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冒険3―ラウナ・ソン・ソーマルイ






女は心底驚いていた。

なぜなら、ただの人間だと思っていた男がまばたきの間に視界から消え、自分の背後に移動していたのだから…

加えて強烈な風が巻き起こった後、その風圧に屈強な護衛が吹き飛ばされた。

これは有り得ない事だ。

この世界に存在する『魔法』を使ったとしたなら不可能ではないかもしれない。

だが、魔法には5属性しか存在しない…その中に高速で移動の出来る魔法は無い。

身体能力でのスピードでは到底有り得ない速さだった。

つまり……この人間は異例な存在。


女はそう考えつくと震える言葉を抑えて言った。


「貴様…何者だ…?」


女の問いにソウマはニヤリと笑う。

取り敢えず絶体絶命の危機は逃れられた…このまま何とか世界観について教えてもらえたら一番だろう。


「人間だよ。だが少し訳ありで…――」


それが襲って来たのは言葉を発している途中だった。

身体の全筋肉が軋み、悲鳴をあげる。

痛みが全身に広がり、脳はそれを痛覚として認識する。

身体中を巡る血液を喉からゴフッと音を出しながら吐き出してしまう。


「ゴホッゴホッ!」


ソウマは激しく咳き込み、立っていられずに崩れるように地面に膝をつける。


なんでだ…?

さっきまで平気だったのに急に…


「おい!人間!大丈夫か!?」


耳元で女が叫んでいるのが分かる。

けれどその声は小さく、遠くから聞こえているように感じた。

次第に意識すらまともに保てずに、身体は横に倒れ地面と平行になる。

訳も分からないまま意識は闇へと落ちて行き………

そこでソウマの意識は途切れた。
















目が覚めると、そこには見知らぬ天井が視界に入って来た。

頭がボーっとして現状について良く分からない。


「気がついたか?」

「!?」


不意に女の声が鼓膜を揺らした。

その声で意識は覚醒し、バッと勢い良く身体を起こす。

ソウマは白いベッドの上に乗せられ、身体には布がかけてあった。

周りを見渡すと、西洋風に作られた部屋に机と椅子が置いてあるだけだった。


女は腕を組み、椅子に座って足も組んでいる。

服装は鎧ではなく、白いワンピースのようなものを着ていた。


「ここは…?」

「ソーマルイ宮殿だ。貴様が血を吐いた後、気絶をしたから助けてやったのだ。有り難く思え」


お前たちが追いついたからだろう…そう思いながらも、助けてくれた事に変わりはない。

しかも、そのおかげで今は落ち着いて話が出来そうな状況にある。

全て結果オーライだろう。


「…ありがとう…助かったよ」

「ふん……それで?なぜ貴様は不法入国などした?」


ソウマの素直な気持ちも女に対してはどうでも良かったみたいだ。

有り難く思えと言ったから礼を言ったのに、理不尽だな。

多少ショックを受けながらもソウマは女の問いに答える。


「ここが国なんて知らなかったんだ…と言うか何で人間がいないんだ?」

「ここが魔族の国、ソーマルイだからだ。人間が入国するには特別な許可証が必要なんだ」


特別な許可証…だから追われたのか。

それに女は魔族の国と言った…魔族とは何だろか?

