冒険7―初陣
初バトルです。
感想や意見など貰えると幸いです!
二人は馬車に揺られて隣国への道のりを移動していた。
「こっちは馬車なんだな…痛っ!」
時々道にある石により、ガタンと揺れる馬車に尻やら腰が痛いのを我慢しながら呟く。
「当たり前だ、お前の世界はどうなんだ?」
「車とか飛行機とか…鉄の機械がたくさん入り組んで移動してるな」
「飛空艇のようなものか…」
日本ではコンクリートで作られた道を車がたくさん走っているし、空には飛行機が海を渡っている。
この世界では基本的に移動は徒歩か馬車の二つ。
飛空艇も存在する(ソーマルイ国にも一つだけあった)が、発展した都市にしか無いとのこと。
道も道路なんてものは無く、土が整えられてあるだけだ。
「話を聞くだけだと…その日本とやらは技術が発展した都市のようだな」
「まあね」
出発して馬車に乗った後、ラウナが地球の事を聞いて来た。
だから日本での学校生活や街の事などを話ていたのだ。
「私も行ってみたいな…」
ラウナが不意にそんな事を呟いた。
最初に出会った頃は異世界の存在なんて信じていなかったようだが、話を続けて行くに連れて嘘では無い事を悟ったらしい。
結構細かく話をしたからかもしれない。
「……目的地はどこだっけ?」
ソウマはラウナの呟きを聞かなかった事にして話を変える。
世界を渡るなんて簡単に出来るはずがない。
自分だってどうやって帰るかなんて分からないのだ。
もし、ラウナが心から日本に来たいと言ったとしても…それに応える事は出来ないだろう。
ラウナは横目でソウマを一度だけ見て、腰に付いているバッグから地図を出す。
「私たちが向かっているのは…この『ストラト都市』だ」
ラウナは地図にある一つの国を指差す。
現在、二人がいるのはソーマルイ国から南に向かって少し進んだ所だ。
ストラト都市とは食材関係に置いては右に出る国は無いと言われるほど豊かな国らしい。
馬車と徒歩を合わせて三日ほどでたどり着くが、道中には魔物も出るとのこと…
「食料はストラト都市までは保つだけは有る。ただ、夜は野宿だぞ」
「分かった」
今乗っている馬車はストラト都市までは行かず、その途中で他の街に向かうため、その後は徒歩だ。
何事も無くストラト都市まで辿り着けば良いが…世の中はそう上手くは出来ていないだろう。
しばらく馬車の揺れを我慢しながら座っていると、不意に馬車が止まった。
「降りるぞ。馬車はここまでだ」
ラウナはそう言って馬車を降りた。
どうやら、馬車の揺れとは別れでここからは徒歩で歩く事になる。
ソウマも後に続いて馬車を降りると、馬車はゆっくりと動き出した。
自分の進む道を見ると少し登り坂になっている。
「この山を越えればストラト都市だ」
「馬車の揺れが無くなったのは嬉しいが、次が山登りとは…」
「文句を言うな」
ラウナはバッサリと切り捨てて、スタスタと登り坂の山道を歩いて行く。
その姿は勇ましい事この上ない。
如何に日本の生活が便利に溢れているかを実感してしまう。
はあ…と軽く溜め息を吐いた後、ソウマも山道を歩き出した。
☆
☆
「そろそろ日が落ちるな…ここで野宿にしよう」
空が暗くなり始めた頃、ラウナがそう提案した。
山を登るから、持っと辛いかと思ったが…それほどでもなかった。
