他者と強制的に戦わせて富と権力と名声を手に入れるというゲーム性を持ち、高い世界的人気を長年持ち続けているあのゲームだ。

 電気を纏ったネズミが看板の、あのゲームだ。

 そしてこれは、2色展開されているうちの黒めな色の方だ。

 宝石でも記号でも惑星でも無い。





「凄い……!凄いですこれ……!!」


 タイトル画面で流れるムービーですでに感動しているユナメラ。

 複雑な操作を必要としないこのゲームなら、きっとユナメラでもプレイできるだろう……。




 その後、私は最初の方だけ隣で教え、後は分からないとユナメラが聞いてこない限り、何も口を出さないようにした。

 ユナメラも、最初の方は


「タイニークリーチャーの世界へ……!す、凄いですねこれ本当に……!物凄くワクワクします!!」


などと沢山話していたが、今は、


「…………。」


と、無言である。

 分かるよユナメラ……、無言に、なるよね……!





 私は没頭するユナメラを見て和みつつ、これで次に進む事が出来ると、別の事を考えていた。




 それは、私にとって大きな挑戦の事。





 この一週間で私は、割と自由な子であるユナメラが唯一遠慮している事を薄々感じていた。



 それは、『外出』について。



 ユナメラは、私が何故引き篭もっているのかを知らない。

 だが、何かしら事情があっての事だと感じているのか、配慮をしてくれているのだ。

 だからユナメラは、この一週間絶対に外についての話題を出したり、外出をしたい気持ちを匂わせたりを一切行わなかった。

 ユナメラは優しい子だ。





 でも私はこの一週間、ユナメラを見て、触れて、知って、そして思った。

 強く強く思った。



 ユナメラに、色んな物を見てほしい。

 ユナメラに、色んな物に触れてほしい。

 ユナメラに、色んな物を知ってほしい。




 だから私は決意した。



 引き篭もって数年、私、神崎燈華は……!





『外に出る!!!!!』

 全然関係無いですが、私が人生で初めて遊んだゲームは『ポケットモンスターブラック』です。

 全然関係無いですけどね。

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