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冒険21―バーサーカー同士の戦い






グランの振り下ろした巨斧は轟音を響かせ、戦場の大地を揺らした。

巻き起こる土埃は次第に風に流され、自分の倒したであろう相手に、グランは視線を向ける。


「なっ…!」


明らかに、誰が見てもグランが勝ったと認めざるを得ないはず…だった。

手応えは感じていたし、バーサーカー状態のグランの攻撃を、ラウナが防ぐ術は無かったはず…だった。

だが、グランが目にしたもの。

それは…ラウナがグランの攻撃を防いでいる光景だ。

ラウナは自分の持つ剣を頭より少し高い位置で構え、巨斧をしっかりと受け止めている。

有り得ない…と、グランは狼狽する。

目の前の女は確かに実力はあるだろうし、才能もある事は認めざるを得ない。

だが、パワーだけを見てみればグランの方が上なのは確実。

加えてバーサーカーを使い、全てに置いて勝っていたはずなのに…なのにラウナは立って、攻撃を受け止めていた。

驚くのも無理はなかった。


「残念だったな…『巨斧のグラン』。私は魔力コントロールが下手でな…本当は使いたくないのだが………そうも言っていられない」


グランを見上げるラウナの姿は、明らかに以前とは違っていた。

犬歯は牙のように鋭く伸び、背中に生える翼の羽はナイフのように尖り、髪は溢れる魔力に乗り重力に逆らうかのように揺れている。

溢れんばかりの魔力…闘争心を剥き出しにしたオーラ、巨斧を防いだ戦闘力。

これは紛れもない――


「まさか…バーサーカーか!?」

「その通りだ。私も使えるんだよ…扱いが下手だがな」


ラウナは顔をしかめながら尖った犬歯を見せる。

ラウナは魔法が大の苦手だったが、それは魔力が低いからではない。

魔族なだけあって、魔力は一般から見れば充分過ぎるほどにある。

だが、あまり器用ではないラウナはコントロールが出来ず、魔力を応用する魔法が苦手なのだ。

バーサーカーについても同じで、使えるのだがコントロールが上手く出来ない。

そうすると、リスクが大きくなり危険が増える。

だから、本来なら使わずにいる事が一番だった…が、グランの実力を考えれば手加減は出来ない。

それどころか敵がバーサーカーを使ったのだ…あのまま戦っていたら確実に負けていただろう。

出し惜しみ出来る状況でもなかった。


「ここからが本当の戦いだ」

「…ガハハ…こりゃたまげた。今までの無礼は詫びてやるぜ」


先ほどまで狼狽していたグランは、ニヤリと嬉しそうに笑い、巨斧をゆっくりと自分の肩に乗せる。

その表情は、まるで自分のライバルを見つけたかのように、挑戦的な歓喜の笑みだ。

バーサーカーを発動したお互いの戦闘力は互角…間の距離は2メートルと、一歩踏み出せば攻撃範囲内へと侵入してしまう。

一筋の汗が頬を伝い、顎から滴に変わり地面へと落下する。

瞬間、二人の矛はぶつかり合い、甲高い音を響き渡らせた。


迫り来る巨斧をしゃがむ事で避け、膝の屈伸運動を利用してグランの首目掛けて突きを繰り出す。

グランは素早く反応するも、巨斧を振り回した後に避けるのは至難…避けきれずに首に剣先が掠る。

だが、そんな事などお構い無しと言ったように、グランは太い筋肉質な腕を伸ばし、ラウナの身体を掴む。

そのまま地面へと突き付けると、衝撃に耐えきれない地面に罅が入る。


「ぐっ!」


ラウナの表情が苦痛に歪むが、それも一瞬のこと。

直ぐに身体を捻り、自分を捕縛する大きな手から逃れ、その捻りを利用してグランの腕を数回斬りつける。

更に畳み掛けるようとする…が、真上から振り下ろされるグランの巨斧に気付き、転がるように横に避けた。

立ち上がるのと同時に走り出し、グランの背後へと周り込んで力一杯に剣を振るう。

グランは余りの小回りの効いた動きに着いて行けず、剣は背中を切断し致命傷とも言える一撃を与えられた。

幾ら頑丈だと言っても、何度も切られれば血は相応に流れる。

