冒険20―それぞれの戦い
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「はあ!」
ラウナの振るう剣の刀身と、それを受け止めるグランの巨斧の刃がぶつかり合い、キィンと鉄同士が鳴らす甲高い音が響く。
当たり前だが、どんなに力を込めてもグランの巨斧はビクともしない。
それを理解しているからこそ、ラウナは力では勝負せずに手数で対抗していた。
グランの凄まじい横振りによる一閃を、しゃがむ事で避け、すかさず懐に飛び込み刃を立てる。
避けようとするグランの脇腹に刃先がかかるが、それ以上は行かず、かすり傷しか与えられなかった。
「ガハハ!なかなかの腕だ!」
「筋肉馬鹿め…」
嬉しそうに笑うグランを見ながら、「硬すぎる」とラウナは舌打ちをする。
鍛えられた筋肉は鋼のように硬く、ラウナの振るう剣では、思ったようにダメージを与えられなかった。
それは、ラウナが非力だからではない。
ラウナはスリムではあるが、無駄の無い筋肉の付き方により、そう見えるだけだ。
力が無い訳ではない。
それでも、ダメージを与え辛いのは、グランが巨体である事と筋肉が異常なまでに鍛えられているからだった。
「それにしても良い女だ!強く美しい…敵じゃなかったら俺様の女にしてやりたいくらいだ!」
「……虫酸が走るな。貴様のような男など、こちらから願い下げだ!」
一層険しくなった表情で、ラウナは剣を振り下ろす。
だが、グランの巨体に似合わず俊敏な動きは、ラウナの攻撃を上手く避け、なかなか一撃が決まらない。
普通ならもどかしさを感じ、ここで焦って深く踏み込み過ぎてしまうものだが、ラウナは違う。
伊達にソーマルイ国の軍隊長を名乗る女ではない。
常に敵の攻撃を視野に入れた攻撃で、自分の有利に戦いを進ませる。
ソウマほどではないが、ラウナの動きは速く、充分に実力者として戦えていた。
寧ろ、この戦いで焦っていたのはグランの方だった。
ただの女兵士だと見くびっていたが、いざ戦ってみると、その腕の良さは予想を遥かに越えていたのだ。
しかも、自分の一番嫌う、細かで俊敏な手数の多い攻撃をして来る…表面では平然としていても、内心は冷や汗ものだった。
「…ソーマルイ国を潰した時は、お前は居なかったな?」
「当たり前だ。私が軍隊長に任命されたのは3年前だからな…」
「ガハハ!そうかそうか!ソーマルイ国が敗戦した時はまだガキだったか!」
そう、グランの言う通り…ソーマルイ国がデルーチ帝国に敗戦したのは十数年前。
ラウナが七歳の頃の話だ。
現在の年齢が十九なので、ラウナは若干十六歳という若さで軍隊長へと就任した。
「ガハハ…だが、お前さんじゃ俺様には勝てん!」
ニヤリとグランが笑うと、魔力が急速に高まる。
身体を覆う体毛は逆立ち、手足の爪が更に鋭く尖った。
一般では魔力を体内から放出し、魔法を使うのが普通だ。
だが、魔力を放出せずに体内で溜め込み、体内の中のみで魔力を循環させる…魔族のみが使える戦闘手段だった。
名を『バーサーカー』と言い、人間は体内で魔力を循環させられるほど頑丈では無いため、魔族しか使えない。
だからと言って魔族が全員使えるわけでは無い。
バーサーカーは身体を魔力で強化し、通常よりも速く動き、強い力を使え、より頑丈な身体へと変化させる技だ。
そのため、デメリットが伴う。
長時間使えない上に、使い終わった後の激痛と披露が激しい。
会得するには常人を越えるセンスと努力、そして……デメリット…リスクを受ける覚悟が必要なのだ。
「まさか…」
ラウナの表情は固まり、頬を冷や汗が伝う。
グランは「巨斧のグラン」と呼ばれるほどの実力者なのは知っていたが、バーサーカーを使えるまでとは予想だにしていなかったのだ。
「ガハハ!そらぁ!行くぜえ!」
グランは掛け声と共に地面を蹴る。
瞬間、今までとは段違いの速度でラウナへと迫り、握った拳を振り抜く。
グランの拳は、ラウナの腹へとめり込むように命中し、身体はくの字に曲がり後方へと吹き飛んだ。
「がはぁ!」
腹から内臓へと衝撃が伝わり、吐血する。
口から吐き出された血液は、地面に滲んで直ぐに黒くなった。
一撃が先ほどとはレベルが違うほどに重く強い。
しかもグランは巨斧を使っていない…ただの殴ると言う動作だけで、ラウナは意識が飛びそうなほどのダメージを受けた。
形勢は一気に逆転してしまった…ラウナが圧倒的に不利な形勢へと。
「ガハハ!倒れないだけ凄えじゃねえか!」
「ぐ…」
ラウナは確かに倒れなかった…だが、もともと攻撃力が半端ではない上に、パワーアップしたグランの攻撃をまともに受けたのだ。
立っているのもやっとだった。
それでも、ラウナは戦う事を選ぶ…母国を攻撃し、多くの者を傷付けたデルーチ帝国を許す訳には行かなかったから。
ラウナは剣を握る手に力を入れ、グランに向かって走り出す。
一歩を踏み出す度に襲う激痛を、歯を食いしばる事で耐える。
「ガハハ!…根性のある女だ!」
しかし、痛みに耐えながら速く動くのは常人では出来ない。
明らかに速度の遅いラウナは、的としか言えなかった。
グランの持つ巨斧がラウナに向かって振り下ろされる。
そして……スドォン!と言う轟音が響き、土埃がその場を包んだ。
☆
「……ラウナ…?」
敵と味方の兵士が入り乱れている中を進んでいたソウマは、立ち止まり後ろを振り返った。
剣同士が弾ける音、土埃による視界の悪化、唸るような地響き…五感はそれらによって邪魔されている。
そんな中、ソウマは何かを感じて、口は自然とラウナの名を口にしていた。
まさか…ラウナが負けたのか?