むしろ、時々見え隠れする魔物(小さめで安全)が怖かった。
襲っては来なかったが見るもの全てが見た事のない動物だからか、あまり落ち着く事は出来ない。
「薪を拾って来る。少し待ってろ」
そう言い残してラウナは森の中へと姿を消した。
出来れば一緒に行きたいのが本音だ…もしこんな所で一人になり、襲われた時の事を考えると怖い。
熊程度の大きさなら剣も有るので問題ないが…未知なる生物ばかりのこの世界では手に負えない動物も居そうだ。
そんなものに遭遇、なんて事は避けたい。
そんな事を考えていた時だった。
遠くから犬の遠吠えのような声が聞こえた。
その声にビクッと驚いてしまう。
暗くなってから行動する動物なんて…しかも犬の遠吠えに似た事をする魔物なんて、ろくなヤツがいないだろう。
絶対好戦的な魔物だ…そんなふうに考えていると森の中からラウナが戻って来た。
「早かったな」
「薪など直ぐに見つかるからな。それより、さっきからベアウルフが鳴いているな」
ベアウルフとは大型の魔物で基本的に狼のような形態をしているが、牙と爪が堅く鋭いため、結構危険な魔物…らしい。
予想通りにろくな魔物ではなかったな。
ラウナは薪を一カ所に集めて置き、それに向かって手を向ける。
すると、手からは赤い光が輝き魔法陣が浮かび上がった。
その魔法陣からは炎が吐き出され、薪に火を灯す。
「ほ~便利だな」
「これくらいなら誰でも出来る。個々の属性もあるが…」
魔法は属性があり、それぞれ人間や魔族も自分に合った属性の魔法しか使えない…それが魔法のルールだ。
「私は魔法が苦手でな…このくらいしか出来ないんだ」
「うん、見た目通りだな」
思った事を口にするとラウナはギロリとソウマを睨む。
ラウナはどう見たって不器用そうだし、魔法についても一般的な事しか知らなかった。
剣技は凄いのだろうが、魔法は全然のようだ。
あまり迂闊な事を言うと剣で刺されそうなので黙って置く。
そんなやり取りをしている間に薪は火に包まれ、二人を照らし、影はユラユラと動いている。
風で揺れる炎を見ながら思う、自分はどうしてこんな所にいるのだろうか…と。
日本の常識は通じない上に、見た事のない動物…魔物とやらは存在する。
普通に生活していた時間を酷く懐かしく感じてしまうほどに、有り得ない事ばかり。
それでも、生きるための最善策を考えて判断し、結果的には生き延びた。
選んだ道が正解かどうかは分からないが、ラウナに出会い、こうして共に旅をしているのは間違えでは無いのだろう。
けれど、やはり日本への帰郷願望は強い。
今まで当たり前に過ごして、うんざりに思っていた教室でさえも懐かしい。
「大丈夫か?」
ラウナが心配そうにソウマの顔を覗き込む。
どうやら心配させてしまったようだ。
いきなり目の前に現れた顔に少したじろっていると、ラウナが聞いた。
「…やはり故郷が恋しいか?」
「……恋しいな」
それは当たり前だ。
こんな命をかける物騒な世界よりも、平穏な日常に戻りたい…そう思うのが普通だろう。
家族の事もある、今頃はきっと行方不明だと騒がれているのが目に浮かぶ。
「だが、愚痴を零しても何も変わらないからな」
「……お前は強いな」
強い…のだろうか?