分からない事が多過ぎる。


「それで、もう一つ質問だ。貴様は何者だ?あの力は何だ?」


女の質問がやけにハッキリと聞こえた。

何者…そう聞かれたら「異界者」としか答えられない。

力だって神龍とやらに与えられただけだ。

未だに自分の身に何が起こったかなんて理解はしていないが、割り切って行かなければ生きていけない。


ソウマは女を見つめる。

そこで、女は良く見ると相当な美人である事に気がついた。

薄いピンク色の髪をサイドポニーで纏め、長い睫毛に強気を印象付ける切れ長の目。

赤い唇は潤いがあり、綺麗な小顔のライン…誰が見ても美人だと応えるだろう。


ジッと見つめるだけで一向に口を開かないソウマに痺れを切らしたのか、女はズンズンと近づいてソウマの胸ぐらを掴んだ。


「質問に答えろ!」

「…………先に言って置くが…嘘じゃないからな?」


異世界から来た、なんて本当なら黙っている方が…隠して置いた方が良いのかもしれない。

けれど、これからの事を考えると協力者はどうしても必要だ。

目の前の女が100パーセント信じられるかと聞かれたら、それは出来ない…

だが、自分を助けてくれたのと、こうして話し合いの場を儲けていると言う事はそれなりに信用性がある。

そう考えた結果、身元を明かしても大丈夫だろうと思ったのだ。


ソウマは少しの間を空けた後、ゆっくりと告げた。


「俺は異世界から来たんだ」

「……………は?」


女の表情が固まる。


「理由は俺にも分からない。だが、白い魔道士に連れて来られたんだ…友人も一緒だったが、途中ではぐれてしまって――」

「ちょっと待て…貴様、ふざけているのか?」


女は眼光だけで人を殺してしまいそうな程鋭く睨む。

これは普通の反応かもしれない。

誰だって「異世界から来た」なんて言われたって信じられる訳がないうえに頭がおかしいと思われるだろう。

それか冗談のどちらかしか無い。

だがこれは真実…紛れもない真実であり事実だ。


「ふざけてはいない。この状況で冗談を言えるほど馬鹿でもないからな…」

「だからって異世界だと?ふん!信じられる訳がないだろう!」

「じゃあこのまま捕らえるか?どんな尋問や拷問をしようと答えは変わらない…紛れもない事実だからな」


ソウマは一歩も退かずに女を見つめる。

ここで退いたら信用などしてもらえない…何とか話を聞いて貰えるようにしなければ何も始まらないのだ。


「~~~…ッ!……分かった…話を聞こう」

「本当か!?」

「信じるかどうかは…その後に決める。話せ」


女は胸ぐらを話し、ドカッと椅子に座る。

どうやら、取り敢えずは分かって貰えたようだ。

だがここからが問題…それでも出来事をそのまま話すしかない。

変に脚色すれば逆に信憑性が無くなってしまう。

嘘偽り無く…これが大前提の事柄だ。


「あれは友人と帰り道を歩いていた時だった…――」


そしてソウマは、女に出会うまでの経緯を包み隠さずに話し始めた。











「なるほどな…信用し難い話だ」


全て話終えた後の女の感想がこれだった。

まあ、しょうがないだろう…信用して貰える方が有り得ないのだから。


「だが、神龍の話は聞いた事がある」

「へ?」

「神龍は言わば『神話』のような存在だ…見た者はいないが、昔から語り継がれている」


あのドラゴンはそんな素晴らしい龍だったのか…と思い出しながら背中の魔法陣を触る。

いや…砂漠で会った時は確かにただ者ならぬ存在だとは感じた。

異界者の事も知っていたうえにソウマの名前も知っていた…力を与えた事も見てみれば相当に凄いのは容易に分かる。


「あの力…まさか神龍に与えられたとは…信じ難いがそれなら納得がいく」

「出来れば世界について教えて欲しい…この力についても分からないんだ」

「……………」


女は顎に手をつけて考え込み始めた。

地球に帰るためにも世界についての知識が必要だし、自分の力についても知らなければならない。

なぜ自分が血を吐いて倒れたのかだって分からないのだ。

そんな事では力も使えない。


期待を抱きながら返事を待っていると、女は顔を上げた。


「良いだろう。ある程度は信じてやる…世界についても教えてやる…が、条件がある」


条件…聞いてみないと何とも言えないが、こちらに選択肢は無い。

受けるしかないだろう。


「私の側近を頼みたい」

「…側近?」


意外な条件だった。

側近…つまり、彼女の側について護衛をしろと言う事だろう。

だが、それて良いのだろうか?

確かに神速の力は凄まじいのかもしれない…だが使いこなせていないのも事実。

これほど未熟で、危険因子な存在を側近に置いて何の得が有るのだろうか…


疑問を露わにするソウマに女は後づけるように説明を加える。


「不安要素は有るが…貴様の力はそれを有り余るほどに大きい。それに神龍と接触した唯一の存在だ。価値はある」

「…なるほど」


言い方は多少気に食わないが、ある程度は買ってくれているようだ。

それなら問題ない…むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。


「そう言う事なら…何てことない」

「良し、なら決まりだ!私はラウナ・ソン・ソーマルイだ、ラウナと呼んでくれ…よろしく頼む」


そう言ってラウナを手を差し出し、握手を求める。

こちらの世界でも握手は共通らしい。


「俺は兵藤…いや、ソウマ・ヒョウドウだ。ソウマで良い。こちらこそ、よろしく頼む」


ソウマも手を差し出し、ラウナの白くて細い綺麗な手を握る。


「まずは世界について教えよう…と思ったが、今日は疲れているだろう?この部屋を使って良いから休め。また明日…私が呼びに来る」


ラウナはそう言うと部屋から出て行ってしまう。

だが、この提案は嬉しいものだった。

確かに身体には披露が蓄積されているし、何より精神的な疲れが酷かった。


ベッドに身体を寝かすと睡魔が待ってましたとばかりに押し寄せて来る。


「疲れたな…」


ゆっくりと目を閉じると、意識は直ぐに遠退きソウマは眠りについた。











「ラウナ隊長…何をお考えですか?あのような得体のしれない人間を側近にあてがうなど…」


ラウナが部屋の扉を閉めると、扉横に立っていた見張り役のザッシュが咎めるように言った。

ザッシュは町でソウマを追っていた全身鎧の一人だった者…だが、現在は兜を取り顔が伺える。

その顔は狼のようで額には角が生えている。


「ザッシュ…あの人間は不可解な点が多いが真っ直ぐな目をしている。加えてあの神速とやら…我々で面倒を見る方が良い。野放しにして何者かが悪事に利用されても困る」

「………ですが…」

「怪しい行動を起こした時は始末して構わない。それで良いか?」

「…了解しました」


ザッシュは一礼した後、廊下を歩いてラウナから離れて行った。

ラウナは眉を「ハ」の字にしながら溜め息を吐く。


「急に問題が山積みになったな」


そう呟きながらザッシュとは逆の方向に歩き出す。


この時、ソウマとの出逢いが彼女にとって大きな出来事となる事を…彼女はまだ知らない。








異世界にやって来て、やっと1日が終わりました…

誤字・脱字などが有りましたら教えてくだされば幸いです。


良ければ感想や意見などを頂けたら嬉しいです!


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