地面へと流れ落ちた血は、体力を奪い戦闘力を削ぎ落とし、五感すらをも正常に働かせなくなった。


「ハァ…ハァ……決着の時だ、巨斧のグラン!」

「ガ、ガハハ!人生の中で一番良い戦いだ!最高だ!」


既に意識は朦朧としているはずのグランが、楽しそうに叫ぶ。

そして、バーサーカーと言う力のタイムリミットが直ぐそこまで迫っている事を二人は理解していた。

一撃…一撃を決めた者がこの戦いの勝者となる。

直感的に理解すると、二人は真っ直ぐに距離を詰めて行く。

グランは巨斧を振りかぶり、力一杯に全力を込めて振り下ろす。

対するラウナは、すくい上げるようにして剣を両手で振り抜く。

互いの矛はぶつかり合い、力技での勝負になる…はずだった。

だが、ラウナは武器同士が接触した瞬間、剣を斜めに戻して巨斧の攻撃を受け流したのだ。

勢いのままに巨斧は地面に突き刺さり、隙だらけのグランの身体に、ラウナの剣が迫り寄せる。

そして……決着の時を迎えた。

剣を防ぐ物は何も無く、グランを一線に切り、決め手の一撃を食らったグランは崩れ落ちるように倒れた。


「ハァ……ハァ…」


ラウナは肩で息を整え、口からは熱い吐息が吐き出されている。

勝った…脳裏にはその言葉が浮かび上がり、全身の力が抜けた。

バーサーカーは自然に解かれ、途端に全身の筋肉たちが悲鳴を上げる。


「痛っ!」


激痛が身体を支配し、意識を保つ事さえ辛くなる。

剣すら握れなくなり、痺れた筋肉は動かなず、右手からはスルリと剣が逃げ、カランと地面に落ちた。

明らかに格上と戦ったラウナの身体は限界で、勝った事自体が驚きだった…だが、戦いはまだ終わっていなかった。

地面に影が映り、背後に誰か存在する事を知らせ、ゆっくりとラウナは首を捻り、その姿を確認する。


「まだ…だ…俺様…は…」


そこに居たのは倒したはずのグランだった。

確かに一撃は与え、グランも既に意識など無いに等しい。

だが、勝利に固執するグランの執着心が、動かない身体を動かしたのだ。

血だらけの姿で巨斧を振りかざすグラン…ラウナの身体は動かない。

身体中の血の気が引いた気がした。


「勝づんだーー!!」


詰めの甘さが招いた事態…ラウナは自分の愚かさを悔やみ、心の中で呟いた。

――済まない…ソウマ。約束は守れそうにない――

ラウナは堅く目を閉じ、人生の終わりを待った。

しかし…


「グランよ。彼女はソウマくんの大切な方だ。殺させはしないよ」


人生の終わり所か、痛みも衝撃も来る事は無かった。

ラウナがゆっくりと目を開くと、黒い鎌が巨斧を防ぎ、その持ち主は…カインだった。

カインが鎌を回転させると巨斧は真っ二つに切れ、更に黒い鎌はグランの身体を切り捨てた。

闇の魔法を使う魔族ダキュラ…その強さを目の当たりにした瞬間だった。


生きた…そう理解した瞬間、ラウナは意識を手放し、身体はドサッと倒れる。

酷使し過ぎて一気に溜まった披露と痛み…それらに生き残ったと言う安心感が加わり、ラウナは眠ってしまったのだ。

それを見たカインは溜め息を吐いた後に、ラウナを担ぎ上げ、ダーラルの砦へと歩き出す。


「戦場で安心してしまうとはね…」


軍人なら有り得ない…だが、ラウナはまだ十九歳。

身体は大人でも、精神は大人になりきれていない…しょうがないのだ。

そんなラウナを見て、彼女と居た更に幼い少年であるソウマを思い出す。

彼は生き残っているだろうか…いや、生きているだろう。

出会った時に感じた異常なまでの魔力、年齢に似つかわしくない冷静さ、全ての者を圧倒させる眼光…

あれほどの人間が、こんな所で死ぬはずがない。

彼はいずれ、世界に大きな変革を齎すであろうほどの人物だ。


「見せてもらうよ…キミの力をね」


カインは土埃で濁った空に向かって、この戦場のどこかにいるソウマへ言葉を贈った。







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