いや、そんな事はない…とソウマは思う。
正直な話をすると、戦いなんて大嫌いだし本当なら逃げ出したい。
だが、生きて帰りたいからこそ自分のやるべき事を精一杯する。
そうでもしなければ生きられないから…
そんなことはない――そう言おうとした時だった。
ソウマとラウナはバッと森の茂みに向き直り、体勢を低くして剣の柄に手をかける。
鋭い殺気を感じ、素早く反応したのだ。
「何かいるな」
「俺、嫌な予感が…」
何となく嫌な予感を感じながら茂みを注意深く見ていると、一見狼のような魔物が姿を見せた。
鋭く尖った爪と牙、暗闇に赤く光る四つの目に黒い光沢を放つ毛並み。
「ベアウルフか…」
ラウナがそう呟くと、様々な方向からカザッと音が聞こえ、ベアウルフの群れが二人を囲んだ。
どれも大きさはそれほどでもないが、数は30近い。
「ソウマ…半分は任せるぞ」
「了解だ。やるだけやってみるよ」
そう応えて腰にさしてある二本の剣を鞘から抜く。
左手は普通に持ち、右手に握る剣は坂手に持つ。
「古流剣術、蒼閃二刀流の力…見せてやるよ」
そう呟き、地面を蹴る。
ベアウルフの群れに飛び込み、身体の捻りを使って剣を振るう。
黒い体毛を二本の剣が貫き、ベアウルフの体からは赤黒い血が吹き出る。
同時に飛びかかってくるベアウルフに対し、バックステップやサイドステップで素早く移動し、攻撃を無駄なく避けると直ぐに構えて向かう。
身体の動きは決して止まらず、流れるように次の動きに転じる。
背後を突かれた攻撃も回転を軸とした双剣の特性の前には効かない。
十数体いたベアウルフたちは瞬く間にソウマから退き、森に飛び込んで退散して行った。
軽く斬ったが、そのうち塞がってしまう程度なので心配はないだろう。
ラウナの方を見ると、そちらも終わったようで周りにはベアウルフの死体が転がっていた。
「なかなかの腕前じゃないか」
「そりゃどうも」
面と向かって褒められたのが少し気恥ずかしいのか、ソウマはそっぽを向きながら短く応える。
だが、直ぐに二人の表情が引き締まる。
「ソイツ」は他のベアウルフとは違い、隠れもせずに堂々と姿を現した。
「親玉登場…か」
二人の目の前に現れたのは先ほどのより数倍の大きさをしたベアウルフだった。
爪や牙の長さ、鋭さも比べものにならない。
「気をつけろ。さっきのとは格が違うぞ」
ラウナの忠告にソウマは無言で頷く。
格が違うのは頭から理解している。
ビリビリと感じる殺気がどれほど危険度が高いかを物語っているのだ。
ベアウルフは突如として強靭な四本の足を使い、二人のもとに突進して来た。
反射にも等しいくらいの反応で左右に避け、挟み込むように動く。
スピードすら段違いだ。
余所見などしていたら一瞬で切り裂かれるか食いちぎられるだろう。
旅を開始して1日目でゲームオーバーなんて冗談じゃない。
ベアウルフの素早い切り裂きがソウマを襲い、ソウマはそれを二本の剣で受け止める。
動きが止まった隙にラウナが背後から切りかかる…が、ベアウルフは攻撃を感知し素早く跳んで距離を空ける。
「良い引き際だな」
「いや、関心する所じゃないからね。下手すればこっちが死ぬからね」
本当に下手すれば死ぬ。
図体が大きくなって攻撃力が上がったのに加えてスピードも上がってるなんて…どう考えても反則だ。
「ソウマ、お前は奴の攻撃を正面で引きつけて隙を作れ。私が背後から仕留める」
それはさっきと同じパターンではないだろうか…
あのスピードや察知能力に長けたベアウルフを仕留めるには、大きな隙を作らなければ難しい。
つまりだ…先ほどは受け止めたがこちらから攻めなければ駄目と言う事だ。
「最初から難易度が高いだろ…」
そう呟きながらも剣を構える。
ベアウルフはそれを待っていたかのように、ソウマに攻撃を仕掛ける。
鋭い爪が一線を切り、ソウマはそれを紙一重で避けた…が、避けきれずに頬が少しだけ切れてしまう。
そのまま姿勢を下げ懐まで走り、回転しながら頭に向かって斬りつけた。
しかし、ベアウルフはその鋭い牙で剣撃を防いだ。