嫌な考えが脳裏を過ぎる…戻るべきか、と言う考えまでもが頭に浮かぶ。
だが、その考えは直ぐに捨てた。
戻った所でそれは余計なお世話だ…ラウナが戦いへの介入を拒否したのは、自分自信の戦いだからだ。
邪魔をしてはいけない…それにラウナとは約束を…絶対に死なないと言う約束をした。
今はラウナの言葉を信じて進むしかない。
ソウマは再び前を向いて走り出そうとした…が、こちらにゆっくりと歩いてくる存在により、一歩踏み出した所で止まった。
「アラ…良い男!カイトの言った通りね」
戦争の場には相応しくない、白いドレスを纏った人間の女がそう言った。
手には西洋の長剣を持っている。
整っている顔の造りに、腰辺りまで伸ばした金色の髪、ドレスから覗く白く長い脚線美…
その女は一見、戦いの世界とは無関係にしか見えない…だが、女から発せられる殺気と戦うもの特有のオーラが、ただ者ではない事を証明していた。
「カイト?」
「アナタと同類だ…って言ってたわよ?」
「!」
同類…その言葉だけでソウマは理解した。
カイトと呼ばれるその者は…同じ龍の力を受け継いでいる異界者なのだと。
だが、気になる事があった。
女の言い方から考えるに、カイトとやらは自分の事を知っているようだ。
なぜだ?
異界者の事はラウナにしか伝えていない…無論、ラウナが口外するはずかない。
つまり…アヤセと接触した可能性が高いと言う事だ。
アヤセが情報を流したのなら、カイトとやらが自分を知っていても不思議はない。
「そうか…それで?アンタはそこを通してくれる気は?」
カイトと呼ばれる者に会わなくてはならない。
そして、次第によっては戦いになる事も有り得る。
ソウマの問いに、女はニッコリと可愛く笑いながら答える。
「無いわ…本当は殺すつもりだったけど、可愛いから私の玩具にしちゃう!」
「………なるほどな。全力で遠慮させて貰う」
まるで、本当に新しい玩具を与えられた子供のような、無垢な笑顔で女は答える。
そして、その笑顔に不気味さを感じ寒気が背筋を通り過ぎた。
ソウマは魔法ドラグーンを使い、天地以外の五本の剣を宙に浮かべる。
「わぉ…凄い」
「安心しな。これらが一斉に攻撃する事はない」
ドラグーンに込めている魔力は少量…浮かべる事が精一杯の量だ。
この戦いでドラグーンを使う気はない。
後に異界者との戦いが待っているのだとしたら、ここで魔力を消費する訳にはいかない。
ドラグーンは魔力消費が激しいのだ。
ソウマは両の手に握る日本刀『天地』の剣先を女に向ける。
「通させてもらう」
「クス…声も顔も私好み!私はシーアよ。アナタは?」
「……ソウマだ」
女、シーアは右手に握る長剣の刀身を口元に持って行き、赤く唾液の滴る舌でゆっくりと舐める。
その姿は妖艶で、かつ危険なオーラを醸し出していた。
「来なさい、ソウマ。私の玩具にして…あ・げ・る」
「お断りだ!」
ソウマは姿勢を低くし、素早くシーアの懐まで移動する。
強烈な速度で迫る刀身…だが、シーアはそれを長剣で易々と受け止めた。
交差する剣はギリギリと音を立てて、睨み合う。
その音は運命の歯車を狂わせるキッカケ…この瞬間、ソウマの長い…本当に長い戦いの一日が始まった。