花見のお弁当は妖の腹を膨らませる
会社の昼休み。
昼食はいつも出前の弁当なのだが、歩いて五分ほどにある公園で桜が咲き始めたと聞いたので、今日はそこで花見をしながら食べることにした。
まさに花見日和だった。
公園の桜はまだ三分咲きほどだったが、私のように花見目的で来ている者もちらほらといる。
私はさっそくベンチに腰を降ろすと、来る途中コンビニで買った弁当を膝の上に広げた。
花を愛でながら弁当を口に運ぶ。
そして、その途中。
桜の花に気を取られ、食べることにおろそかになった私は、箸でつまもうとしたウィンナーを取り落してしまった。
――あっ!
ウィンナーは膝で跳ね、それから足元に転がり落ちた。あわてて目で追ったが、見える範囲からウィンナーは消えていた。
ベンチの下に転がったのだろう。
あとで拾って捨てるしかない。
――もったいないことをしたな。
気を取り直してペットボトルのお茶を飲んでいたら、何かにスカートのすそを掴まれ、それから強く揺すられた。
――えっ?
びっくりして足元を見た。
するとそこには、細い骨ばった手がベンチの下から伸びていた。
「きゃあー」
私は悲鳴を上げて立ち上がった。
このとき弁当が膝から飛んで、残っていたご飯や唐揚げなどが地面に落ちて散らばった。
先ほどの骨ばった手は唐揚げを掴むと、あっという間にベンチの下に消えた。
――いったい何なの?
私はベンチから数歩あとずさり、それから恐る恐るベンチの下をのぞき見た。……が、先ほどの手は消えてもうそこにはなかった。
桜の花が咲き始めると、その桜の花に混じっていろいろな妖が現れるという。
あの手も妖のものだったのだろう。
この日の昼食。
弁当はだいなしになったが、それであの骨ばった妖の腹が膨れたと思うと、私はそれほど悪い気はしなかった。