ソウマはその隙を見逃さない。
回転の勢いを殺さず逆手に握った剣でベアウルフの目を狙う。
だが剣先が目に触れる事は無かった。
ベアウルフの強靭な前脚がソウマに向かっていたのだ。
それにいち早く気づいたソウマは寝転ぶ事でその攻撃を避けたが、ベアウルフの牙が襲う。
ソウマの身体は寝転んだばかりだからか次への行動が遅れ、避けきれない。
「ラウナ!」
ソウマの呼びかけに背後からラウナが斬りかかる。
狙いは頭、あらゆる生物の急所だ。
これで決着…そう思っていた二人だったが、ベアウルフは想像以上に強かった。
跳んでいたラウナの身体はベアウルフの尻尾に寄って急速に方向を変えられ、近くにあった木にぶつかる。
「あぅ!」
ラウナは背中を木に強打し、苦痛の声を漏らして気絶してしまった。
グッタリと意識を失ったラウナの姿を見てソウマは顔を青くする。
「軍人が簡単に気絶すんなよ!」
だが、ソウマのその隙は致命的な結果を生む。
一瞬、ラウナに気を取られたソウマにベアウルフの爪が襲いかかった。
咄嗟に反応し剣を爪と身体の間に滑り込ませ、身を守る…が、強靭な力を防ぎきる事は出来ずにソウマの身体は後ろに吹き飛んでしまう。
「ぐっ!」
ソウマの顔が苦痛に歪み、痛みに耐えきれずに剣を離してしまった。
ヤバい…そう判断したソウマは痛む身体に鞭を打って剣を取りに行こうとする。
だが、ベアウルフは既に飛びかかっていた。
空中を跳び、自分に向かって来るベアウルフの姿を見て一瞬…死を感じてしまう。
その瞬間、ソウマの背の魔法陣が銀色の輝きを放つ。
そして自分から離れていたはずの剣が銀色の粒子を放ちながらベアウルフに向かい、独りでに動く。
完全に予期しなかった攻撃にベアウルフは反応出来ず、二本の剣はベアウルフの体を突き刺した。
ベアウルフはそのまま落下し、地面に体を打ちつける。
しかし、足に力を入れ、再び立とうとする。
魔物ならではの生命力なのかは分からないが、やらなければこちらが死ぬ。
再び魔法陣が光り、ソウマは姿勢を低くして地面を蹴った。
ソウマは神速と化し、全てを超越した速さでベアウルフの横まで到達する。
そしてすれ違う瞬間にベアウルフの体に刺さった剣の柄を握る。
神速で動くソウマに握られた剣は一直線にベアウルフの体を切断した。
急速に力が抜けたベアウルフはグラリとバランスを崩し、地面に横たわる。
微かに呼吸をして動いていた体も次第に静かになり…ついには完全に停止した。
「終わった…」
自然と口からそう漏れた。
身体の緊張が一気に抜け、ソウマはその場に座り込む。
まさか旅の初日にこんな魔物と出くわすとは思わなかった。
危うく死ぬ所だ。
助かったのは…剣が銀色の粒子を纏いながら勝手に動いた、あの不思議な現象だろう。
……いや、不思議ではない。
ソウマは既に気づいていた、あれが神龍ラグナロクが言っていた『無属性の魔法』なのだと。
言わば…物を遠隔操作出来る魔法。
確かに属性は無い。
剣以外にも使えるかは分からないが、強力な力である事に変わりはない。
神速も最初に使った頃より、身体へのダメージが減った。
身体の至る所は痛むし披露感も大きい。
それでも血を吐いて気を失わないだけマシだ…恐らく、身体と背の魔法陣がリンクしてきているのだろう。
更に時間や経験を費やせば実用的になる。
遠隔操作の魔法も感覚は覚えている…これからは魔法も使えるだろう。
膝に手をついてゆっくりと立ち上がり、木を背にしてグッタリと眠るラウナの元に向かう。
少し恥ずかしいがそのままにしても置けないので、お姫様抱っこをして場所を移動する。
この場所に留まっていたら血の匂いで他の魔物が集まる可能性がある。
安全性を考えると移動するのが利口だろう。
火を消し、荷物を持って歩きだす。
お姫様抱っこされているラウナは起きる気配がない。
振り返って動かなくなったベアウルフに向かって言う。
「成仏してくれよ…」
ソウマは月明かりに照らされる道を歩き、出来るだけ安全な場所を探した。