MY： FANTASY

冒険２３―相対

夜明けと共に始まったダーラル国とデルーチ帝国の戦争、既に日は落ち始めて空は茜色へと染まっている。

だが、幾度となく繰り返される戦いで巻き起こされた土埃のせいで濁って見えてしまう。

ソウマの周りには敵軍はもういない。

背後ではまだ戦いが繰り広げられ、そこを突破して来たのだ。

多少だが静かになった戦場をゆっくりと進んでいると、ソウマの目の前に一人の男が現れた。

「……アンタが『カイト』か？」

「ああ。初めましてだな、神速のソウマ」

鋭い目つきに筋肉質な身体、黒く短い髪をツンツンに立たせている。

見た目から血の気が多そうで、明らかに好戦的だと言うのが分かる。

どうやら神速を使う事は筒抜けのようだ。

やはり、何らかの形でアヤセと関わっている可能性が高い。

「なぜ俺の事を？」

「なんだ、お前知らないのか？異界者六人のうち四人は既にグルなんだぜ」

ニヤリと余裕の笑みを浮かべるカイト。

六人中四人がグル…その言葉にソウマは驚愕していた。

既にほとんどの異界者が接触し、加えて手を組んでるなど予想だにしなかった事だ。

異界者は一人で一国に立ち向かえる力を有している。

そんな危険人物が四人も集まっているなど…一体何を考えているんだ？

「その中にアヤセも？」

「ああ。アヤセの情報でお前の事は筒抜けだ」

四人の中にアヤセが入っている。

つまり、まだ不明の一人を覗いてはソウマを知っていて、恐らく戦い方すらも把握されているだろう。

アヤセを始末するにも、助けるにしても…他の異界者と戦う事になる可能性が高いと言う事だ。

現に、今この時にこうして異界者同士が敵として相対している。

戦いを避ける事は出来ないだろう。

「………なるほどな。なら――」

ソウマはゆっくりと矛先をカイトに向ける。

殺気の籠もった視線と緊迫した空気、これ以上の会話は無いと言う表れだった。

「お前にアヤセの居場所を吐いてもらう」

「ククク、おもしれぇ…やってみやがれ！」

カイトの身体を赤い炎が包み込む。

自分と似てる魔力を感じ、ソウマは握る刀を構えた。

ここからは人間の戦いではない…「龍の喧嘩」の始まりだった。

☆

ソウマは強く地面を蹴り、敵の懐まで入り込む。

普通ならいきなり敵に接近するのは危険だが、相手は自分の手の内を知っている。

それなら小細工などせずに真っ向から挑んだ方が効果的だ。

両手に握る日本刀『天地』を横腹に凪払うようにして振るう。

だが、カイトの腕がその間に入り込み、ガキィンという金属音が響く。

「……手甲（ガントレット）か」

自分の剣を防いだそれを見てソウマは呟く。

カイトの手には手甲が付いており、肘辺りまで覆われている。

剣士からすると、手甲という物は戦いずらい。

手甲は攻撃と防御の両方を同時に行う事が出来る。

逆に言うと剣は出来ない。

リーチはあるが、隙の無い手甲は攻め難く守りずらいのだ。

「ソウマ…だっけか？お前、俺たちと組まないか？」

ひとまず距離を空けた時、カイトからそう提案する。

組まないか、そう聞かれた所でソウマには答えようがない。

なぜなら…

「その前に、アンタらの目的が知りたい」

異界者を集めて手を組む理由を教えて貰っていないからだ。

異界者の六人はそれぞれ龍の力を受け継ぎ、一騎当千の力を持っている。

そんな者たちを集めて企む事など、相当に大きい事だろう。

ならば、それを聞かずに首を縦に振る事は出来ない。

暫しの沈黙の後、カイトはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。

「俺たち異界者の目的は、元の世界に戻る事にある。だが…それには黒龍の力が必要だ」

「黒龍？」

「そうだ。そして、元の世界に戻るために黒龍は一つだけ条件を出した……それは、異空の巫女を殺すこと」

ソウマは訳が分からないと言ったように眉間に皺を寄せる。

それを読みとってかカイトは話を続けた。

異空の巫女は自分たちを日本に返すのに邪魔な存在。

生かしておけば元の世界には帰れない。

巫女さえ消えれば黒龍の力で日本に帰れる。

だが、ここで問題があった。

巫女は世界のピンチにしか現れない。

だから、この世界に歪みを作り巫女を炙り出す。

それが目的だ。

カイトはそう告げた。

「その…巫女とやらは普通には会えないのか？」

未だ分からないと言ったように険しい表情でソウマが問う。

なぜ巫女が世界のピンチにしか現れないのか…それが本当だとして、世界を混乱に導いて良いのか。

確かに元の世界には帰りたい、それは皆同じのようだ。

だが、だからと言って何でもやって良い訳ではない。

「会えないな。巫女は『最果ての地』にいて、そこは人間が入れる場所じゃねえ。黒龍曰わく…な」

「なるほど」

ソウマは理解したと頷き、剣を振り上げて魔力を込める。

そして…振り抜くと同時に魔力を解き放つ。

銀色に飾られた剣撃がカイトを襲い、接触する瞬間。

突然に現れた赤色の炎がカイトを守り、剣撃を瞬く間に燃やし尽くした。

「残念だが…アンタらと手を組む訳には行かないな。アンタたちが言ってるのはワガママだ…それに、俺にはやる事がある」

鋭い視線を送るソウマが言う。

異空の巫女だとか最果ての地だとか、本当の所は未だに理解出来ない。

けれど、手を組んだ異界者四人が世界に混乱を齎すのなら、許される事ではない。

そうしなければ…元の世界に帰る事が出来ないとしても、だ。

カイトは態とらしく軽い溜め息を吐いて、ファイティングポーズをとる。

「残念だ…お前は良い戦力になると思ったんだがな」

お互いに探り合いは無し。

ソウマは素早く刀を鞘に仕舞い魔力を注ぐ、それを肘から腕、腰の回転を利用して勢い良く鞘から引き抜く。

居合いから放たれた剣撃は先ほどより格段に強く、それは鋼鉄をも簡単に切り裂く威力。――天照。

剣撃は土を抉り、カイトを巻き込んで地面へと一直線の亀裂を作る。

轟音と共にカイトの身体が剣撃に消えた―――

――TO BE CONTINUED――